筆者は名古屋グランパスのファンである。2020シーズンは降格がない一方で積極的な戦いから上位進出も期待している。名古屋は2019シーズン途中で風間監督からマッシモ フィッカデンティ監督へ交代し、それに伴い戦術も変わった。相関分析を使い戦術変更を見ていく。

相関分析を実施するにあたり、Footboll LABからデータを借用した。

Football LAB 名古屋グランパス https://www.football-lab.jp/nago/

対象とするデータについては、2019シーズンは風間監督が指揮した第1節から第26節まで、2020シーズンは既に終了した第3節までの3試合を対象とした。

相関分析を行うデータに関しては、チャンスビルディングポイント(以下CBP)とスタッツを使用した。CBPの定義についてはFootball LAB https://www.football-lab.jp/pages/cb_point/ を参照していただきたい。


2019シーズンの勝点と各項目の相関係数は下記の通り。相関係数に関しては詳細は避けるが、絶対値の1に近づくほど関係が強く、0に近づくほど無関係となる。また1に近づくと、片方が増えれば、もう片方が増えるという関係である。-1に近づくと、片方が増えれば、もう片方は減るという関係になる。

各項目の中で0.700以上の強い相関が認められるものはない。攻撃に関しては、攻撃(CBP)0.018、シュート(CBP)0.045と相関は弱い。ゴール(CBP)は0.382であり、他項目と比較すると多少高いが、「相関関係がある」と言い切れるほどの相関ではない。2019シーズンは風間監督の指揮のもとポゼッションサッカーを志向したが、ボール支配率(スタッツ)の相関係数は-0.250であり、ボール支配率が低い方が勝ち点奪取につながるといった皮肉な結果になっている。

次はボール支配率と各項目の相関である。 

唯一0.700以上の強い相関が認められた項目はパス(スタッツ)である。パスが多ければ多いほどボール支配率が高くなるという構図になっている。しかしパス(スタッツ)以外に強い相関が認められた項目はなく、ボール支配率が攻撃に対して、もっと言えば守備対しても有効ではなかったとの結果となっている。おそらく風間監督のポゼッションサッカーは難解で、選手の理解度や戦術の浸透度が低かったのではないだろうか。その結果が相関係数として表れている。


次は2020シーズンである。2020シーズンの勝点と各項目の相関係数は下記の通り。 

0.700以上の強い相関が認められた項目は、守備(CBP)、セーブ(CBP)、枠内シュート(スタッツ)、間接FK(スタッツ)、クリア(スタッツ)、ペナルティエリア進入(スタッツ)、オフサイド(スタッツ)、退場(スタッツ)である。

また-0.700以下の強い負の相関が認められた項目はパス(CBP)、総走行距離(スタッツ)、攻撃回数(スタッツ)、スローイン(スタッツ)である。

この関係を図式化すると下記の通りとなる。

まず左上の守備である。守備の強さが勝点奪取に強く関与している。守備項目の中でもクリアの相関が強く、安易にボールを保持するのではなく安全第一にボールをクリアする守備を敷いていることが分かる。ボールをクリアすることで相手にスローインを与えていることもわかる(相関係数-0.828)。守備ではセーブも大きく関与している。ゴールキーパーのランゲラックの存在である。ランゲラックのセーブが名古屋を救っている。次は左下の攻撃である。攻撃回数の相関係数は-0.707であり、攻撃回数が少ない方が勝点奪取に強く関与している。守備に追われる時間が長いのだと思われる。攻撃回数に関連する項目として、パス(相関係数-0.774)が少ない方が(逆に言えば少ないパスでの攻撃)、また総走行距離m(相関係数-0.853)が短い方が勝点奪取に大きく関与している。ここの部分が従来のポゼッションサッカーとは大きく異なっている。最後に右のシュートである。枠内シュートの相関が強く、枠内にシュートを打つことが勝点奪取に強く関与している。関連項目ではオフサイド(相関係数1.000)が多い方が勝点奪取に強く関与しており、思い切った攻撃をすることでオフサイドになってしまったり、成功すれば得点につながっている。またペナルティエリア進入(相関係数0.982)も強く関与しており、ペナルティエリアに進入することでシュート、ゴール、その後の勝点に結びついている。

2019シーズンの勝点と各項目の関係を図式化すると下記の通りとなる。

各項目の相関係数が小さく、バラバラで結びついていない。弱い相関係数をもとに作図すれば関係を図式化することができるが、弱い相関係数を使わなければならないほど戦術が浸透していなかったと思われる。2020シーズンは固い守備、シンプルな攻撃、正確なシュートというようにシンプルな戦術になっている。


これを踏まえて第2節 清水vs名古屋をレビューしよう。

基本スタッツ

まず固い守備の視点から見ていく。ボール支配率は清水54%、名古屋46%であり、主導権を握られているようだ。その一方で、シュートは名古屋の15本に対して清水10本であり、ボール支配率の割にはシュートを打たせていない。堅い守備が構築できている証拠である。コーナーキック数も圧倒されている。コーナーキックに中には、クリアしたボールがコーナーキックになったものも含まれており、前述したクリア(スタッツ)と一致している。また枠内シュートは清水に8本打たれたが、決まったのは1本だけである。ランゲラックのセーブが良かったのだろう。

次はシンプルな攻撃の視点である。ボール支配率は前述した通りだが、この数値から名古屋の攻撃回数は少なかったと推測できる。しかしながらシュート数は清水を上回る15本を打っており、ボールを支配されながらも、シンプルな攻撃からシュートまで持ち込んだと推測できる。スプリント回数は清水を大きく上回っており、ここでという場面でギアを上げたプレイが多かったのだろう。走行距離が短い方が勝点奪取につながるということを前述したが、ここの部分は異なっている。しかしボールを支配されている状況から、ボール「非」保持時の走行距離が長く、ボール保持時の走行距離は短かったのだと推測できる。こういったことからシンプルな攻撃が出来ていたのではないかと思う。

最後に正確なシュートの視点である。シュート15本の内10本が枠内シュートであり、清水の10本中8本と比較すると正確性は低いように見える。しかし枠内シュート10本中2本がゴールを奪い、20%の決定率であった。清水は12.5%であり清水よりも数値は高かった。シュートの正確性から決定的なゴールを奪うことが出来た。

Football LABのCBP及びスタッツとSPORTERIAで提供されたスタッツでは項目の内容に差があるが、それぞれを比較すると同じ結果が見えてくる。


2020シーズンは名古屋の戦術が大きく変化し、結果も確実に残している。相関分析から読み取れた結果である。名古屋の躍進を期待しています。