町田に対して、圧倒した岡山の雉プレス。ただ、過密日程やベストメンバーでなかったとはいえ、山形に対して、防戦一方の時間が長かった岡山。戻って来た選手がいる一方で、出場停止や代表で離脱した選手がいた。山形の対戦相手の岩手に早い時間で、退場者が出た試合もあった。この難しいデータの対比の中で、プレビューとして、見どころを探していきたい。


1、前節までの対戦成績


前節までの対戦成績

前節までの対戦成績(図=figure:SPORTERIA提供)


 警戒すべきは、その得点力であるだろう。岡山戦を除きここ、5試合で毎試合得点。平均得点は、脅威の2得点以上。一方で、岡山は、ここ3試合完封勝利しており、守備の安定が目立つ。前回の対戦は、間接FKからスタートという特殊なシチュエーションで、メンバーもお互いにベストには程遠いものであったが、この試合は、その時よりは、ベストに近いメンバーで戦える。休養も十分ということで、どこまで戦えるかという意味で、要注目の一戦。山形は、プレーオフ圏内、岡山は自動昇格に向けて、食い込むためには、勝利しかないという状況下。上位との対戦が多い、厳しい9月をホームの力で、如何に乗り越えられるかという一戦が待っている。引き分けも許されない両チームの対戦に、気にしているライバルチームも多い注目の一戦。


2、得失点パターン


得失点パターン

岡山サイドの得失点パターン(図=figure:SPORTERIA提供)


 セットプレーを軸に多彩な得点パターンを誇る岡山。3バックを軸に置いて行く中で、より混戦の試合が増えて行き、その他のゴールも増えてきた。ドリブル突破からの形を増えてくる中で、岡山をどう抑えるかというのは、1つのテーマとなりつつある。


 全体的に主導権を握る中で、少ない失点に抑える力のある山形。主導権を握った場合、岡山の少ない失点を大きく上回る得点力の山形が、“奇麗な形”での得点が生まれるかもしれない。岡山は、毀れ球やロングパスといった混戦に強い一方で、クロスやショートパス、カウンターといった奇麗に崩された時に失点する傾向にある。ただ、逆を言えば、崩されなければ失点しないという事であるので、どちらが、主導権を握るのかが、最大の注目ポイントである。


得失点パターン

山形サイドの得失点パターン(図=figure:SPORTERIA提供)


 前回の対戦で、印象に残っているのは徹底したアーリークロスである。速攻とサイド攻撃の良い所取りした攻撃は、対戦チームの帰陣を許さず、ゴールに向かっての守備を迫ることとなる。クロスで、直接の得点とならなくてもそこからフリーとなることで、ドリブルで決める得点や毀れ球を押し込む得点。更にはそこからセットプレーで決める。岡山のようにPKを獲得できるかもしれない。ロングパスからの得点がないように、あくまでサイドからの攻撃を徹底している。中に強い岡山に対して、外から早い攻撃を仕掛けることのできる山形の攻撃に対して、岡山は、どう守れるのか。間接FKもなく、90分間の戦い。1週間休めた試合の中で、どちらが自分達の特徴を出せるのか。そういった攻防が待っている。


 失点パターンに対しては、これといった弱点はない。岡山の得点の図こそ伸びているが、やはり主導権を握るサッカーで、全体的に守備が安定していることも感じられる。ただ、その分、消耗も激しいサッカーであり、前半12分以降から無効になった試合、再試合でも終盤に失点を喫している。そういった意味では、粘り強く守る事で、岡山が、勝機を見出すことは、十分可能と言える。逆を言えば、山形が先制する展開になると、かなり難しいゲームになると言えそうだ。


3、時間帯別得失点率


時間帯別得失点率

岡山サイドの時間帯別得失点率


 先行逃げ切りや終盤の戦い方に課題のあった岡山。ここに来て、どの時間帯でも得点を決める可能性のあるサッカーができるようになってきている。それぞれの時間帯で、選手交代を含めた戦いで、攻守での推進力や強度を維持することで、決定機を作り、決定機を作らせない。そういったサッカーができるようになってきている。


 また、このデータからも山形は、終盤の失点の多く、スコアレスで推移することで、勝機を見出す事もできそうですし、開始してしばらくでの得点を決める隙もありそうだ。


 岡山としては、7チアゴ・アウベスや15ミッチェル・デュークのいる時間帯に決めたいと感じる一方で、一つの形となった9ハン・イグォンと38永井 龍のコンビで、得点に繋げる力を少しでも早い段階で高めていきたいというのもある。


 どういった展開となっても隙の少ない山形といった印象を、ここまでは感じるので、難しいゲームになるだろう。


時間帯別得失点率

山形サイドの時間帯別得失点率


 終盤に強い山形。岡山戦でこそ、その時間帯での失点して敗れた試合にこそなっていたが、実は、山形にとってかなり得点ができる時間帯という事が良く分かる。この部分が、フルメンバーだからこそ、そういった終盤の強さになっていると考えられる。岡山戦の守備強度の高い“雉プレス”に対しても、そういった消耗を抑えて、終盤に得点出来るパワーを残せるのか。それとも選手交代を含めた戦いで、そういった決定力に繋げているのか。


 比較的、体力的に体が動く時間帯での得点が少なく、もしかすると、足が止まる時間帯に強いチームなのかもしれない。岡山の苦手な時間帯がある訳ではないが、岡山の失点の多い時間帯と、山形の得点の多い時間帯が、重複するのは、少し不安となるデータである。


 前回の対戦を考えても、岡山が防戦一方の試合となる可能性も考えられるが、そうならないように、前回の対戦を教訓とした木山 隆之監督が、木山マジックを用意している可能性も十分ある。


 データだけを鵜呑みにできず、事前の予想や一般的な交代策ではない起用を見せる事もあり、岡山サポーターやメディアも予測不可のサッカーをする。それが、木山ファジである。この試合でもどうなるか、要注目と言える。


4、PA内への進入傾向


PA内への進入傾向

岡山サイドのPA内への進入傾向(図=figure:SPORTERIA提供)


 3試合で、5得点している割には、かなり少ないというのが、正直な印象。山形戦で、守る時間帯が長かった事と、群馬戦で、堅い守備に対して、スコアが動かし難い展開となった事が大きいと言える。上位のチームに勝っていくには、この回数を増やしつつ、この回数に相応しい得点数を記録していく事が求められる。3試合無失点だが、歴代のチームを考えても継続することは、簡単なことではない。小さな綻びで、大量失点してしまい、そこから失点する試合が続いたことも良くあった。チームとして、進入回数を増やし、被進入回数を減らしていく必要がある。


 また、この図を見ても、中央の脇の隙を突く攻撃がある一方で、中に対して、しっかり進入できている。数少ない中でもそういった多彩な攻撃パターンと、そこに入っていける力があると感じたデータと言える。


PA内への進入傾向

山形サイドのPA内への進入傾向(図=figure:SPORTERIA提供)


 左サイドは、パスでの崩し。右サイドは、クロスの崩しが主体。その中にドリブルを織り交ぜているという事で、非常にスピード感があって、明確な形を持っている事が良く分かるデータである。


 4-2-1-3が基本形であることもあって、サイドを主体としたサッカーであることも良く分かる。10山田 康太の動きというのは、やはり警戒したいし、“山形”の20“チアゴ・アウベス”の左サイドも前回も脅威であった。


 強力な外国籍を擁した上で、日本人に多い技巧派タイプのアタッカーを多数要する巧くて速い山形のサッカーに対して、如何に形を作らせないか、もしくは、どれだけ我慢できるのか。そういった部分が問われていく。少しでも隙を魅せれば、あっという間に失点していたという事も考えられる。90分間気を抜けないサッカーを展開する山形に対して、どういった内容になるかは、今後を占う上でも大きな意味を持つ試合とも言える。


5、被PA内への進入傾向


被PA内への進入傾向

岡山サイドのPA内への進入傾向(図=figure:SPORTERIA提供)


 どうしても16河野 諒祐サイドから攻められるのは致し方ない。粘りや対人守備に優れるという守備ではなく、読みを武器をした守備であることに加えて、攻撃参加も武器であることを考えてもここを狙って来るのは、どのチームも採用する形と言える。ただ、その先に5柳 育崇や26本山 遥のフォローで巧く防いできた岡山。その結果、5柳 育崇が、釣りだされても23ヨルディ・バイスが中に待っているのも大きい、41徳元 悠平の所で、ミスマッチが、生じる事も何度かあったが、そこに高い選手が複数人揃えているチームに対して、そういった隙が生じさせてしまえば、失点する可能性が高まるのは、致し方ないとも言える。


 ただ、41徳元 悠平は、守備も巧く、そこで、クリアできる試合も多い。一芸に秀でた選手という表現があるが、自動昇格を狙える今季の岡山には、多彩な武器を持っている選手が多い。昔の岡山の良さというのは、厳しくいうとハードワークできることだけであったが、今は、そのハードワークに加えて、+αの武器がある。そもそもこのデータは、山形戦、群馬戦、町田戦のデータである。そう考えると、これだけ攻めらえても失点0であるのだから、サッカーとは奥深いものであると感じる。


被PA内への進入傾向

山形サイドの被PA内への進入傾向(図=figure:SPORTERIA提供)


 かなり少ないですね。山形は、一方的に攻めて、あまり攻められない。データ上は、圧倒的な主導権を握るチームであることが良く分かりますね。直前の5試合も3勝1分1敗。これは、強い。岡山のホームとはいえ、守る時間帯が、どうしても長くなる可能性はある。しかも、中央への進入は簡単に許さないよという点も見逃せない。ただ、一方で、サイド深くからのクロスを許している点を考えてもSBの上がったスペースを突いていくというのは、1つの有効打になるかもしれない。仮に岡山が3-1-4-2であれば、IHが流れてというのも面白そうだ。後は、シンプルにロングスローでもOKとした攻撃で、割り切るのも有効と言える。


 何れにせよ、かなり完成されたサッカーであることは、この進入傾向からよくわかった。


6、プレビュー総括


 ここまで、勢いよく気持ちに任せてプレビューを書き上げてきたが、注目すべき点はシンプルである。


雉プレスは、サイドを主体とした山形のサッカーにも有効であるのか?


ここに尽きると思います。


 もし有効でなければ、粘り強く守って、23ヨルディ・バイスのロングパスや15ミッチェル・デュークの高さ、7チアゴ・アウベスの決定力。こういった助っ人外国籍選手の個の力で打ち破る事も一つの手ですし、セットプレーの機会を増やしていく事で、1チャンスで決めきるか。


 イメージ的には、岡山が主導権を握る事があれば、町田戦のように圧倒できる可能性もありますが、中央ではなく、サイドの仕掛けが得意な上に中央からの崩しもできるという意味で、かなり厳しい試合になるのではないかと感じています。


 22佐野 航大の代表での離脱や26本山 遥の出場停止は、正直かなり響くと思いますが、群馬戦や前回の山形戦のように、層の厚さは、岡山の武器ですし、そういった中でもしっかり勝機を見出すことができる木山マジック。


 そういった期待の大きい試合となります。ただ、残念なことは、水曜に試合があることで、この重要な一戦をボリュームのあるレビューにできる時間があるかどうかという点です。


 最善は、尽くししたいと思います。


 注目の試合は、日付が変わってしまったので、本日19:00kick offです。まだまだ暑いとは思いますが、十分な熱中症対策をした上で、シティライトスタジアムに足を運んで頂けると、岡山サポーターの1人として、嬉しく思います。


 山形との本当の意味で、しっかり戦える一戦。両チームにとって、楽しめる白熱の試合になって欲しい。決まり文句多謝ですが、両クラブのみなさん、よろしくお願いいたします。


文章=杉野 雅昭(text=Masaaki Sugino)、図(データ)=SPORTERIA様