最近、Jリーグ新戦術レポート2022を読んだ。
この中に、2つの軸から見えるプレースタイルという散布図があった。
作成した著者の西部氏は『「ボール支配力」と「プレス位置」は数字的な根拠に基づいているわけではありません。実際のボールポゼッション(%)や守備時の敵陣滞留時間、ボール奪取回数などに忠実なわけではなく、いってしまえば印象に基づいています。そういう意味ではあまり確かなものではなく、ある意味でいい加減なものであることを最初に断っておきます。』と述べている。
数字を使って同じようなことが出来るかチャレンジしてみた。
まず「ボール支配力」です。
西部氏は「ボール支配力はボール保持率とイコールではありません。ボールを持った時の能力が高くても、保持率自体はそれほど上がらない場合もあるからです。およそ支配力が強ければ保持率も上がりますが、例えば川崎Fの支配力は強くても、保持率自体はさほど上がらない試合もありました。自陣で持たされている状態でも保持率は上がってしまいますから、保持率ではなく支配力として考えました。」と記している。
このことから、まずボール保持率という一つの指標だけでは表現は難しいということになります。そこで、Football LABのスタッツの中から、30mライン進入、ペナルティエリア進入、攻撃回数、チャンス構築率を抜き出し、ボール支配率とともに下表を作成した。
こちらはチームごとの数値です。
こちらは相手チームの数値です。
数値の単位が異なりますので、偏差値にしました。
こちらはチームごとの偏差値です。
こちらは相手チームの偏差値です。
ボール支配力という言葉を聞き、ボール保持率を基本としつつ、ボールを”支配”していれば、30mライン進入、ペナルティエリア進入、攻撃回数、チャンス構築率が相手よりも数値が良くなるではないかと思い、下表の通り差を計算した。シュート数やゴール期待値は、ボール支配力から生み出された結果であると考え、今回の計算から除外した。
そして30mライン進入からボール保持率までの差を足したものをボール支配力と仮定した。
次にボール支配力の数値を基準値に計算し直した。基準値とは統計用語であり、偏差値を計算する過程で計算される値である。偏差値の方から逆算すると、偏差値から50を引き10で割った値である。
基準値は平均が0で、平均よりも成績が良ければプラスの数値、成績が悪ければマイナスの数値になるため、散布図にしたときに理解がしやすい。
西部氏の散布図には「プレス位置」という指標が掲載されている。「プレス位置」というドンピシャの指標はFootball LABにもないため他の指標で代用することとする。西部氏は「支配力、プレス位置ともに高い横浜FMと川崎Fが首位を争っていました。川崎Fに関してはシーズン平均のポゼッションとプレス位置はそれほど高くないと思いますが、ポゼッション+ハイプレスという現代サッカーの王道を目指していて、かなりの程度で実現する力がある2チームが成績でもトップを争っていたのは偶然ではないでしょう。」と記している。Football LABのデータにはコンパクトネスや最終ラインという数値があり、ELGORAZO(J1&J2全40クラブ総括レポート2022【完全保存版】)にはFW・MF・DFごとのタックルラインが掲載されており、これらを使えばおおよそのプレス位置を推定することは可能かもしれない。しかし西部氏の言葉から推測するとFootball LABのハイプレス指数がもっとも親和性が高いと感じる。そのためハイプレス指数で「プレス位置」を代替することとする。また指数とは偏差値のことであるため、基準値に計算し直した。
ボール支配力基準値とハイプレス指数基準値は下表の通りである。※ハイプレス指数はハイプレス偏差値に言い換えることが出来るため、ハイプレス指数基準値はハイプレス偏差値基準値という意味不明な言葉になってしまう。が、ここでは無視することにする。
これを散布図に落とし込む。散布図にすることで、各チームの位置が可視化される。
散布図は下記の通りである。
西部氏作成の「2つの軸から見えるプレースタイル」と一致する箇所がある一方、一致しない箇所もあった。
西部氏はプレースタイルをグループ化するために散布図を使用しているのであって、散布図から4分割しようという試みをしているのではない。
筆者は散布図からグループ分けをしていないため、西部氏の結果を4分割にし、一致したか否かを確かめた。
一致・不一致をまとめると下記の通りになる。
全体の一致度は55.6%になった。数値を基に作成するとこうなるが、西部氏もしくは筆者、どちらが正解というものではないと思う。
ボール支配力の一致度は高く(88.9%)、西部氏が印象から出したボール支配力と筆者が数値から計算したボール支配力の親和性の高さを示している。
ハイプレスの一致度は61.1%であり、西部氏の印象とハイプレス指数とは若干差異があることを示唆している。
結果はどうあれ、とりあえずやってみました。
データ借用元&文章引用元
Football LAB
Jリーグ新戦術レポート2022 西部謙司 ELGORAZOBOOKS
ELGORAZO(J1&J2全40クラブ総括レポート2022【完全保存版】)
コメント(3)
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SPORTERIAスタッフ
2023/9/12 15:13
こういう検証も面白いですね!
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ぴくしー
2023/9/16 11:00
SPORTERIAスタッフさまコメントありがとうございます。
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ぴくしー
2023/9/16 11:01
個人的には2022は鳥栖と広島のハイプレスが強かったイメージがありました。
個人的には2022は鳥栖と広島のハイプレスが強かったイメージがありました。
こちらの本、読んだことがなかったので見てみたいと思います。
こういう検証も面白いですね!
→印象とデータの検証は大事だと思います。
→Football LABさんのハイプレス指数にも表れていますね。湘南と柏も指数は高かったです。