【スタメン】


<横浜FM>

小池龍のケガ、松原のコンディション不良、そして高丘の移籍で誰が出場するか注目された右SBとGKには上島とオビを起用。CBは角田と畠中のコンビ。その他のメンバーは予想通りの人選となった。

<甲府>

昨シーズンから監督が変わり、システムも3-4-2-1から4-2-3-1へ変更。4人の新加入選手をスタメンで起用してきた。


【前半序盤は甲府ペース】


序盤は甲府が狙いとしていたであろう出足の良い守備でのボール奪取から高いラインの裏を手数を掛けずに突いていく攻撃が機能し、シュートチャンスを作っていく。守備では基本は4-4-2の形だが敵陣ではSHがCHと同じ高さではなくより前に位置を取って相手SBへのパスを牽制しつつ、パスが出た時にプレスに行く距離を短くできるようにしていた。攻撃で目立ったのは不慣れな右SBで起用された上島を狙った形。上島をめがけたロングボールや食い付かせて裏を狙う攻撃など左サイドから相手を攻め立て、8分前後ぐらいまでは甲府が優勢な立ち上がりとなった。この日の甲府は左サイドだけでなくGKのフィードでも相手の高いディフェンスラインの裏へ高さのあるボールを蹴ることで、相手DFに下がりながらの難しい対応をさせて、事故といわれるような処理のミスを誘発させようとする狙いがあったように見えた。


【マリノスのビルドアップに手を焼き始める甲府】


10分前後からそれまで上手くいっていなかったマリノスのビルドップが徐々に機能し始める。左SBの永戸が早いタイミングで中に入ってライン間へ潜り込み、相手が捕まえづらい中間ポジションを取る動きや、ダブルボランチの相手のSH-SB間に流れる動き。周りがそれに反応してレーンを変えることで多くのパスの選択肢を作って前進してシュートチャンスを作っていく。甲府としてはSBが中に入ってくること、ボランチがスペースで受けるために動くことは分かっていたはずだが動き出しのタイミングの良さ、ミスなくつなぐ技術で相手に上回られ、制御をし切れなかった。ボールを奪った後も前線へのロングボールで陣地回復を狙うも収まらず、押し込まれる時間が続いていき、マリノスが狙っていたであろう展開になっていく。


【ゴールキックからつないだ先制点】


26分頃から甲府が守備に変化を加え、それまで放置気味だった相手CBへプレスをかけ、前から奪いに行く動きを見せるようになる。しかし、結果としてこれが裏目に出る。マリノスがゴールキックからビルドアップをスタート、甲府がプレスをかけて奪いにいったところを渡辺の巧みなターンから素早く前線までボールを運び、最後はエウベルが仕留める。マリノスとしてはポジティブなプレーが連続した良い得点。甲府としては守備のやり方を変えた矢先の手痛い失点となった。


【カウンターからの同点弾】


44分、長いVAR判定の後、甲府のゴールが認められる。パスを避けようとした長谷川に当たったボールが良い形で裏に抜け出した鳥海につながり最後はウタカが流し込んで同点。ボールのつながり方は狙い通りではなかったかもしれないが、形としては狙い通りと言える得点だったと思う。マリノスとしては渡辺のパスがロペスか水沼につながっていれば大きなチャンスになる形だっただけに歯がゆい失点となった。


【甲府の守備の変化とマリノスの追加点】


後半になると甲府が敵陣での守備のやり方を変化させる。トップ下の長谷川がウタカと横ではなく縦気味に並んでアンカーポジションに入ってくるボランチを見て、右SHの鳥海が左CBにプレスをする形に。永戸が中に入り込んでくることによって捕まえる相手がハッキリしなかった鳥海に基準を与えると同時に相手の左CBに自由を与えないことで強みになっていた左サイドへのパスを遮断する狙いがあったと思われるが、良い効果は出ていなかったように見えた。この変化自体が悪かったというよりも時間の経過とともにCFのウタカの運動量が落ち、本来いるべき場所へ戻れず中を締めることができなくなり、中央にパスを通される回数が増え、さらに右SBの上島からの斜めのパスも入りやすくなってしまっていた。61分、左CBの角田のドリブルでの持ち上がりから最後は西村が決めてマリノスに追加点が生まれた。甲府としては鳥海がかわされた後に誰が角田にいくのかが曖昧になり、長い距離を前進させてしまったことが悔やまれる失点となった。


【両チームの交代策】


甲府は2列目の選手を入れ替えて得点を取るために攻撃のギアを上げようとするも押し込まれ続ける構図は変わらず。やはり敵陣での保持の機会が少なければ攻撃に持ち味がある選手を入れてもなかなか良さは発揮できない。対するマリノスも中盤、前線の選手を入れ替えてリスク管理を考えながら追加点を狙っていく戦い方にシフトしていく。惜しくもGKに防がれたヤンのシュートやオフサイドになってしまったがマルコスが股抜きのスルーパスを見せるなどそれぞれらしさを出すことはできていたと思う。


【全体振り返り】


甲府はやりたいことが全くできなかったわけではないが、力の差がある相手に対してその差を覆すほどのものを攻守において見せることが出来なかったと思う。自陣深くまで侵入される回数があまりにも多過ぎたし、ボールを失っても即時奪回を狙ってくる相手に対して低い位置からどう前進していくかに課題が残った。試合後のインタビューで監督がウタカのコンディションについて言及していたが、たとえ万全のコンディションだとしてもフルで使うのは現実的ではないのでウタカがいないときに代わりに入るCFや周りの選手にどんなタスクを与えて得点を狙っていくかを構築する必要があるだろう。マリノスはビルドアップでのミスや、BOX手前で攻めあぐねる時間帯も多かったので、勝利を収めたものの課題が残る内容になった。特にトップ下の西村が中央でボールに関与する回数が少なかったのは気になるところ。


【上島のデビュー戦はSBでの起用】


期待の新戦力である上島のデビュー戦はまさかのSB起用。試合後のインタビューで「3バックの右のイメージで、中に入る動きはしなくていいと言われた」と話していたが、どういうタスクを与えるのがベストかスタッフ陣の中でも議論されたことが想像できる。本人も手探りでのプレーになったと思うが持ち味の空中戦の強さ(3/4 勝率75%)も見せ、勝利に貢献する働きができていたと思う。が、ビルドアップの面では縦方向へのパス成功率が68%(13/19)と課題が残った。その部分についてリアルタイムでは気付かなかったが、試合後のインタビューで上島が「ハーフタイムに修正して少し良くなった」と話しており、何らかの指示を与えられた模様。推測だがおそらくサイドでボールを受けるときに体を開いて、よりオープンに持つようにして縦方向に出しやすい持ち方を意識するように変えたように感じた。これによって相手が縦を消そうと上島の正面に立てば今度は斜めのコースが空くようになって複数の選択肢を持ちやすくなる。試合中にパスを出したあとすぐに監督と話しているところが中継の映像にも映っていたので後半は指示されたことを確認しながらのプレーだったようだ。


【マリノスのセットプレー守備】


ストーン役のそれぞれの立ち位置としては

水沼とエウベルが

ニアポストとゴールエリアのラインの中間あたり

(エウベルは相手がショートをやりそうならもう少しキッカーに寄ってパスがでたらアプローチ)

西村とロペスがニアポストの延長線上

空中戦に強いロペス、畠中、角田、上島でゴール前を固める

(4人でゴール幅、左足でゴールエリアのラインを踏む)

残りの永戸、渡辺、喜田がマンツーマン役で相手の空中戦が強い(と思われる)選手につく

(永戸→三浦、渡辺→ウタカ、喜田→マンシャ)


ヤンが壁(相手キッカー1人)

永戸がニアポストの延長線上で基準

(ボールから15m前後)

そこから空中戦に強い順で選手を並べる

(ロペス=畠中=角田=上島>藤田=エウベル)

渡辺は手前に相手がいたのでその近くに立つ

ギリギリまで我慢してキッカーがボールを蹴る瞬間に

ラインを下げる

(おそらく)マルコスが下がらずにステイしてこぼれ球要員


【開幕戦へ向けて】


この日はビルドアップの際、DFの選手が相手の強いプレスを受けることは少なかったが、川崎は前から強いプレスをかけてボールを奪いに来ることが予想される。松原が開幕戦も間に合わず、上島が再び右SB起用となれば間違いなく狙われるだろう。また、中盤、前線の選手も自陣では強いプレッシャーにさらされながらのプレーとなるので容易に前進はできないはず。ボランチを経由せずに縦につける場面も増えると思うので特にロペス、西村のところでボールを収める仕組みを準備しておく必要があるのではないかと思う。守備に関してもこの日以上の球際の強度と相手に脅威を与えるプレスが求められそうだ。