1、前置き


 1-3というスコア。ホームでの敗戦が多く、前半戦最終節で、後半に向かて、イメージを変えたかったホームでの試合であったが、甲府の狙いの前に屈した事で、そういったスコアとなってしまった。いつもは、岡山にフォーカスを当てるが、今回は、「甲府型3バック」にフォーカスを当てて、「岡山型3バック」との違いなどを確認して行く中で、3バックのシステムについて、考察していきたい。


2、甲府型3バックの基本


パスソナー・パスネットワーク

パスソナー・パスネットワーク(甲府)

 まず、データを見た時に、感覚とデータに開きがあったことがある。それは、両WBからアーリークロスという認識であったが、右WBの23関口 正大は、高いポジション取りをする事を1つの狙いにしていた事がこのデータから判明した。それは、23関口 正大のパスが後方に集中しているからである。

 また、甲府型3バックは、データを見ての通り、左WBの17荒木 翔に集めて、アーリークロス、サイドチェンジ、ロングパスを前線に配給していくというのが、甲府型3バックの狙いである。そして、左斜め上にパスが出ているので、サイドのスペースの奥を使う意図がある事も分かる。

 通常の3バックは、中盤の厚みを活かして、ポゼッションを高めて行くが、前線の3人のパス数の少なさが示している通り、パスを繋ぐのではなく、セカンドボール、サードボールの回収からの偶発的な崩しを意図している事が分かる。

「この図のポイント」
・左低右高の形が見えるパス方向。
・17荒木 翔にボールを集まっている。
・17荒木 翔のパス方向に左斜め上にもある。
・前線の3人のパス数が少ない。


3、デザインされたポジショニング


時間帯別パスネットワーク図

時間帯別パスネットワーク図(甲府)

 パス方向だけでも分かったが、23関口 正大のポジションの高さが際立った平均ポジションとなっており、WBの左低右高の形が、そのままデータとして現れている。

 これは、左WB17荒木 翔のアーリークロスやロングパスが、配給された時に、流れた場面まで想定している。セカンドボールを前線の選手が、回収して、高い位置から攻撃のアクションを起こす中で、個人技と連携によって、崩すというチームの狙いに加えて、流れた時もそこからも仕掛ける(崩す)狙いもある事が、データを見る事で、再確認できた。

 また、39泉澤 仁が、左サイドレーンの奥のスペースを使う傾向にある。良く見てみると、右サイドレーンを23関口 正大が活用し、センターレーンを10ウィリアン・リラと18鳥海 芳樹に加え、16野津田 岳人と6野澤 英之が、担当している。

 このように、左右のサイドレーン、センターレーンを活用するというピッチを広く使うことで、バイタルエリアで、良い形でボールを持つことが甲府は、可能としていた。

 また、後方で、8新井 涼平の上下動で、ボランチのように中盤の組み立てに関与する事で、4バックのようなビルトアップをする事もあった。守備のケアという目的もあるかもしれないが、40メンデスと3小柳 達司に、後方に残しつつ、チームのバランスを取っていた事が分かった。

「この図のポイント2」
・各レーンを活用する意図が見えるポジショニング。
・ボランチ2枚が状況に応じて高い位置で攻撃に関与。
・サイドに1人という状況を意図的に作り、中で勝負。
・8新井 涼平が、上下動する事で、後方のバランスを保つ。
・中盤の組み合わせは、流動的だが、サイドを使う選手は、固定。
・役割分担が徹底された平均ポジション。


4、甲府型3バックの核となる選手


攻撃スタッツ - 荒木 翔

攻撃スタッツ(17荒木 翔)

ヒートマップ - 荒木 翔

ヒートマップ(17荒木 翔)

 チームトップのパス数。パスを集めて、ここから攻撃を方法を選択している。通常は、ボランチの選手が、この役割を担う事が多いが、WBである17荒木 翔に任せる事で、寄せに行き辛い状況を作る。また、運ぶのではなく、展開するという攻撃を主体にしている以上、マンマークで、自由を制限しない限りは、前線に展開されるという状況を作ることが容易にできる。サイドであるため、2人以上で対応する事も難しく、高い確率で、前線に配給できる。

 ヒートマップを見ても、そこまで高い位置に上がっていない中で、この数字が示す通り、アーリークロスの選択をすることが多かった。司令塔でありながら、サイドの選手である。視野を狭く集中する事と、選択肢が狭い事で、迷いなくプレーできる。まさに、サイドの特性を生かした甲府型3バックの核となる選手と言える。


守備スタッツ - 新井 涼平

守備スタッツ(8新井 涼平)

ヒートマップ - 新井 涼平

ヒートマップ(8新井 涼平)

 CBでありながら、ボランチのような位置でのプレーしていた事が分かるヒートマップ。攻撃時には、変則的な4バック、守備時には、3バック(5バック)もしくは、変則的な4バックを形成。状況に応じて、中央でバランスを取っていた事が分かる。

 また、両ボランチが高いポジションを取る事が多く、その背後のスペースケアや、守備のリスクを小さくするために、クリアの数も多くなった。


攻撃スタッツ - 関口 正大

攻撃スタッツ(23関口 正大)

ヒートマップ - 関口 正大

ヒートマップ(23関口 正大)

 高い位置でのプレーが中心。後方のスペースが突かれる心配があるが、それも織り込み済み。クロスが配給され易い逆サイドには、長身CBの40メンデスを配置する事で、備えていた。

 また、秋田のサッカーを思い出すが、甲府は、高い位置にポジションを取る23関口 正大にパスを通す形も1つの狙いで、どんどんクロスを入れてくる。2得点目もこの形から生まれた。


攻撃スタッツ - 泉澤 仁

攻撃スタッツ(39泉澤 仁)

ヒートマップ - 泉澤 仁

ヒートマップ(39泉澤 仁)

 シャドーストライカーというよりは、もはやWG。17荒木 翔の代わりに、左サイドレーンの高い位置を中心にプレー。ここにポジション取りをする事で、右サイドの守備と攻撃にプレッシャーをかける事で、左サイドでの主導権を握る。

 一方で、相手チームが、リスクを冒して攻め上がったサイドのスペースを使う事で、得点を重ねて来た。23関口 正大からのパスや、センターレーンに絡む中盤の選手のパスなどから、フィニッシャーとして、パスが集まる。

「甲府のキープレイヤー」
17荒木 翔:攻撃の始点であり攻撃を指揮する左サイドの司令塔
8新井 涼平:後方の中央のスペースをケアする守備のバランサー
23関口 正大:右サイド深くでチャンスメークする攻撃の元気印
39泉澤 仁:左サイド深くの空間を存在で支配するフィニッシャー


5、詳細ポジションで見る攻防


自作図

 平均ポジションを整理するとこういった構図となる。岡山としては、左サイドの深い所を積極的に活用したかったが、23関口 正大や18鳥海 芳樹の対応に追われた事で、なかなか突くことができなかった。

 甲府は、17荒木 翔の所から素早く前線に長めのボールを配給していた事で、岡山の選手のスタミナを消耗させた。岡山としては、大事にボールを運んで、ゴールに迫っていた事で、支配率こそ高くなったが、1つのミス、または、ボールロストすると、早い展開で、自陣に戻される事を繰り返した。

 こうしてみると、コンサドーレ札幌のミハイロ・ペトロヴィッチ監督の5トップに近いが、両WBが高い位置を獲るのではなく、シャドーの選手が片翼を担う事で、変則的かつ綿密な役割分担が徹底された組織的で、複雑な約束事で整理された3バックであることが分かる。


6、岡山の誤算


攻撃スタッツ - 徳元 悠平

攻撃スタッツ(41徳元 悠平)

ヒートマップ - 徳元 悠平

ヒートマップ(41徳元 悠平)

 SBのように低い位置でのプレーが多かった41徳元 悠平。深い位置に侵入した時に、クロスを配給したかったが、まさかの0本。甲府に、高い位置まで押されていた事と、パスを選択するように誘導する守備の対応を、対峙する選手と中の選手で、しっかりされていた事が分かる。


ヒートマップ - 喜山 康平

ヒートマップ(6喜山 康平)

ヒートマップ - 白井 永地

ヒートマップ(7白井 永地)

 これは、岡山のボランチ2枚が、良く走ったと言いたくなる所だが、走らされた事を示すデータ。甲府のピッチを広く使った攻撃と、早い展開により、色々な対応が迫られた。狙いを絞りたいが絞れない。

 甲府の変則的な攻撃の前に、自分達のサッカーをして、甲府を制限したかったが、受動的な時間や難しい対応が多く、攻守で忙しかった事を示している。

 ここ数試合で、これだけ均等になったヒートマップは、久々。それだけ、岡山のしたいサッカーは出来ていななかった。


ヒートマップ - 川本 梨誉

ヒートマップ(20川本 梨誉)

ヒートマップ - 上門 知樹

ヒートマップ(14上門 知樹)

 2列目や1.5列目に近い位置でのプレーが多いヒートマップ。終盤の押し込んだ時間帯があったので、14上門 知樹は、ゴール前でのプレーが増えたが、20川本 梨誉は、なかなかゴール前でプレーできなかった。もしくは、あまりボールに触れなかった。そういった事を示しているデータ。

 もう少し高い位置で、クロスを呼び込みたい所ではあるが、高さが無い分スペースがなければ、アーリークロスやクロスを選択し辛い。セカンドボールやサードボールを、岡山の選手が拾えず、甲府の選手に拾われる事が多かった。

 前線の深いペナルティボックス内への侵入回数の少なさが、クロスの少なさや、シュート機会を演出できない展開が、続いた。

「岡山の誤算」
・前半に、左サイドの深い位置に侵入がなかなかできなかった。
・前半に、左サイドからのクロスの配給をあまりできなかった。
・受動的な守備の対応に追われた事で消耗した中盤。
・FWが高い位置でプレー出来なかった事で、パスを呼び込めなかった。


7、岡山の希望


攻撃スタッツ - 齊藤 和樹

攻撃スタッツ(18齊藤 和樹)

攻撃スタッツ - 木村 太哉

攻撃スタッツ(27木村 太哉)

 甲府の10ウィリアン・リラと40メンデスが下がった事で、甲府の守備の高さと、前線のターゲットが不在となった事もあるが、この2選手が、投入されてからは、サイドから攻撃を仕掛ける事ができていた。27木村 太哉は、MFらしくクロスやラストパスでのチャンスメーク。18斎藤 和樹は、FWらしくシュート2本を放ち、存在感を魅せた。

 20川本 梨誉と14上門 知樹の2トップ(1トップ)のファンタジスタシステム(中央を経由するぽセッションチームに対して、中央を制限し、技術のある選手を中央に集めて、そこから連携と技術で得点を狙う。)との関係性を含め、新たな攻撃の選択肢が、広がる。


攻撃スタッツ - 喜山 康平

攻撃スタッツ(6喜山 康平)

攻撃スタッツ - 白井 永地

攻撃スタッツ(7白井 永地)

 縦横無尽に走り回った2選手。主体的に、動く事はできなかったが、攻守でハードワークする中で、攻守での存在感を放った。主体的に動けた方が、受動的なサッカーの中でも、ラストパスやクロスで、チャンスメークできる辺り、この2選手の総合力を感じる。

 ボランチは、岡山の誇るべき武器であり、チームを作る上で、核となってきたポジションである。コンディションの上がって来た6喜山 康平のパフォーマンスは、安定しており、7白井 永地も試合終了まで運動量が落ちない。

 上位との4連戦は、2勝2敗の五分で、乗り越えた事を考えても、上位に対しても勝利出来る潜在能力を秘めたチームである。ボランチの選手の安定したパフォーマンスは、チームの攻守の安定に繋がるので、後半戦は、そういった強みを出せれば、後半戦は、勝ち越す事も十分可能であると思う。

「岡山の希望」
・押し返した後半途中から投入された2選手によるサイド攻撃。
・18齊藤の復帰で広がる攻撃のオプション。
・守備でハードワークした中でも攻撃で存在感を放った2ボランチ。
・総合力の高さでチームを安定、膨らむ2ボランチの存在の大きさ。


8、試合総括


基本スタッツ

基本スタッツ

ゴール期待値

ゴール期待値

 基本スタッツでは、圧倒したように見えるが、リスク管理の巧かった甲府の前に、試合開始してすぐの時間帯を除いて、ゴールが遠く、逆に加点を許して、容易したプランを効果的に実行できなかった。

 サッカーは、ゴールという数値の多さを競う競技で、パス成功数やボール支配率を競うスポーツではない。そういったものが出た試合であったと言える。ただ、ゴールへのアプローチは、色々あり、状況によって正解は変わって来る。二巡目の対戦時には、このスタイルの熟成度を上げた中で、怪我からの選手の復帰や、期待される夏場の補強を含め、より強くなかった岡山を見る事を信じて応援したい。

「試合総括」
・デザインされた甲府型3バックのリスク管理の巧さが際立った。
・甲府型3バックの役割を果たした意図した攻撃の前に3失点。
・用意していた岡山の勝利のプランは有効だったが響いた点差。
・オールラウンドDMとドリブラーSMは、岡山の武器。


文章・図版=杉野 雅昭(text・plate=Masaaki Sugino)、図(データ)=SPORTERIA様


関連記事

2021ファジアーノ岡山にフォーカス24

J2:第21節:ファジアーノ岡山vsヴァンフォーレ甲府(Home)

「岡山の課題と進歩」

は、こちら(別サイト:note)。

URL:https://note.com/suginote/n/n8e8020b4618a