【鶴舞う国の知将】岩上祐三選手がJリーグ通算300試合出場を達成した。

J1で107試合J2で193試合、12年目にして大記録を樹立した。


岩上選手はストロングポイントにあふれた選手だ。一気にチャンスを作り出すロングキックや、セットプレー・ロングスローといった飛び道具、闘志あふれる球際の強さ、地元の前橋育英高校出身というのもアピールポイントだ。

その中でも一番の魅力は、自身のストロングをどのポジションでも発揮できるサッカーIQの高さにあるのではないか。

なんと岩上はCBとGK以外のすべてのポジションでスタメン経験がある。これだけポリバレントな選手も珍しいだろう。


参考

Football LAB 岩上祐三


節目となる300試合目はそんな岩上祐三をぎゅぎゅっと詰め込んだ試合になった。

先発でボランチとして出場、後半からは右サイドバック、70分からは右サイドハーフに移動し、ピッチの各地でチャンスメイクの役割を果たした。3ポジションを移動したためヒートマップがすごい形になっている。

本記事では岩上のポジションに注目しながらザスパの攻撃を振り返っていく。


ヒートマップ - 岩上 祐三


ボランチ岩上祐三


前半は風下のサイドだったザスパ。

冬期の正田醤油スタジアム群馬には群馬特有のからっ風が吹き、パスは伸びず、金沢に押し込まれる展開となった。

パス位置を見ると、金沢が高い位置でパス交換をしていることがわかる。



エリア間パス図エリア間パス図



しかし、風読みという点では群馬にホームアドバンテージが感じられた。

前半20分にはセカンドボールの取り合いから岩上が相手GKとCBの間にロングパスを供給、【新・ミニ四駆】加藤潤也とGKが1対1になる絶好機を作り出した。


群馬に長く所属している土地勘が生み出した、岩上と加藤のコンビネーションだった。

攻撃スタッツ - 加藤 潤也


右サイドバック岩上祐三


後半は風上に立った群馬。追い風を味方につけたい群馬はMF風間宏希を投入。岩上は右サイドバックに移動。ロングパスに定評のある選手をマシマシし一気呵成を狙った。


54分には岩上のボール奪取からCKを獲得するなど可能性をみせるが、この作戦は不発に終わる。

というのも、金沢は63分にスプリントに定評のある大谷を左サイドハーフに投入。

岩上は大谷に対してうまく対応するものの、大谷ケアのために高い位置を取れず、彼のストロングを活かしづらい状況になってしまう。


攻撃スタッツ - 大谷 駿斗ゴール期待値

↑大谷投入からしばらくはシュートを打てていない図



右サイドハーフ岩上祐三


追い風を活かせない展開が続くザスパ。

そこで71分、大槻監督は右サイドバックとして【最終ラインの反逆児】川上優樹を投入。岩上は一列あがってサイドハーフに移動した。


川上は184cmという高身長で、空中戦の強さが武器。2020年にセンターバックとして明治大学から加入、将来を期待されている選手だ。

CBタイプの川上をスプリンター大谷の前に置いて大丈夫か?と疑問に思ったが、どうやらこれは攻撃的な狙いだったようだ。


ヒートマップの通り、川上はサイドバックとして高い位置を取り、内側のレーンでもプレイした。試合終了間際には、左サイドからのクロスに飛び込むシーンも。184cmの巨躯に誰が競り合えばいいのか、相手にとっては悩ましい場面だっただろう。


この川上のポジショニングを可能にしたのが岩上のボールさばきだったように思える。

岩上はサイドハーフとしては低めの位置でボールを受けると、ボランチやCBにパスを散らす。岩上はボールロストやパスミスが少ない選手なので、川上は安心して攻め上がることができる。

そして川上が攻め上がることで、相手の左サイドも下がらざるを得なくなり大谷を主体とした攻撃力も低下する。


攻守の狙いをもった興味深い選手交代であった。



攻撃スタッツ - 川上 優樹ヒートマップ - 川上 優樹




まとめ


以上、岩上を中心にザスパのチャンスメイクを振り返っていった。300試合出場を象徴するように、3つのポジションで任されたタスクを遂行。まさに【鶴舞う国の知将】にふさわしい活躍といえよう。

シュート5本(枠内3)で無得点と寂しい結果に終わった本節だが、川上のSB起用など次節以降の可能性を感じさせる内容だった。なにより開幕からの無失点が継続したのはうれしいことだ。

シーズンは長い。42試合のなかでうまくいかない時や苦しい時もきっとくる。長い一年を戦い抜くうえで、経験豊富な岩上祐三は欠かせないピースになるだろう。