1、本レビューのテーマ
noteで、紹介した論点のデータを羅列。noteの記事の補足という立ち位置でもあるんですが、こちらには、重要なポイントが、集約されていますので、それはそれで面白いのではないかと思います。
今までは、独立したレビューでしたが、今回からは、連動したレビューという形を採用したいと思います。
2、25番 小島 亨介 選手の選択肢を制限するプレス
J1 第25節vs湘南 ボールタッチ位置とヒートマップ(GK:25番 小島 亨介 選手)
左が、少し濃くなっているものの、右でも一定の受けた回数がある。

J1 第26節vs岡山 ボールタッチ位置とヒートマップ(GK:25番 小島 亨介 選手)
高い位置の右で受けた回数が激減していることから、岡山が著しく制限をかけていることが分かる。
ここで、鍵を握るのが、3トップの各選手の役割です。3トップの各選手のヒートマップを確認してみましょう。

22番 一美 和成 選手(ボールタッチ位置のヒートマップ)
22番 一美 和成 選手は、主に中央から攻守で、動いていことを示すデータです。ここを通されたり、自由に回されてしまいますと、サイドに展開されたりと、パス回しや前進の選択肢を増やしてしまうことになります。
それを許さない意識を中央で高い位置でのタッチ数が多くなっていることから示しています。また、守備だけではなく、攻撃のデータでもあるので、この中央の高い位置で、距離を詰めたり、パスコースを消していく中で、周りと連動して、良い位置で、パスを受けるということにも繋がってたことも、同時に示しています。

19番 岩渕 弘人 選手(ボールタッチ位置とヒートマップ)
基本的には、右でのタッチ数が多いですが、27番 木村 太哉 選手のように二度追い、三度追いする中で、左までいったことも、攻撃で、8番 江坂 任 選手の近くにいく。両方の意図で、次のようなデータになっています。
そして、非常に高い位置でボールタッチできてますから、攻守ともにレイソルに対して、かなりの圧力を与えることができていたことを示していると思います。
迷いながらプレーしていて、持ち味を見失っている時期も長かったですが、その期間込みで、連携を深めることができていただけではなく、相手だけではなく、岡山の周りの選手のレベルも高くなっていますから、そこでの気持ちの迷いが無くなった時に、これだけやれるのは、ある意味当然と言えますが、チーム状況などもあり、時間がかかってしまいました。
この好調をどれだけ維持できるかは、注目ですね。

8番 江坂 任 選手(ボールタッチ位置とヒートマップ)
ボールを奪うというよりは、パスコースを制限をかけていくポジショニングや寄せ方をしていましたので、守備時のタッチ数というのは、少なくなりがちではあるものの、この守り方が機能していた前半は、高い位置で、攻撃に絡めたことを示していて、攻守ともに機能していたことを示すデータの1つと言えるでしょう。
また、同時に、後半にある程度押し込まれて、受け身になる時間が増える中で、通常の試合とおり、自由に動く中でのチャンスメーク、パスを受ける動きや守備もしていたことを示していると思います。
次の、この守り方によって、どれだけ制限できたかの効果をみていきましょう。
J1 25節vs湘南戦 GK:25番 小島 亨介 選手(個人スタッツ‐GK)

J1 第26節vs岡山戦 GK:25番 小島 亨介 選手(個人スタッツ-GK)
成功数が変化ないことからも、岡山のハイプレスの目的として、GKの25番 小島 亨介 選手の選択肢を狭めるということが一番の目的で、DFラインのビルドアップへの参与や、ここからの効果的フィードによるチャンスメークの回数を増やしたくないという岡山の意図が見て取れます。
パス成功数が、高いということは、繋ぐためのパスが多くなっていて、前線へのフィードのような、得点に繋がるようなフィードを許していないことを示していると思いますし、回数もしっかり減らせてますから、岡山のプレスの狙いの効果がでていたと言えるでしょう。
ここまでは、GKのデータにフォーカスしてきた比較ですが、次のステップに進んで、その先にどれだけ制限できたかについて、みていきたいと思います。
3、GKを制限した効果で中盤の機能不全を狙う
J1 第25節vs湘南戦 柏レイソル(パスソナー・パスネットワーク図)

J1 第26節vs岡山戦 柏レイソル(パスソナー・パスネットワーク)
レイソルが勝利した湘南戦では、中央ではなく、サイドやシャドーとのパス交換をしつつ、前に前に前進していくことで、①GK←→DF、②DF←→左右WB(シャドー)、③左右WB←→シャドーというパス交換をできていましたが、岡山のハイプレスとパスコースを切るという2つの判断の前からの守備に対して、①GK←→DFまではできても、②DF←→MFとなり、②の段階での、レイソル側でのパスでの前進での苦心が見て取れます。
意図した形でのパス交換で前進するというよりは、パスを失わないように、近くの選手にパスをとにかく出す。そういった状態であったことが、実際の試合で見ていても、データでも見ても明確にでています。
また、湘南戦のレイソルは、CBの攻撃参加もありますので、全方位へのパスをバランスよく出せていましたが、岡山との試合でのレイソルは、後ろでの繋ぐパス回しになっていましたので、プレスを受けてのバックパスやボールロストを恐れてのロングパスが目に見えて増えています。
そして、中盤より前へのパス成功数が少なくなっていることから、前へのパス成功数を示す色の濃さが致命的に薄くなっています。選手こそ違いますが、右CBの所での縦へのパスの成功率がかなり落ちていることが、その証拠です。しかも、後半にある程度、立て直したデータも混ざっていますから、前半のデータがあれば、より極端になっていたことでしょう。
ここで、重要になってくるのは、岡山の3トップと中盤、DFラインが、攻守で連動して、いかにコンパクトな陣形を維持できるかどうかです。
ちょっと、長くなりますが、前半の後方のGK以外の選手の平均タッチ位置とヒートマップ図をみていきましょう。

左WB 39番 佐藤 龍之介 選手(ボールタッチ位置とヒートマップ)
左CBの43番 鈴木 喜丈 選手、左DHの41番 宮本 英治 選手、8番 江坂 任 選手との攻撃時の連動が、試合を通して、印象的でしたが、守備でも前方、後方問わず、やり切る姿勢は、現代型の10番タイプの選手だと改めて感じて、90分間通しての献身的姿勢が、広いフィートマップと良かった前半の効果で、はっきり前が濃くなっている。

左DH 41番 宮本 英治 選手(ボールタッチ位置とヒートマップ)
ボールホルダーに対して、奪取のチャレンジするだけではなく、後方の守備のカバーと縦横無尽に走り回っていた。分布しつつも24番 藤田 息吹 選手との棲み分けや微妙に違う特徴、そして、周りの選手との相性を加味した連動性は、驚異的。新加入どころか、ずっと岡山にいたんじゃないかというレベルでフィットしている。

右DH 24番 藤田 息吹 選手(ボールタッチ位置とヒートマップ)
中盤の全域カバーであった役割から解放されて、右に専念できようになった。41番 宮本 英治 選手ともに中盤ではなく、前線への守備や攻撃にも参加。今までの岡山になかった、DHでの攻守での数的優位を作り易い場面が増えた。また、運動量だけではない前線の頭脳的守備が、中盤でも連動性して行えることで、まるで生き物のようなプレスを可能としている判断の良い守備の中心にいる。

右WB→右CB 88番 柳 貴博 選手(ボールタッチ位置とヒートマップ)
フィジカルが武器なようで、意外とインテリジェンス(知性)が溢れるプレーが印象的。ポジショニングも良くて、受け手として目立ち、プレスに対して回避する視野の広さ、チャンスメークを遺憾なく、岡山で発揮している。守備でも、そのセンス溢れるプレーで、岡山の攻守のバランスにサイドから貢献している。右CBを急遽任されたが、足を痙攣させてしまったこと以外は、本職のCBの選手に遜色ない安定感をみせた。

右WB 28番 松本 昌也 選手(ボールタッチ位置とヒートマップ)
背番号を確認するまでは、実況、解説者、記録員、そして私も、22番 一美 和成 選手のシュートと誤認してしまう、ストライカーばりのバーに当たるシュートを放った。公式記録でもシュート0本の可能性もあり、勝敗を左右する場面での劇的かつエレガントな得点かと思われたシーンでは、オフサイドで2度ゴールがVARで取り消されるなど、不運さが際立つが、そういった記録に残らないプレーに象徴されるとおり、チームの中での献身性や戦術理解度の高さを示す、チームコンセプトそのものの途中出場ながら前半の良さ、そのままがフィートマップに具現化されている。本当に頼りになる選手である。

左CB 43番 鈴木 喜丈 選手(ボールタッチ位置とヒートマップ)
まるで、左WBのような高い位置、深い位置までヒートマップとボールタッチ位置が分布している。チームとして、前から守備する意識が高かったこと。加えてハイラインで、全体をコンパクトにして、密集地帯を多く作れていたことを示すデータでもある。そして、早い時間帯に交代したことで、守勢に回る時間は短く、低い位置でのタッチ数は、18番 田上 大地 選手に比べて少なく、ヒートマップの濃い位置も高め。

中CB 18番 田上 大地 選手(ボールタッチ位置とヒートマップ)
前半にハイラインを敷いた圧縮プレスの背後のスペースのケアとラインコントロールが上手く行っていたことを示す、DHの位置での異常な数のタッチ数。後半は、守勢に回ったことで、ゴール前のシーンが増えて、そこが最も濃いヒートマップにこそなっているが、両チームの状態や時間帯に応じた戦い方ができていることを示すデータでもある。

右CB 2番 立田 悠悟 選手(ボールタッチ位置とヒートマップ)
早い時間帯での負傷交代であったものの、前半の岡山の戦術が嵌っていたことを示すに十分なデータとなっている。失点に繋がるミスが多いイメージであったが、岡山のシンプルな戦いや選手の個性に応じた役割を各選手に託すことで、別人のように安定感があるプレーができている。それどころか、プレスをいなす、センスとテクニックを前面に出した抜群のボールコントロールからのターンや正確なフィード、攻撃参加からのクロスと、CBとしての能力の高さを存分に発揮している。負傷状態が、心配ではあるが、一日でも早い復帰を祈りたい。
3トップと連動したチームとして、音楽の絶妙な速さ遅さのリズム感のようなプレスのオンオフのリズム感としてのグルーヴ感。そして、チームとして一体感が生まれることで、頭も足をも自然と連動して動きたくなるようなグルーヴ感。
その両者の意味を兼ねた前からのプレスとバランスをとるフリーラン。それが、人間なので多少のミスや綻びが生じたとしても、上手く機能した時は、単位が1選手ではなく、11選手となるような一体感は、凄まじかった。
4、岡山史上最高クラスの練度のプレスを実行できた前半の結果
最後に、次のデータを見て欲しい。

ファジアーノ岡山(時間帯別パスネットワーク図)

柏レイソル(時間帯別パスネットワーク図)
一目瞭然ではあるのですが、データでフォーカスでは、前半の両チームの攻防のまとめ。
前半0~15分
① 岡山の対レイソル専用のハイプレス作戦のお披露目。
② レイソルサイドが驚いて対応できていない。
③ ①と②の結果、プレスが波のようにレイソルを押し込めることに成功している。
④ ①~③を裏付ける相手陣地に平均ポジションの位置が8選手。
前半15~30分
① レイソルが前線にハイプレスにある程度対応。
② ①に対して岡山の中盤も効果的に対応。
③ ①と②の結果、岡山の中盤の壁をほぼ越えられなかったレイソル。
④ ①~③ハイプレスと埋める守備のバランスが絶妙だった対レイソルのプレス作戦。
前半30~45分
① 岡山のプレスの体力の消耗よりもレイソルのプレスへの圧力への精神力の消耗。
② ①の結果、レイソルも繋げどもなかなか前進できないし、ロングパスも完封され、袋小路。
③ ①の結果、水のようにレイソルが、こじ開けた打回路にプレスが流入に成功。
④ ①~③岡山の圧力が、押し込んだような形になったが、スコアは1-0のまま。
5、最後に…
いかがだったでしょうか?前半の岡山のデータにフォーカスしてみました。後半には、後半の良さがあった試合であったと思いますが、個人的には、快心の前半であったことは間違いないですよね。それでも最後は1点差ゲームのギリギリの試合となった。そこが、サッカーの奥深さだと思いますし、魅力だと筆者は考えています。
文章=杉野 雅昭(text=Masaaki Sugino)、図=figure:SPORTERIA提供







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