J1では8年ぶりの逆転劇に

 今節唯一の土曜日開催となった試合。ヴィッセル神戸がアウェイで北海道コンサドーレ札幌に対し3点のビハインドをはね返して、4-3で勝利し3試合ぶりの白星を挙げた。

 なお、J1の試合で3点差を逆転したのは2013年に浦和レッズが大分トリニータを相手に勝利して以来8年ぶりの出来事である。一方の札幌はアンデルソン・ロペスが2シーズンぶりのハットトリックを達成するも後半に守備が崩壊。4試合勝利なしとなった。


前半完璧な戦いぶりを見せた札幌

 ともに中2日での戦いとなった中、前半に試合の主導権を握ったのは札幌だった。持ち味であるマンツーマンでの激しいプレッシングで神戸のビルドアップを完全に封じ、高いラインを保ちながらセカンドボールを多く回収して押し込んだ。神戸は札幌のプレッシングに苦しみ、攻撃に形が作れず、チャンスといえたのは23分に札幌キム・ミンテの横パスをカットした藤本憲明がロングシュートを放ったくらいだった。

 押し気味に試合を進めた札幌だが、前節の浦和レッズ戦同様にフィニッシュの精度を欠いた。39分にはルーカス・フェルナンデスのクロスにファーサイドでフリーとなったチャナティップがボレーシュートを狙うも枠を捉えることができず。ゴールが遠い展開が続いた。

 そんな中、試合が動いたのは44分。札幌がショートカウンターを発動。鋭い切り替しで酒井高徳を交わしてエリア内に侵入したルーカス・フェルナンデスが佐々木大樹に倒されて札幌がPKを獲得。これをアンデルソン・ロペスが冷静に沈めて待望の先制点を奪う。さらに前半のアディショナルタイムには右サイドからのルーカス・フェルナンデスのフリーキックから福森晃斗が倒されて再びPKを獲得。これをまたしてもアンデルソン・ロペスが決めて2点のリードを奪って前半を終えた。

 マンツーマンのプレスとハイラインで相手を押し込んで相手には攻撃の機会を与えない。試合後ペトロヴィッチ監督が「前半は完璧だった」と振り返ったようにまさに札幌がやりたいことが具現化された45分間であった。

 後半の開始直後にも右サイドからルーカス・フェルナンデスのクロスをアンデルソン・ロペスが合わせて3点目を記録。サッカーにおいては2-0でのリードが危険であるというのはよく言われることだが、その意味を理解して後半に臨んだかのような速攻で3点目を奪ったことでこの試合の勝敗は決したと多くの人が思っただろう。


札幌の疲弊と混乱から生まれた神戸の逆襲

 神戸は攻撃の形が作れていなかったことから変化を加えるべく、ハーフタイムに藤本憲明に替えて中坂勇哉を投入。後半の開始早々に出鼻をくじかれる格好となったが、選手たちは逆に点を取りに行くべく前への圧力を強めた。

 その効果が出たのが53分である。途中出場の中坂勇哉が左サイドを抜け出してマイナスのクロスを送る。これをフリーとなっていた山口蛍が右足を振りぬいて1点を返す。このゴールからさらに圧力を強めた神戸に対し、連戦の疲労から動きが重くなり、前へとボールが運べない札幌という構図となった。

 そして57分最終ライン右でボールを受けた札幌の田中駿汰に対し神戸の選手たちがプレスをかけてパスコースを寸断。ゴールキーパーへのバックパスへと追い込むと、このパスが短くなり古橋亨悟がボールをカット。飛び出してきたゴールキーパー中野小次郎を交わして角度のないところから冷静に流し込んで1点差に迫った。疲労に加えてミスからの失点でリズムを失った札幌は完全にパニックに陥った。

 後半の神戸は前線の選手のスピードと札幌の最終ラインとゴールキーパーの間のスペースを突くべく札幌の田中駿汰や宮澤裕樹の背後を狙い続けた。ゴールキーパーの中野小次郎の飛び出しが不安定だったこともあり、札幌の脅威となっていた。

 66分に神戸の狙いが見事にハマる。ボールを受けた増山朝陽が浮き球のスルーパスを送ると、佐々木大樹が抜け出す。飛び出してきた中野小次郎に倒されて神戸がPKを得たのである。このPKを古橋亨悟が冷静に沈めてついに同点に追いついた。

 その後も神戸のペースで試合が進んでいく。札幌は高嶺朋樹や青木亮太を投入して流れを取り戻そうとしたが、神戸の激しいプレスの前に攻撃の形が作れず、前半札幌がやっていたことを後半逆に神戸がやっていたという印象だ。

 そして86分、右サイドから佐々木大樹がドリブル突破を開始。宮澤裕樹とキム・ミンテを交わしてエリア内に侵入すると、マイナスの折り返しに山口蛍がダイレクトで決めてついに逆転に成功したのである。このままリードを守り切って神戸が3試合ぶりの白星をつかんだ。


まさに天国と地獄の両チーム

 まさに両チームは前半と後半で天国と地獄を味わったような内容だった。この試合を勝利した神戸にとっては後半アディショナルタイムに追いついた前節の川崎フロンターレ戦に続いて勢いがつくような劇的な展開に。札幌にとっては開幕戦以来となる複数得点を挙げたものの大きなショックが残る試合となった。まだ6節の段階ではあるが、神戸はこの勝利で上位陣に肉薄し、札幌は残留争いに巻き込まれる可能性が出てきた。この試合が持つ意味は次節以降の両クラブの戦いぶりにかかってくる。