【データに基づいての大宮のゲームレビュー】

2022 J2第19節 東京V 1-1 大宮


前節終了後、霜田監督の解任及び相馬新監督の就任を発表した大宮。

相馬新監督の就任から僅か2日、しかも就任前日に試合があった関係で、

リカバリーに追われ本格的なトレーニングをすることができない中で、

相馬新監督は一体どのような変化をチームにもたらすことができるのか。


大宮ファンにとって、いやJ2に関わる人間にとっては、大注目の一戦である。


【試合前プレビュー】

【前節(18節)終了時順位表】

画像

今節の対戦相手のヴェルディは、得点数リーグ2位、失点数リーグ1位タイとかなり大味な試合をする。

相手のペースに合わせて大味の試合になるのか、それともしっかりと自分達のペースで引き締めた試合になるのか注目である。


【直近5試合データ】

前節までの対戦成績

●長所対決

ヴェルディの攻撃(5試合中3試合で3得点)vs大宮の守備(5試合中2試合完封2試合1失点)

●短所対決

ヴェルディの守備(5試合で13失点)vs大宮の攻撃(5試合で4得点のみ(うち2試合無得点))



【スタメン】

フォーメーション図

フォーメーション図

時間がなかった中で、システムはそのまま継続し、選手だけ何人か抜擢するという、ある意味セオリー通りのメンバー構成。

抜擢された山田と奥抜に期待がかかる。



【試合展開】

監督が代わり、攻撃力のあるヴェルディ相手に大宮が立ち上がりどのように出るか注目であったが、

立ち上がりから引くことなく、積極的に前線からハイプレスをかける大宮。

今季の流れをここで変えたいという相馬新監督、そして選手スタッフの強い意志を感じる立ちあがり。


ボールは握られるものの、しっかりと球際は強くいき、ヴェルディにまともなチャンスを作らせずに悪くない内容。


この調子で徐々にリズムを掴めるかと思われた中、前半27分に自陣のビルドアップから三門パスを高い位置で石浦に奪われそのまま持ち込まれてシュート。

そのシュートがブロックに入った西村にあたってコースが変わり先制ゴールを奪われてしまう。

ヴェルディにほぼまともなチャンスを作らせていない中での非常に勿体ない失点であった。


勝てないチームの良くあるパターンは、こういった自滅からリズムを崩してズルズルといってしまうことだが、この日の大宮は違った。

失点しても決して意思消沈しない大宮は32分にサイドで入れ替わった柴山がカットインでミドルを放つ。

これは残念ながらミートせずGK正面に転がったが、しっかりと失点は引きずらずに切り替えて戦えている。


前半は両チームとも多くのチャンスは作り出せずに堅い試合となった。



ハーフタイムに相馬監督が修正をかけたのか、後半は更に前からインテンシティ高くプレスをかけにいく。

ヴェルディに自由を与えすに後半は一転、大宮ペースで試合は進む。


53分、高い位置ではめにいって縦パスを西村奪ったところを河田がダイレクトでシュート。

直後の55分に、こちらも小島の縦パスカットから河田がシュート。

良い守備からのチャンスが続く。


そしてその流れのまま、57分にビルドアップで茂木の縦パスに河田が抜け出し、河田からの絶妙なパスを奥抜がしっかりと決めて同点に。

相馬新監督に抜擢された奥抜がしっかりと結果を残す。


得点後は更に大宮がギアを上げる。

76分にポゼッションから、左サイドをえぐった泉澤のパスを受けた小島が1枚剥がしてシュートを放つが惜しくもクロスバー直撃。

77分には右サイドのスローインから矢島がヘッドでそらし泉澤が絶好のチャンスを迎えるもGKセーブ。

途中出場の泉澤を中心に大宮は猛攻を仕掛けるがあと一歩のところでゴールネットを揺らせない。


後半はすっかり意気消沈していたヴェルディであったが、終了間際にチャンスを作る。

途中出場の新井を中心に猛攻を仕掛け、

ラストプレーで荒井のクロスに小池がヘディングで合わすが、わずがに外れて試合終了。


勝点1を分けあう形となった。


基本スタッツ


↑支配率はほぼ5分だが、前半は圧倒的ヴェルディ、後半は圧倒的大宮のペースで試合が進んだ。



【大宮守備分析】

新監督がこの短期間でまず修正に着手できるのは守備だろう。

この日の大宮の選手の守備を見ていても、縦パスに対して強くあたり、自由を与えないというのは徹底されておりここは相馬新監督がテコ入れした部分だろう。


16分に端戸への縦パスに対して西村が後ろから強くあたりゴール前のFKを与えたり、

43分に西村が縦パスに対して後ろからスライディングをかましイエローカードを受けたりというシーンがあったが、

このプレーが最適かどうかはおいておいて、縦パスに強くいくというチームの方針と選手の気持ちが垣間見れたシーンだった。


勿論、縦パスに対して強く為に「強く当たろう」という精神論だけではなく、

強く当たる為に、前線からの強度の高いプレス及びコースの限定で後ろの選手がパスコースの的を絞り、物理的に縦パスに対して強く当たることができる仕組み化もできていた。


具体的に見ていこう。


ヴェルディは4-1-2-3でのビルドアップで大宮は4-4-2の守備。

かみ合わせ的には、ヴェルディ―のアンカーのところが浮いてしまう為、ずれが生じる。

一般論として数的不利なシーンが生まれては、守備側は的を絞れないので球際に対して強く当たることは難しい。


↑中盤で2対3の数的不利な状況が生まれると守備は的を絞れず強く行けない


大宮はそのズレを消すために、

2トップの守備がアンカーへのパスコースを消しながらセンターバックにプレス。

しかもこのプレスもコースを消すだけでなく、しっかりとスピード持ってボールホルダーに寄せて圧をかけることで、ボールホルダーの自由も奪いにいく。


そうなると、基本的に全て噛みあう仕組みとなり、

後ろの選手がしっかりとパスコースを予測して縦パスに対して強く行ける状況になる。


特に顕著になったシーンは後半。

53分、55分と立て続けに縦パスを中盤でカットしショートカウンターから河田がシュートまでいっている。



今までの大宮はまずは失点をしない為に、自陣でブロックを作り、とにかくスペースを埋めること=ゾーンを守る意識が強すぎたあまり、

相手のボールを奪うための守備や、相手の自由を限定することができていない、すなわちサンドバック状態になっていた。

だからこそ、失点こそしないものの、なかなかボールを奪えず、かつ押し込まれるのでボールを奪ったとしてもそこから攻撃する余力がない状況が続いていた。


今節の大宮はゴールをしっかりと守りながらも、ボールを奪うための攻めの守備ができるようになったのは、ゲームのリズムを相手に渡さないという意味でも、ボールを奪ってからの攻撃を考えても、非常に大きな前進だろう。


↓今節のヴェルディ戦と前節の琉球戦を比較しても、明らかに高い位置でボールを奪取したことが見て取れる


【第19節 大宮vsヴェルディ ヴェルディのボールロスト位置(=大宮のボール奪取位置)】

ボールロスト位置

【第18節 大宮vs琉球 琉球のボールロスト位置(=大宮のボール奪取位置)】

ボールロスト位置




【大宮攻撃分析】

攻撃は実際にはまだ本格的な改革にはテコ入れしていないと思うが、

明らかに攻撃の質が変わった。


前節までは、正直、個に頼ったいきあたりばったりの攻撃であったが、今回はポジションチェンジをしながらしっかりとボールを動かして連携で崩していくシーンも見られた。


これも、良い守備のおかげで、守備時に相手をはめ込む為にある程度コンパクトな守備陣形を敷いているので、ボールを奪った際に、一人一人の選手の距離感が近くなったことから、連携がうまれ良い攻撃をしやすくなったということはあるだろう。


これからしっかりとテコ入れをしていってどうなっていくか楽しみである。



【今後の展望】

今回は相馬監督が就任して時間がなかったことから、できたことは簡単な守備の整備と、選手抜擢による刺激、そして何よりも精神面のアプローチ。

ここで、しっかりと良い内容で勝ち点をとれたのは大きい。

また、抜擢された奥抜が結果を残したことで、今までチャンスがあまり巡ってこなかった選手達のモチベーションも上がり、結果としてチーム内の競争力の向上にもつながる。


監督交代ブーストがかかりそうな感じなので、ここからいよいよ相馬監督のやりたいことを浸透させていき、大宮が大きく変わることを期待したい。


大宮はここから大きく変わる―。


そんな期待を抱くには十分な一戦であったことは間違いない。