1、前置き


 この試合で、岡山は、ボールをしっかり繋いで、深い所までしっかり運んで、サイドから打開を図るという基本方針で、戦って来た。一方で、栃木は、31豊田 陽平を頂点として、右サイドを意識した堅守速攻のサッカーであった。ただ、チームコンセプトは、これだけ語れないデータがある。今回は、そこにフォーカスを当てて栃木戦を振り返っていきたい。


2、デザインされた?形


時間帯別パスネットワーク図

時間帯別パスネットワーク図(栃木)

前半0~15分(栃木)

 この時間帯の栃木の平均ポジションの分布はまさに、「てふてふ」。偶然ですが、珍しい分布になっていますね。

 これは、前置きで書いた通り、後方の選手から31豊田 陽平にロングパスを集めて行く中で、奇麗に並んだという点と、右SBの33黒崎が、高く上がっていくというのが、規定路線のため、右肩上がりとなったことで、奇麗な「てふてふ」となった。もしくは、栃木のエンブレムに近いのかもしれない。

攻撃スタッツ - 黒崎 隼人

攻撃スタッツ(33黒崎 隼人)

 クロス数3本。必要最低限の人数での仕掛けを行う栃木スタイルのため、5割を切る低いパス成功数。高い位置でプレーしていた事が良く分かる。


前半15~30分(栃木)

 この時間帯の栃木の平均ポジションの分布はまさに、「凧」。風によって、布の部分がヨットの帆のように靡く質感までしっかり再現されていますね。

 これは、ロングパスだけではなく、中盤経由して繋ぐ事と、速攻意識した事で、選手同士の距離感が程よく空いていた事によって、こういった分布になっています。速攻を仕掛けるには、如何に長い距離のパスを通すかというのが1つのテーマでありますので、守備を考えると近い方が良いですが、これは、速攻を強く意識した事で、こういった分布になったと言えるでしょう。

パスソナー・パスネットワーク

パスソナー・パスネットワーク(栃木)

 中盤を経由した攻撃も一定数あった事が分かる図。


前半30~45分(栃木)

 この時間帯の栃木の平均ポジション分布は、ちょっと苦しいですがよく見ると、左を向いた「兎さん」長い耳と長い尻尾、長い手足。さんを付けた通り、兎の獣人のようにスマートですね。

 さて、この時間帯はと言うと、私の大喜利のように31豊田 陽平まで運べず、栃木が苦しんだ時間帯。本来は、中盤を突破して、前線まで行きたい所ですが、岡山に巧く対応された時間と言えそうです。

ボールロスト位置

ボールロスト位置(栃木)

 前に運べるのは、限定的。前線でのプレー機会は限られていた。空白のゾーンも目立つ。


後半0~15分(栃木)

 この時間帯の栃木の平均ポジション分布は、良くみると当時は凄い勢いがあったあのオリエンタルラジオの「パーフェクトヒューマン」です。

 31豊田 陽平を集める攻撃が機能したことで、31豊田 陽平を中心に右サイドからの形ができた。そういった時間帯であると思います。栃木を抑えるには、まずは31豊田 陽平を如何に抑えるかというのは、1つのポイントと言えそうですね。

ヒートマップ - 豊田 陽平

ヒートマップ(31豊田 陽平)

 深い所まで侵入させなかったが、一定のタッチ数と、右サイドで、関与。良く抑えていた方ではあるが、栃木のやりたいサッカーが見えた。より抑えに行くか、ある程度攻撃にシフトするか。難しい判断になりそうだ。


後半15~30分(栃木)

 この時間帯の栃木の平均ポジション分布は、悩みましたが、最終的に持つところのある「鍋」という結論にいたりました。根元の所が複雑になっているので、圧力鍋でも良いかもしれないですね。

 珍しく左から形になっていますよね。この線は、先制ゴールのアシストによって、結ばれました。ゴールを見事に調理した栃木の形がしっかりと見て取れたと言えそうです。

攻撃スタッツ - 森 俊貴

攻撃スタッツ(10森 俊貴)

 ここ数試合は、出場機会が減っているが、10番は伊達ではない。濃縮された攻撃スタッツを記録。


後半30~45分(栃木)

 この時間帯の栃木の平均ポジション分布は、勝利ギフトの詰め合わせです。「V・❤・クラッカー」の三本立て。まさに平均ポジション分布の完成度でも完敗と言えそうです。

 岡山が猛攻を仕掛ける時間帯もありましたが、それが短く31豊田 陽平と39矢野 貴章のツインタワーが、猛威を振るった時間帯でもあった。少しでも栃木陣地に押し込みたかったですが、クリアやロングパスも徹底されていましたし、岡山がボールを持てたので、栃木陣地ではなかなか触れなかった事に加えて、5柳 育崇が、最終的にクリアしたためにこういった形になっていたのでしょう。

守備スタッツ - 柳 育崇

守備スタッツ(5柳 育崇)

 栃木チーム2番目のクリア数6本。一位は36乾の7本。ゴールを決められてしまったし、攻守で5柳 育崇にやられてしまった試合。


3、有形無形変幻自在の栃木


エリア間パス図

エリア間パス図(栃木)

 良くパスを通したエリア間のパス数は少ない。栃木として、主体的に攻めるというよりは、右サイドを主軸にシンプルに、ロングパスや速攻を軸にして、弱いとこを突いていく。そういったサッカーを栃木はしていた。あくまで、カウンターからのセットプレー機会を含め、岡山の隙を探して攻めるからこそ、平均ポジション分布が、特殊な形となり、今回の様な図になったのではないかと思う。


4、岡山の課題


ヒートマップ - 梅田 透吾

ヒートマップ(31梅田 透吾)

ヒートマップ - 安部 崇士

ヒートマップ(22安部 崇士)

ヒートマップ - 井上 黎生人

ヒートマップ(5井上 黎生人)

ヒートマップ - 宮崎 智彦

ヒートマップ(11宮崎 智彦)

ヒートマップ - 河野 諒祐

ヒートマップ(16河野 諒祐)


 このGKを含めた守備陣が、これ以上ないぐらい攻撃的なポジショニングができており、31豊田 陽平をゴール前に侵入させなかった事が示す通り、岡山が持てていたが、栃木の壁を最後まで崩せなかった。昇格を目指すのであれば、こういった試合で失点しない事も大事だが、攻め時にしっかり得点を捥ぎ取る力。仮にJ2で首位争いをしていれば、対戦チームの中には、岡山をリスペクトしてくるチームがでてくる。そういった時に、ボールを持てていても点が取れないよね。と、なるとこういった極端なシフトとを敷いてくる下位チームがでても不思議ではない。

 もちろん、そこに対して、補強とチーム戦術の継続的な強化と、対策である程度戦えているが、このままで、来季も引き分けも増える可能性は、十分考えられる。19ミッチェル・デュークが、不在ではあったが、依存し過ぎるのも良くない。ただ、J1の川崎でもドリブラーの三苫 薫と、ゲームメーカーの田中 碧が抜けて、大きな戦力ダウンとなり、ここにきて、大きく失速している事も考えては、ある程度は、割り切る必要があるかもしれない。

 圧倒的な破壊力を誇った新潟も勝ち点が伸び悩み、京都と磐田から少し差が開いてきた。こういった昇格レースの厳しさを見ていると、勝負強さというか、勝ち癖をどうチームに付けて行くのか。6喜山 康平が時折見せる、毀れ球のへの反応する嗅覚の様な感覚を如何に磨いていくのか。それをチームとして、共鳴して攻守での勝負所で、一体感を発揮ができれば、岡山のJ1への道は少しずつだが近づく事ができる。

攻撃スタッツ - 徳元 悠平

攻撃スタッツ(41徳元 悠平)

 出場時間2分で、パス13本中8本成功。更にラストパス1本、クロス4本という驚異的なデータを記録。残念ながらアシストに繋がらなかった。ドリブラーではないが、サイドでの1対1の攻防では、頭をフル稼働させて、意表を突く仕掛けから、クロスまで行っていた事も考えても、ちょっとした工夫でチャンスをもっと創造できる可能性を感じたスタッツではある。

攻撃スタッツ - イ ヨンジェ

攻撃スタッツ(9李 勇載)

 駆け引きを繰り返した14分間の出場時間であった。次節以降は、より記録に残る活躍に期待したい。


5、試合総括


基本スタッツ

基本スタッツ

ゴール期待値

ゴール期待値

 岡山が巧く栃木のシンプルな攻撃に対して、粘り強く戦っていたが、栃木が一瞬の隙を活かして、しっかりゴールに結ぶ付けて、3連勝を記録。少ない手数で、ゴールに迫り1チャンスをしっかり決めた。

 栃木は、守備では、岡山にシュートを打たせない壁を構築。岡山のお株を奪うゴール前での高い集中力と高い守備意識により、ゴール前をカチコチに固めた。

 岡山は、高いボール支配率からの主体的な攻めの最後の工夫や、質が足りず、48石毛 秀樹や9李 勇載といった今季あまり使えなかった特徴をもった選手で、守備を剥がせそうなシーンもあったが、最後まで、栃木の守備に隙は生じず、3試合無得点で、久々の敗戦となってしまった。

 この悔しさを19ミッチェル・デュークが、再合流した磐田戦で、打破する事で、首位撃破のジャイアントキリングに期待したい。岡山の選手も高い士気を持って、首位に挑むと思われるが、元磐田の11宮崎 智彦は、気合十分と思われるので、特に活躍に期待したい。

文章・図版=杉野 雅昭(text・plate=Masaaki Sugino)、図(データ)=SPORTERIA様

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