人間の判断力は無限ではない。

心理学研究では、判断を繰り返すたびに、判断の正確性が下がることが報告されている。例えば、メジャーリーグの審判は試合開始時よりも試合終了時のほうが判定ミスが多い、ということが知られている。


サッカーは90分間、認知と判断を繰り返すスポーツ。

試合が進むにつれ、体力とともに判断力も低下していく。

つまり、相手が判断に困るプレーを繰り返すことで、早めに相手の判断力を枯らし試合を有利に進めることができる。


直接CKというレアゴールで勝利したザスパだったが、この試合はデザインされたセットプレーで岡山の守備を何度も混乱させていた。

セットプレーのジャブが積み重なった結果、相手のミスを呼び込んだと捉えることもできる。


では、この試合ザスパはどんなセットプレーをしていたのかを振り返っていく。


基本スタッツ



敵陣でのFK・CK・スローインについてまとめていく。状況が分かりやすいように、右サイドと左サイドの順で紹介する。


まずは右サイド。

右サイド

  • 4分:スローイン(小島)。田中が裏に抜ける。その田中に投げ入れる。
  • 15分:CK(岩上)。ニアの城和を狙う。
  • 20分:FK(岩上)。中央に放り込む
  • 47分:スローイン(小島)。早いボールで後ろに投げる。
  • 52分:スローイン(小島)。ロングスローとみせかけ岩上に投げる。岩上がクロス
  • 54分:スローイン(小島)。岩上が裏に抜ける。その岩上に投げ入れる。
  • 54分:スローイン(小島)。ロングスローでニアの平松に投げ入れる。
  • 55分:スローイン(小島)。田中と平松が同時に裏に抜ける。平松に投げ入れる。
  • 55分:スローイン(小島)。裏を取った田中に投げ入れる。
  • 55分:スローイン(小島)。クイックリスタート。裏に抜けた平松に投げ入れる。
  • 77分:スローイン(小島)。裏を取った奥村に投げ入れる。奥村はすぐ戻し小島はクロス
  • 81分:FK(岩上)。右サイド奥の小島にロングボール



ロングスローや偽装ロングスロー、岩上の動きなどデザインされたプレーが目立つ。

特に、52分-55分の小島の連投と周囲の連携は圧巻だ。ロングスローとクイックリスタートを使い分けている。

狙いの異なるプレーを連発し、相手を困らせていたといえるだろう。


攻撃スタッツ - 小島 雅也



続いて左サイド

左サイド

  • 2分:FK(岩上と山中)。山中がまたぐ。しばらくしてから岩上が中央に放り込む。
  • 3分:スローイン(山中)。PA内の平松に投げ入れる。
  • 10分:スローイン(山中)。DFを背負う山根に投げ入れる。
  • 17分:スローイン(山中)。加藤が山根の背後に抜け出す、その加藤に投げ入れる
  • 24分:CK(岩上と山根)。山根がキッカーを岩上に譲ってボールから離れる。その山根にショートパス
  • 24分:スローイン(岩上)。ロングスローと見せかけ近くの山中に投げる。山中が岩上に返し、岩上が中央にクロス
  • 27分:スローイン(山中)。平松が山根の背後に抜け出す。その平松に投げ入れる。
  • 32分:スローイン(山中)。内田が山根の背後に抜け出す。その内田に投げ入れる。
  • 34分:スローイン(山中)。加藤が山根の背後に抜け出す。スペースができたので山根に投げる
  • 45分:スローイン(山中)。山根が降りてくる。山根の前のスペースにボールを投げる。
  • 67分:FK(岩上と山中)。岩上がニアに放り込む
  • 71分:CK(岩上)。ニアに蹴りこむ。平松の頭上を越え、直接ゴール
  • 75分:スローイン(山中)。裏を取った山根に投げ入れる。
  • 76分:CK(岩上)。ファーに高いボールを放り込む


左サイドのスローインは山中が中心となっている。

注目してほしいのは、スローインの際に背後を取る選手のバリエーションの多さだ。

2トップの平松加藤はもちろん、ボランチの内田が背後を取るパターンもある。

背後を取った選手を使わないパターンも考えると、あまりの選択肢の多さに相手DFは困ってしまうだろう。


攻撃スタッツ - 山中 惇希


そして、24分のCKとスローインは決勝ゴールへの布石となっている。

このCKでは、キッカーを譲った山根にショートパスという変則的なショートコーナーを行った。

その後のスローインでは、偽装ロングスローで実質的にコーナーキックのようなクロスをあげている。

スローインのようなコーナーキックをした直後に、コーナーキックようなスローインをしている。

書いているこちらが混乱するほどの工夫がこらされている。


直接ゴールを決めたCKのシーンをみると、岩上が蹴る直前に加藤が数歩寄っていくのがわかる。

群馬はここまで散々デザインプレーをしてきた。

この時、岡山のGK(金山)の頭には多くの可能性が頭をよぎっただろう。例えば…

  • ショートコーナー:加藤がクロスをあげる
  • ショートコーナー:加藤が戻して岩上がクロスをあげる
  • ショートコーナー:ペナルティアーク付近にいる内田に戻してミドルシュート
  • 早いボールでニアの平松を狙う
  • 中央の城和や田中を狙う
  • 高いボールでファーに走った畑尾を狙う
  • 目の前に立って視界とスペースを奪う山根が邪魔

などだ。


岩上のボールは、ニアの平松を狙うには高く、中央を狙うには曲がりすぎな”ファジー”なボールだった。

予想外の軌道に虚を突かれて、判断が一瞬遅れた。その結果ボールを掻き出せなかったのではないだろうか。


たしかに、ラッキーなゴールだったかもしれない。

ただ、選手・スタッフの入念な準備や工夫があるからこそ、つかみ取れたラッキーと言えるだろう。

セットプレーという名のジャブで注意力を削ぎ取り、貴重な得点と勝ち点3を手に入れた。




最後に大槻監督のアライバルインタビューを紹介する。

『小さな部分でゲームが動き、隙を突き合うゲームになると思う』

まるで予言のような試合展開となった。

一見試合に影響しないようなほんの数歩の駆け引きが積み重なって、大きな違いを生み出した。

細部に神が宿る。勝利の歓喜と同時に、大切なものが身に染みてくるような試合だった。