マリノスは昨年、前評判を大きくひっくり返す怒涛の躍進を続け、15年ぶり4度目の優勝を成し遂げた。
故松田直樹氏の大ファンであった私は、2002から2004年シーズン辺りまでほぼ全てのホームゲームを日産スタジアムで観戦。当時の3ステージ連続優勝時のマリノスと重ね合わせ、一人で感極まっていたのを覚えている。
ところが、マリノスはいくつかのウィークポイントを蔑ろにしたまま昨シーズンを終えたのも確かだ。
そして、そのうちの一つが2020年初の公式戦となるゼロックスで垣間見えた。多くの人は、9人連続でPKを外したことが印象に残っているかもしれない(まあサッカーだし、そんな事もあるさ)。
ただ現地で見ていて僕は、マリノスの2失点目がとても印象的に残っている。
マリノスは先制を許しながらも、FWマルコスのゴールで同点に追いつく。
そのわずか数分後の前半40分、こぼれ球を処理するためペナルティエリアを大きく飛び出したGKパクが、そのままDFチアゴにショートパス。
チアゴはこの時、相手ゴールに背中を向けた状態でボールを受けており、前方からは神戸FW古橋、後方から神戸FWドウグラスによって挟まれる形になっている。
それを察知したチアゴは、パクへリターンパス。
しかし、そのパスは途中で古橋にカットされ、そのまま無人のゴールに決められてしまった。
この場合、原因はチアゴの判断ミスと見られるだろうが、本当にそうなのか?
ハイライトを見ると、パクはリターンパスを受けるには、あまりにも角度がない位置関係にいる。それに、彼らほどの技術があればスペースでボールを受けて、そこから再び展開することも可能だったはずだ。
そもそも、自陣深くで相手ゴールに背を向け、前と後ろからプレッシャーを受ける格好になっている選手にパスを出すメリットはあるのか?
つまり、僕は「いかなる時もパスを繋ぐ」という哲学に、マリノスの選手達が囚われすぎていると感じる。そして、その選択肢も選手のその場の判断に任せている部分が多く、まさに“諸刃の剣”といった状態だ。
ここからは上記で述べていた点を踏まえて、この試合の1失点目をふり返る。
まずは、ハイライトの0分40秒あたりから見て頂きたい。
一体、このシーンのどこに問題があったのだろう?パクのトラップミスだろうか?
僕は違うと思う。そもそも、あそこでボールを回して得られるメリットが見当たらない。
自分はここも「いかなる時もパスを繋ぐ」という哲学の現れとみた。ここから相手のプレスを交わして、ビルドアップを行うのであれば選手同士の距離感はどうだ?逆サイドやプレスをかいくぐった後の展開が頭にあるか?
ましてや、この試合はDF畠中が前に行われたACLで負傷しており、急ピッチでDF伊藤が代役を務めている。彼には彼の良さがあり、畠中の代役をそのまま任すのはかなりの難題だ。
案の定と言うべきか、この試合はパスの選択肢を見つけることが遅くネックになっていたのは否めない。あくまでもタラレバだが、自分の考えとしては左利きであり、視野の範囲が広いだけでなく、サイズもあるMF扇原を一列後方に下げた方がゾーン1のビルドアップにおいては効果があったかもしれない。
続いて、今度はガンバ側からこの得点シーンを見てみよう。
https://www.jleague.jp/match/j1/2020/022302/live/#trackingdata
上記のリンクからJリーグ公式サイトでスプリント回数を見てみると、面白い考察ができる。ガンバの前線の選手のスプリント回数が多く、それも右サイドに寄っている。
Googleで「サッカー スプリント 速度」と検索すると、10〜30mを時速24kmで走ることとある。これを解りやすいように置き換えると、50mを7秒台前半以上の速さで走っていることになるのだ。
つまり、スプリントはサッカーという90分間を流れの中で行うスポーツにおいて、限られた局面でしか使われないことがわかる。
それらを踏まえ、ガンバ側はあらかじめ前述したマリノスの弱点を見抜いており、対策をこうじた上でそれが上手くハマったシーンだと、私は読みとった。またプレスの仕方も、ただ速いだけでなく、人とパスコースの両方を視野に捉えているように見え、規則性のある連動もしている。
そして仮に、パクが上手くボールをコントロールできていたとしても、MF遠藤がスペースを消しながら、パスコースを予測してプレスをかけており(0分44秒あたり)、一部の選手たちだけでなくチームとして狙いがあったことが解る。
まとめると、ガンバの狙いを持ったプレスが、マリノスの選手たちから“選択肢”を奪い、結果としてミスを誘発させたと私は考えた。
もちろん、一つのプレーからその試合を語ることは難しい。
ただ、このような相手を分析した上での狙いを持ったプレーからは、そのチームの意図が読み取れる。そして、それを補填できるデータがあれば、サッカーの見方が大きく変わっていくはずだ。
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