1、前置き


 雨の影響を受けたピッチコンディションでの両チームの戦いにフォーカスを当てています。少し言葉遊びみたいになってしまった部分がありますが、状況の整理のためそういった内容にさせて頂いています。それでは、よろしくお願いいたします。


2、最終ラインの繋ぎは省略


パスソナー・パスネットワーク

パスソナー・パスネットワーク(町田)


パスソナー・パスネットワーク

パスソナー・パスネットワーク図(岡山)


 負傷交代やハーフタイムの交代した選手を含め、交代時間の早かった町田のパスは少なく、分かり難いですが、岡山は、普段多くなるはずの、パス交換数や成功数が少なくなっています。また、両チームとも前方向のパスが多くなっています。後ろでのパス交換がそれだけリスクと考えて、攻撃や守備を行っていた事が良く分かりますね。


3、天候を制するチームがゲームを制する


時間帯別パスネットワーク図

時間帯別パスネットワーク図(町田)


時間帯別パスネットワーク図

時間帯別パスネットワーク図(岡山)


 この図のポイントは、両チームとも、自陣深くで、プレーする事を極力避けている点である。中盤以降で、如何に形を作るか。そこに特化した攻めと守りになっている。当然、それによって、チームとして間延びしている様に感じる平均ポジションとなっているが、特にボールが止まるピッチに「攻めるチーム」「守るチーム」という構図と「前半」「後半」という4つの条件によってできた事とできなかった事がでてくる。


 止まるピッチに「前半」「攻めるチーム」であった岡山は、「前半」なので、引き分けでも良いという考え方により、割り切ってロングパス主体の攻めを続けることができた岡山。

 一方で、止まるピッチに「後半」「攻めるチーム」であった町田は、勝つためには、ある程度確実性の高い攻撃を必要がある。そのため割り切って無理してでも確率を上げる攻撃をしなくてはならなかった。


 そして、止まるピッチで、「前半」「守るチーム」であった町田は、ある程度繋いで攻めたいので、繋ぐ意識が高めだが、岡山が、どんどんロングパスを放り込んでくるために、嫌な位置でのプレーが多くなってしまった。

 逆に、止まるピッチで、「後半」「守るチーム」であった岡山は、町田が岡山のように割り切ってロングパスを蹴れないので、町田ほど、危険な位置でのプレーは少なくなった。


 こういった条件を考えた時に、岡山は、勝たなければならない有利な条件であったが、主導権を握りながら先制点を奪えなかった事で、守備固めができずに、守備時のミスにより、先制点を許した。


 しかし、ここでまた「リードを許している」という条件と、「リードをしている」という条件が加わる事で、関係性が変わって来る。

 「リードをしている」町田からすると、自陣でのプレー時間を少なくしたい。そのために相手陣地で持つ時間を長くしたいが、片側のサイドが止まる事で、そこでのキープは難しくなることで、こういった選択肢の有効性も下がってしまう。

 「リードを許している」岡山からすれば、攻めたいので、より割り切って前へのパスを配給する事を選択し易くなる。

 同点という状況であれば、両チーム確率のある攻めを選択して、主導権争いの中盤での争いとなるが、時間帯を考えた時に、「攻守」の関係性がより鮮明となった。

 「相手陣地で持てる岡山」「相手陣地で持てない町田」。この構図は、「攻守」という関係から「攻」「守」の関係に代わる事で、状況が変わる。通常の「攻守」「攻」「守」の3つの構図に、ピッチコンディションという条件が加わる事で、特殊な戦い方や状況の優劣が生まれた。「風」もある種、こういった特性があるが、「風」は浮き球。「雨」は地面を這うプレーに影響を及ぼす。


 こうした条件の変化に、岡山は、ロングパス主体→中盤からの組み立て主体→3バックでサイド主体というように見事に戦い方を変えているが、町田は、前述した通り難しい戦い方を迫られた。


4、チームの選択は選手のデータに現れる


守備スタッツ - 井上 黎生人

守備スタッツ(5井上 黎生人)


 自陣で持たずに前に素早く突ける。攻撃のデータではなく、クリア数として、そういった戦い方がはっきりと出ている。


攻撃スタッツ - 吉尾 海夏

攻撃スタッツ(14吉尾 海夏)


 前半は攻守で止まらないピッチコンディションのエリア側。後半は、攻める時に止まるピッチコンディションのエリア側。という事で、ある程度自由が利いた選手という事で、クロスやシュートなど、得点に絡み易いプレーに多く関与することができている。


守備スタッツ - ミッチェル デューク

守備スタッツ(19ミッチェル・デューク)


 前半におけるアバウトな岡山の攻撃と、劣悪なピッチコンディションは、19ミッチェル・デュークの守備強度の高さを活かすことに繋がった。FWとして高い守備スタッツを記録。


守備スタッツ - 吉尾 海夏

守備スタッツ(14吉尾 海夏)


 再び14吉尾 海夏のデータ。劣勢になったこともあったが、高い守備スタッツ。両チーム確実性の高い攻撃が難しかった事が分かる攻撃的なMFでの守備スタッツとなっている。


5、総括(ピッチコンディションの優位性)


基本スタッツ

基本スタッツ


 サッカーでは、決まったルールの下で同じ条件での平等なスポーツであるが、この試合では平等ではなかった。ただ試合前にピッチを選ぶ権利や、キックオフ時のボールを持つ権利がある。しかし、今回の試合を考えると、ピッチを選ぶ権利の優位の高さが大きいように感じる。ただ、ここは、相手の見方を見るという考え方も見るので、その辺りの駆け引きもあるという事で、難しいスポーツだと改めて感じた。

 この試合に関しては、岡山が優位であったと見ているが、他の方の視点では違ったものとなるかもしれない。ただ、個人的には、上記のデータは、ピッチコンディションやゲーム展開による部分は、少なくとも関係していたと個人的に見ている。

 また、同時に岡山が、巧く戦ったという事と、町田も我慢強く戦ったという事で、両チームともやりきった試合であったとも言える。


ゴール期待値

ゴール期待値


 前半は、両チームとも確率の低いプレーを選択していたことが良く分かる。そして、後半に徐々に岡山が盛り返し、主導権を握ったが、そこで、一瞬の隙を突いた町田が、先制に成功。ただ、岡山の地の利と用意していたプランを活かして、同点に追いつくことに成功した。


 町田としては、前半の攻めやすい状況で、より攻勢に出たかったという部分があるが、やはりピッチコンディションに慣れるのに時間が掛かったことと、岡山の徹底したロングパス主体の攻撃の前に、思うように攻めることができなかったという部分は少なからずあった筈である。先制した事が考えると、勝ち点2を失ったと見えるが、状況などを考えると、勝ち取った勝ち点1であり、誇るべき結果だが、昇格を岡山より目指せる状況である事を考えると、やはり悔やまれる勝ち点1である事は間違いない。

 一方で、岡山は、ピッチコンディションと展開によって、はっきりとした戦い方を選択した事で、後半に主導権を握り、ミスで先制こそ許したが、焦ることなく、自分達の状況と特性を活かし、同点に追いついたという事で価値のある勝ち点1だが、0-0で後半まで推移し、主導権を握っていた時間での失点なので、後悔の残る勝ち点1でもある。


 町田としては、岡山の徹底した戦いに対して、隙を見逃さず先制したという個の力を発揮できた試合。岡山は、試合運びは良かったが、決めきれないという課題を残した試合であった。

 町田は、個で収穫があり、組織に課題を残し、岡山は、組織に収穫があり、個に課題を残した試合であった。両チームとも、確かな手応えを感じつつも、修正すべき課題が見つかった事で、次に繋がる経験をできた試合であった。


文章・図版=杉野 雅昭(text・plate=Masaaki Sugino)、図(データ)=SPORTERIA様


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