1、前置き~体感とデータの違い~


 実は、ここでデータを見るまで、シュート数に反して、ゴール期待値は、岡山が上回っている。そう感じていたが、蓋を開けてみると、シュート数通り、熊本の方がゴール期待値がかなり高かった。


 正直意外であった部分もあったのですが、その理由をSPORTERIAさんのデータから関係していそうなデータをピックアップしていきながら、考察していきたいなと思います。


ゴール期待値

ゴール期待値(図=figure:SPORTERIA提供)


2、自由は許さなかったが防げなかったクロス~制限と阻止の違い~


攻撃スタッツ - 大本 祐槻

攻撃スタッツ:右WB:9番 大本 祐槻 選手(図=figure:SPORTERIA提供)


 ぴったりと17番 末吉 塁 選手が、ほぼ付いてサイドで対応して抑えていたと思っていましたが、まさかのクロス数が、11本。プレビューの際にチェックした熊本vs甲府の試合では、かなり際どい効果的なクロスを何度もあげていた印象ですが、この試合では、それをかなり少なくできていた。


 しかし、11本も許してしまえば、セカンドボールからの二次攻撃やそこからシュートまで行けるチャンスメークになる可能性もある。


 サッカーは、チームスポーツであり、各自ができることをすることで、ゴールの可能性を上げることができる。だからこういった数字になったと感じた。


 クロスを上げることに対して制限できたが、阻止はできなかったというデータと解釈しました。



3、攻撃において人数は正義~途切れない攻撃~


攻撃スタッツ - 黒木 晃平

攻撃スタッツ:右CB:2番 黒木 晃平 選手(図=figure:SPORTERIA提供)


攻撃スタッツ - 大西 遼太郎

攻撃スタッツ:左CB:3番 大西 遼太郎 選手(図=figure:SPORTERIA提供)


 どうしても3桁と3桁に迫った両選手のパス数の多さに目が行ってしまのですが、個人的にもっと目が行くのが、ラストパスとクロスの数なんですよね。


 これがまだCHの2選手であれば、多少納得する部分もあるんですが、両選手は左右のCBなんですよね。両選手ともMF登録の選手である程度守備を目を瞑っても、攻撃面での貢献に期待している。そういった大木 武 監督の起用の意図が、数値から見えてきますよね。


 シンプルに、熊本の各選手がコンパクトに距離感良くチーム単位で攻撃の時に前進している。その際に、守備のために他クラブであれば、意識的に制限する守備の約束毎みたいなルールがあると思うのですが、パスは言ってみれば、各選手の意思疎通の繰り返し、言ってしまえばボールを通じて行う「会話」なんですよね。


 チームとして「パス」と「攻撃」という二大テーマの中で、MFの選手からDFの選手へとバックパスとか来た時に、岡山であれば、プレスを受けて「前に運べないから失わないように上手く切り抜けてくれ」というシーンが多いと思うんですよ。


 これは、想像なんですが、熊本の場合は、MFの選手は「ポジション取り直すからまたパスくれ」とか「裏やサイドに走るからそこにパスくれ」ってなってるんじゃないかと。


 後は、パスを回す意図で、DFの選手に対して、「サイドの外を回れ」とか「囮になるから、そこのパスコースを活用してくれ」とか、攻撃してる時は、ボールを失う怖さや守備のバランスは二の次で、攻撃を持続する。攻撃の形を作る。得点の機会を探る。みたいな常に攻撃のことを考える習慣が染みついているじゃないかと思います。


 そう考えると、岡山が守備ブロックを構築していても、その後方からMFの選手のようなスルーパスや創造性に富んだアイデアのあるパスや、正確なクロスも来るんですよ。


 これが、何を意味するかと言うと、自陣深くまで侵入された時に、DFラインとMFのブロックの後方から一本のパスやクロスで裏に通される可能性が高いパスが出てくるって意味なんですよ。スペースを埋めていたら守れると思ったら、その状況から、それを全てを無にするパスが来るかもしれないってことなんですよ。


 良く会話をするときに大事なことは、シンプルに伝えること。大木 武 監督のシンプルな言葉はもしかすると、選手同士の「口」と「ボール」での会話においてもシンプルにを共有することで、誤解が少ないサッカーができていることも示しているかもしれませんね。


4、かなり多かった守備機会~怖さと安心の違い~


守備スタッツ - 本山 遥

守備スタッツ:左CB:15番 本山 遥 選手(図=figure:SPORTERIA提供)


守備スタッツ - 田上 大地

守備スタッツ:中CB:18番 田上 大地 選手(図=figure:SPORTERIA提供)


守備スタッツ - 阿部 海大

守備スタッツ:右CB:4番 阿部 海大 選手(図=figure:SPORTERIA提供)


 守れていたという誤認を抱く理由として、ブロックするようなシーン。つまり、PA付近でシュートを打たれてしまうので、寄せていくというシーンがそこまで多くなかった。


 逆にスルーパスとかロングパス、クロスといった攻撃を跳ね返せた。クリアできた防いだアクションが多かったことで、攻められているのではなく、守れていると体感的に感じてしまう。


 しかし、実際は守備機会がかなり多く、(特にクリアの)守備の回数が多くなっている。この辺りを、どう判断するかという視点も大事ではないかと感じました。


5、セカンドボールとクリアパス~早すぎる入れ替わり~


守備スタッツ - 輪笠 祐士

守備スタッツ:左CH:6番 輪笠 祐士 選手(図=figure:SPORTERIA提供)


守備スタッツ - 藤田 息吹

守備スタッツ:右CH:24番 藤田 息吹 選手(図=figure:SPORTERIA提供)


 6番 輪笠 祐士 選手は、まるでCBのような数値。それだけ攻撃を防いだということだと思いますが、それだけ攻められていたということだと思いますので、それだけ攻められていても、これだけ守れていれば、攻められたよりも守れたと感じますよね。


 もう1つ誤認していたポイントして、24番 藤田 息吹 選手のこぼれ球奪取の回数よりクリアの回数が多くなっている事。セカンドボールの回収の際に、そこから一気に前線の選手に渡って、一気にカウンターというシーンを作れていたこと。


 実際にそれで得点に繋がったシーンもありますし、良い守備から良い攻撃ができたことで、守っていたという印象よりも守れていたという印象に繋がりやすいじゃないかと感じます。


6、想像以上に低い守備位置~受け止めた?押された?~


 ヒートマップは、1人数ずつ説明していきます。


ヒートマップ - 輪笠 祐士

ヒートマップ:左CH:6番 輪笠 祐士 選手(図=figure:SPORTERIA提供)


 想像以上に(押し込まれての守備で)低い位置でのタッチがある一方で、(前からの守備や攻撃への関与で)高い位置でも触れている。これは、観た人によって感じ方が違ってくるかなと感じます。


ヒートマップ - グレイソン

ヒートマップ:CF:9番 グレイソン 選手(図=figure:SPORTERIA提供)


 (味方がボールを奪ってからのパスを待つための)ハーフウェーライン付近でのタッチ数も多くなっている中で、(味方が運んで攻撃できた時にパスを受けることができる)高い位置でのタッチ数も多くなっている。ここをどう判断するかで、印象も変わって来るのではないかと感じますね。


ヒートマップ - 岩渕 弘人

ヒートマップ:左シャドー:19番 岩渕 弘人 選手(図=figure:SPORTERIA提供)


 19番 岩渕 弘人 選手に関しては、27番 木村 太哉 選手と合わせて。


ヒートマップ - 木村 太哉

ヒートマップ:右シャドー:27番 木村 太哉 選手(図=figure:SPORTERIA提供)


 まさに(戻っての対応での)守備にも(走ってパスを受けての)攻撃にも奔走している。これのどっちの印象が強いかで、これもまた判断が別れそうですね。


7、シンプルに高い~立場の違い~


ヒートマップ - 大西 遼太郎

ヒートマップ:左CB:3番 大西 遼太郎 選手(図=figure:SPORTERIA提供)


ヒートマップ - 江崎 巧朗

ヒートマップ:中CB:24番 江崎 巧朗 選手(図=figure:SPORTERIA提供)


ヒートマップ - 黒木 晃平

ヒートマップ:右CB:2番 黒木 晃平 選手(図=figure:SPORTERIA提供)


 最も濃いエリアがハーフウェーライン付近のDFライン。立場が違えば、押し込めていた時間がそれなりにあったという印象を抱いていても不思議ではないと感じました。熊本が3得点決めた甲府戦を私は観ているので、守れたと感じていたかもしれませんが、確かに色々とデータを見ていくと、押し込まれていたという印象も強くなるかもしれません。


 どちらのチームのサポーターかという立場が違えば、視点も変わって来る。そう感じたデータでした。


8、データ的に互角~解釈と印象~


ボールロスト位置

ボールロスト位置:岡山(図=figure:SPORTERIA提供)


ボールロスト位置

ボールロスト位置:熊本(図=figure:SPORTERIA提供)


 こうしてアタッキングサード(ピッチを三分割した時に攻める時のゴールに近い方)のボールロスト位置を見ると、ほぼ同じなんですよ。


 自陣でのボールロストが岡山の方が少し多いので、熊本の優勢とも解釈できますね。


 ただ、岡山自体攻撃の手数は少なかったの一概に数だけ見て判断するのも怪しいと感じますね。結論を簡単に出さず、こうして色々な視点と角度で見ていくことで、見え方や感じ方は変わってくると感じています。


9、ラストパスの形の違い~パスとラン~


エリア間パス図

エリア間パス図:岡山(図=figure:SPORTERIA提供)


エリア間パス図

エリア間パス図:熊本(図=figure:SPORTERIA提供)


 これは、岡山のゴールと合わせて意識と分かり易いですが、岡山はカウンターを意識して、この試合戦っていましたよね。2得点も一気に自陣からハーフウェーラインまで、クリアというかパスというどっちつかずのボールが出された後に、そこから後は一気にゴール前まで走って、ゴール前に入れて後方から来た6番 輪笠 祐士 選手が決めた得点と、19番 岩渕 弘人 選手が9番 グレイソン 選手のスルーパスを受けて、そのままシュートまでいって決めたという得点という少ない人数と少ない手数(ドリブル→パスのような変化の回数)で、一気にゴールまで行っている。


 一方で、熊本は、岡山とは対極で、時間がかかっても多くの手数でゴールに向かっている。ただ、一時期流行っていたパスを繋ぐサッカーとの違いは、最後はパスで崩すことに拘りがないという事。シュートが打てるならクロスでも良いし、ドリブルでも良いし、もちろんパスで崩しても良い。なんなら崩すアクションをせずにミドルシュートでも良い。自陣から遠くなるほど、選択肢が増えることで、対戦チームの守備をより難しくする。逆に自陣でのプレーをシンプルに限定することで、そこに集中して、ミスを減らすことができている。改めてよく考えてデザインされたスタイルですよね。


 そう考えると、両チーム良さを出せたとも解釈できたんですが、岡山としてはもっと前で奪いたかったとはずなんですよ。そこで奪えなかったことで、数値的には熊本の攻撃を受ける形になって、ゴール期待値も伸びなかったとも考えられるんです。


 ただそれでも、やっぱり熊本としては、得点ができていない。そこで何処か上手く言っていなかった部分がより強調されてしまうというか意識が行ってしまうと思うんですよ。逆に熊本が勝っていれば、印象が変わって来ると思います。サッカーを語る上で、勝敗によって見方も変わって来る。これも大事な視点だと思います。


10、攻守のチームデザイン~独奏と協奏~


時間帯別パスネットワーク図

時間帯別パスネットワーク図:岡山(図=figure:SPORTERIA提供)


時間帯別パスネットワーク図

時間帯別パスネットワーク図:熊本(図=figure:SPORTERIA提供)


 岡山は、選手の個を組織で引き出す距離感に感じる。守備では、距離感を重視して数的不利に陥らないようにスペースを埋める事とハイラインで、コンパクトで密度が高い守備の形を構築。この形で戦うことでクロスを上げる選手に寄せるチャレンジをし易くして、シュートに対して、多少乱れても隙にならないので、思い切って体を投げ出すことができる。この時にパス(シュート・クロス)コースを限定できて安定感に繋がっている。


 攻撃では、個を最大限活かすことで、再現性の高い攻撃を可能としている。個に頼り過ぎないが、特徴を活かす。偶然ではなく必然を生み出す中で、自由度も失わない。チャンスと見るや型に囚われずに、個で仕掛ける狙いが見て取れる。


 一方で、熊本は常に距離感がかなり近い。攻守一体で、常に人と人で対応する意図が見て取れる。距離感が近いことで、パスが面白いように繋がる。また全体として高い位置であることが示す通り、「繋ぐ」だけではなく「進む」工夫があるからこそ、相手陣地でのプレー時間も確保できて平均ポジションも高くなる。


 ただ、守備では失点した時に後方の守備の安定を確保できる選手が足りない状況がどうしても生じてしまうのが、熊本のサッカーの組織としての弱点かもしれない。それでも熊本の「崩す」だけではなく「作る」サッカーのようにクロスやシュートといった攻撃で完結できることも多いので、それをカウンター阻止できる。だからこそ最後まで攻め切れるかどうかが、常に熊本のサッカーの勝敗を左右する要素として突きつけられる。


11、総括~時にはデータだけでなく体感を理由に~


基本スタッツ

基本スタッツ(図=figure:SPORTERIA提供)


 基本スタッツを見ても熊本のゲームであったと言えるかもしれないですが、前節の熊本vs甲府のゲームを見た筆者の結論は違う。甲府戦の熊本に比べて、後方からサイドに通す長めのパスでの展開もほぼ許していなかったですし、苦し紛れのロングパスを熊本に少しだが蹴らせることもできた。右WBの9番 大本 祐槻 選手からのクロスも本数こそあったが、良い形では許さなかった。実際に10本以上のクロスを打たれているが、ラストパスは0本である。


 熊本に熊本のスタイルで戦われていた(ボールを繋がれて、自陣深くまで侵入を許した)という点では、確かにやりたいサッカーをされていた。実際にプレスからほぼ奪えなかったという意味ではある意味、失敗と見えるかもしれない。


 理想としては、相手の自分達強い所で勝って、はっきり良いサッカーができればいいですが、試合に勝つという意味では、自分達の強い所を出すとか。相手の弱い所を突いて勝つという勝ち方でも良い。


 だから筆者は、岡山の良さを出して、熊本の弱い所を突いて、2点奪って勝ったという個人的には、快勝と言えるゲームであったと捉えている。それだけ熊本のやりたいことをかなり軽減できていた。時間が許すのであれば、10節の熊本vs甲府の試合をチェックしてみて欲しい。


 データ的には一見岡山もかなり苦しいゲームでしたがが、それ以上に熊本が苦しんでいたゲームであった。そう感じる内容で戦えたゲームであったと筆者は捉えている。


 それだけ、熊本のサッカーは、超攻撃的なサッカーであることを示している。筆者的にデータに過信することなく、前節の内容と岡山と熊本の違いを冷静に評価して、この試合の岡山が攻守共に上手く戦えたことで掴んだ堂々たる勝ち点3だと胸を張って主張したい。


 そして、筆者が岡山のゲームと感じたゲームでも熊本がデータ的にこれだけの数値を残せる大木ロアッソもまた完成度が高く、強さが伴ったサッカースタイルであったという事も改めて感じたゲームであったと感じた1人であるという立場も改めて明言しておきたい。


文章・図(基本情報)=杉野 雅昭

text・figure=Masaaki Sugino

図=figure:SPORTERIA提供


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