こんにちは、ユースケ@サガン鳥栖です。

いつもはnoteに考察などまとめているのですが、個別の試合レビューはあちらでは扱うつもりはないので、今回初めて「SPORTERIA」さんで書かせていただこうかと思います。

分析には結構時間をかけてしまうタイプなので毎試合は無理かもしれませんが、ご興味あれば今後ともお付き合いいただけると幸いです。

では早速、開幕戦をレビューしていきましょう。

フォーメーション図フォーメーション図

蓋を開けるとまさかのミラーゲーム、明輝&片渕コンビとんでもない策士です笑

今年はキャンプ情報がほとんど手に入らなかったので、鳥栖サポ界隈でも誰も予想できなかったのではないでしょうか?監督もインタビューで話してましたが、狙いとしてはとにかく湘南の良さを消すことを第一に考えたようです。今シーズンは自動降格4チームという非常に厳しい戦いになるので、開幕戦しかもアウェイでリアリスティックな戦術を取ったことは良く理解できます。

正直内容の良い試合だったとは思いませんが、勝負に徹して結果として勝ち点3を得ることができたので何の文句もありません。


■なぜ明輝監督はこのシステムで挑んだのか?

湘南は強度の高い前プレを仕掛け、奪ったあと空いているスペースへ素早くボールを供給しショートカウンターで攻め切るのが基本戦術です。対して、鳥栖はというと4バックでSBが高い位置を取りビルドアップするのが基本戦術なので、湘南としてはボールを奪ったあとこのSBの裏のスペースを突くつもりだったはずです。

そこで明輝監督は、そこを突かれないようにするため守備時に3バック+両WBで5バック気味にしカバーリングの移動距離を短くすることでそのスペースを素早く埋めやすいシステムを選択しました。

両チーム全く同じ3-3-2-2を採用しミラーゲームとなったこの試合はいかに両WBに高い位置を取らせ相手WBを下げさせるかが主導権を握るポイントなわけですが、その方法論に違いがありました。

湘南は守備時から両WBが高い位置をとり連動した前プレで奪いショートカウンターを狙う。鳥栖は守備時はそこまで前からではなくある程度ブロックをセットして奪い、そこからビルドアップしながら両WBを押し上げようとする戦術を取りました。

両チームのデータで確認してみましょう。まずは「パスソナー・パスネットワーク」の図です。

パスソナー・パスネットワークパスソナー・パスネットワーク

3CB+両WB5選手のパス数を比較してもらえるとわかりますが、鳥栖の方が多いですよね。ビルドアップでのパス交換が多かったことがうかがえます。

つぎに「エリア間パス」の図。

エリア間パス図エリア間パス図

湘南は高い位置かつ縦方向へのパスが多い。インサイドハーフの二人もサイドに流れ、徹底的にここを突いてくるので必然的にこういう図になります。鳥栖はというとアンカーとインサイドハーフがビルドアップに絡むので横方向へのパスも多く見られますよね。パス交換の多いエリアも湘南と比べて全体的に低い位置です。


■実際の試合展開はどうだったか?

まず前半。鳥栖としてはまだ成熟してない不慣れなシステムだったことと開幕戦の固さもあってか序盤ビルドアップ時にミスが出て、高い位置で奪われいきなりピンチを迎えました。

湘南としてはクロスバーに当たった際どいシュートを打てたことで選手たちから固さが取れたように見えましたね。そして鳥栖側からみるといきなりピンチを迎えるわ風下でクリアもしっかりできなくなるわで完全に主導権を握られてしまいました。

その後、何度もビルドアップで湘南のプレスをかいくぐろうと試みますが、ことごとく網にかかり中々前半は打開できませんでした。ただ守備面では中央をしっかり閉め粘り強く守ることができたので、そういう意味では狙いは上手くいったんじゃないかと思います。この前半を0で抑えることができたのは大きかったですね。

そして後半ですが相変わらずビルドアップが上手くいかず、押し込まれる展開は変わらず。むしろ3バックの脇に蹴り込み林が流れてキープして起点を作る方がよっぽどチャンスになりそうでしたが、実際はどうしようもなくなった時に蹴るぐらいでしたね。

むやみやたらに蹴ってるとスタミナを大量消費しますから、前に中々行けないものの我慢しながらポゼッションを貫きボールを保持し、守備の時間を短くすることでスタミナを温存したのは良い判断だったと思います。先制できたので良かったですが、あのまま0-0が続くようなら最後の方は蹴ってたかもしれませんね。

で、その先制点のPKを得るまでのシーンですが、中野が石井に鋭い縦パスを入れて松岡に落とす。松岡⇒樋口⇒飯野と繋いでPK獲得という流れ。70分くらいから疲労で湘南のプレスが緩みはじめたことで、徐々にボール保持エリアが押し上がり右サイドの樋口と飯野が高い位置を取れはじめました。

そこにタイミングよく中野、石井、松岡の3人が左で起点を作って素早く右サイドに展開できたのが良かったですよね。この試合唯一と言っていい程の素晴らしい飛ばしの縦パスが刺さりました。

湘南がそろそろ交代しようかとしていた矢先でしたので本当にギリギリでしたね。先に交代されていたら強度の高いプレスが息を吹き返し、また押し込まれてたかもしれません。

この交代のタイミングが最終的に大きな勝負の分かれ目になったと思います。


■そして試合は逃げ切りの局面へ

鳥栖はサイドのスペースを徹底的に狙われ続けたわけですが、湘南はそれ以外の攻撃方法に乏しく段々と慣れてきたこともあって中央でソッコとエドゥが跳ね返し続けました。これが中央突破を織り交ぜてきたり左CBの中野とのマッチアップに空中戦に強い選手を当ててこられたら、もっと守るのが難しかったと思います。

先制後、鳥栖は酒井に変えて左のCBに田代を投入。中野をWBへ上げました。先ほど述べたミスマッチを防ぐためですね。もうここからは完全な逃げ切り態勢。鳥栖サポとしては懐かしさすら感じる5バック3ボランチの鉄壁布陣です。田代・エドゥ・ソッコの中央は迫力ありますね。空中戦は完全にシャットアウトです。さらに島川、豊田を投入し守備を盤石なものにして試合終了。なんとか逃げ切りました。


■上手くいかなかったビルドアップについて

肝心のビルドアップですが、既存選手と新加入選手の間で判断スピードに差があったように思えます。特に酒井なんかはボールサイドに中野、松岡、仙頭が寄ってくるので相手選手も集まり密集し、プレイエリアが狭く窮屈そうでしたね。

中野(黄)酒井(緑)仙頭(橙)に色分けしプレーエリアを重ねてみました。やっぱり窮屈そうです。

この密集の中、判断スピードを上げてボールを回し相手を引き付けて逆サイドとかに展開できるようになるといいんですが、まだ初戦なのでそこまでのプレーは難しいでしょうね。他の新加入選手にも言えることですが、徐々にサガン鳥栖のポゼッションに慣れてくれればいいんじゃないでしょうか?

今度は右サイド。ソッコ(黄)飯野(緑)樋口(橙)です。右サイドは樋口がそこまで飯野に寄っていかず程よい距離感でプレー出来てますね。ただ樋口の場合は降りすぎてソッコとプレーエリアが被ってしまってます。(パスを受けに降りたというより守備で下げさせられただけかもしれませんが)

この試合、両チームのサポ以外はあまり面白い試合ではなかったかもしれませんが、個人的には両監督の腹の探り合いや采配の妙など見どころでした。今シーズンは内容よりも結果を求めていくことに全く異存はないので、これからも明輝監督と片渕コーチのコンビに期待しています。

何にせよこの勝ち点3はとても大きいものでした。

それではまた。