第9節 熊本戦のレビュー記事です。皆様の考察の一助としていただければ幸いです。

※今回も、やや内容を端折っております。というか、しばらくこのフォーマットで書いてみます。

※(2023/4/15 12:16)「■雑感」―「SPORTERIAで公開されているスタッツ」の項について、説明のページへのリンク不具合がありましたので、引用に修正しました。

          ◎

牙を剥く大木サッカー!洗練されたメソッドに苦しめられながらも、少しずつ押し返していく岡山。本当にあと少し、あと少しのところまで来ているのだが。。。


■試合前確認事項


・前節と同じく4バック。しかし、中3日のミッドウィークゲームということで幾らかメンバーを入れ替えた。中央は必ずしも◇型ではなかったかもしれない。しかしこの中盤の若さよ。


・ベンチ入りメンバーが充実し、整ってきた感はある。ソロモン、河井、高橋、木村、そしてチアゴ アウベスが今季初ベンチ入り。金山・濱田らが脇を固めて隙なし。


・ことしいちの黄砂が観測された日でもあり、スタジアムに居ても向こうのほうはうっすらと霞んで見えた。


・新社会人や新大学生なんかの姿をよく見かけた。そのままの勢いで沼にハマってほしい。大歓迎である。


■前半


・まずは対戦相手・熊本の振る舞いについて(前半というか、試合を通じて)。昨季J2を席巻した「大木サッカー」が今季も継続。シンプルだが、迷いがなく、小気味いい。リズムよくボールが動き人が動き、相手が捕まえきれないうちに致命的な一撃を突き刺しにくる。


・下図は熊本のパスソナー・パスネットワーク図。ほとんどの選手間で矢印が縦横に行き交い飛び交い、まさに蜘蛛の巣、ネットワークといった様相。このような壮観な図となるチームは、なかなか少ないのではないか。▼

パスソナー・パスネットワーク


・大雑把にいうと熊本のやり方は「無数のトライアングル」をピッチ上に作ることであるように思う。最低3人が絡む必要があるわけだが、当然人数が揃わないことだってある。そんな時はパスを出した選手がそのままスペースへ走り、今度は受け手になって動的に三角形を作っていく。特に後方の選手が積極的に前へ走り、前方の人数を補う。


・上述したやり方はいわゆる「ワンツー」であるが、出し手→受け手になる選手が「どこに向かって走るか」選択に迷いがないし、受け手→出し手になる選手も「どこに走ってくるか」予測に迷いがない。ここに良きリズム感が生まれる。


・トライアングルを作る→人が絡むということで、ボールサイドに対する人の間隔も自然とになっていく。下図の時間帯別パスネットワーク図を見ても、熊本が調子良く攻められていた時間帯は選手の間隔がギュッと圧縮され、近い距離感に寄っていることが伺える。▼

時間帯別パスネットワーク図


・対戦相手の岡山としては、熊本サイドの「いるはずの選手がそこにいない」→「いないはずの所にいる」というようなやり方を予測し、守り方を準備していたはずだが、それでも「捕まえられそうなのに捕まえられない」状況を惹起されていた。誰かにつけば誰かが空く。それをひたすら繰り返され、プレスが思うように効かず、最終防衛線の裏へするりするりと浸透してくる熊本の攻撃に苦しんだ。しかし最後のところで踏ん張ってゴールは割らせず、前半は無失点に収束させた。


・たとえ熊本が「人をどんどん入れてくる」と言っても、自陣内に敵が入ってくれば戻って守備をしなくてはならない。筆者としては、熊本に対する抑止力として、もう少し相手コートに「滞在」できるよう、前線にボールの収まりどころがほしいなと思っていた。ただ、この日の前半の2トップはルカオとハン イグォンで、ふたりともどちらかといえば裏抜けやドリブルなどが得意なタイプの選手であった。


・ルカオとハンで2トップを組んだねらいとして、岡山もショートパスで繋ぎながら打開するという視点があったようである。この日は熊本の完成度の高さの前に、その狙い通りのパフォーマンスが出せていたとは決して言い切れない。ただ、確かに中盤からショートパスで裏に走らせれば、うまくやれば熊本の最終ラインを後ろに引っ張ることは出来そうではある。


・岡山にとって前半最大の好機は24分、コーナーキックをショートで変則的にして、河野が上げ直したクロスに柳がフリーで合わせたシーンであった。柳自身は完全フリーであったので、決めておきたかったところだ。ただ、柳にとってのニアゾーン(枠内の近いほう)には相手GKが立っており、ヘッドでファー(枠内の遠いほう)を狙うコントロールが瞬間的に求められていた場面でもあった。


■後半

・後半の岡山は、前半に比べて相手陣内に入り込む機会が増え、相手ゴールにも近づいてプレーができていた。選手交代の妙などもあった。以下、後半に流れから作ったチャンスについて、(筆者独断にて)取りまとめ、表にしたものを載せる。▼



・54分にソロモンを投入。熊本サイドの警戒を集めつつ、彼のスキルでボールを数秒長く前線で保持できるようになった感がある。そのタイムラグを縫って高木や佐野、河野らが上がれる時間も出来たか、岡山は自信あるサイド攻撃を徐々に展開できるようになった。


・64分に河井・高橋を投入。高橋をWB左に置き、高木をCB左に置くことで3バック化した。▼


熊本の選手たちを徐々に捕まえ始め、少しずつゴールの靴音が聞こえるようになってきた中、73〜74分にこの試合最大の決定機が巡ってくる。セットプレーからの流れであったが、こぼれ球に対して河井が放った2発のシュート。この試合で最もゴール期待値の高まった一瞬であったと思う。しかし1発目は枠内に収まっていたがディフレクション。そして2発目は落ちる変化込みのダイレクトボレーで、相手GKもチャンス少なめであったが、クロスバーを叩いてしまった。クロスバーなんかなけりゃいいんだ(暴論)。


・勝利を諦めない岡山、75分に木村とチアゴを投入(たぶん、4-4-2に戻っている)。特に木村によって右サイド攻撃が大いに活性化し、右SBあたりに移動した佐野と共に右アタックサードへ雪崩れ込む場面を増やした。彼が入って以降、バックスタンド側、ゲート10は大いに盛り上がったのではないか。▼


・火力最大で攻めにかかった岡山であったが、ピンチがなかったわけではない。特に77分は完全に裏を取られ、(周囲にたくさん人はいるのに)自陣ゴール前に完全ドフリーの相手選手を作ってしまった。相手のシュートが枠を外れて事なきを得たが、肝を冷やした場面であった。


・後半時間が経つにつれ、筆者の岡山に対する心理的・抽象的なゴール期待値は高まりを見せた。実際、SPORTERIAで公開されているデータ画像においても、期待値は相当に高まっていたようだ。▼

ゴール期待値


しかし、結局最後までゴールを割ることは叶わなかった。他方で、熊本の練度の高い攻撃メソッドに手を焼きつつ、こちらも最後までゴールは割らせなかった。最後まで両軍スコアは動かず0対0のまま、タイムアップの笛が鳴った。


【速報】ファジ、熊本とスコアレスドロー J2第9節:FAGIGATE|ファジゲート

https://www.sanyonews.jp/article/1386006?rct=f_report


ファジアーノ岡山 2023マッチレポート | 4月12日 vs 熊本 | データによってサッカーはもっと輝く | Football LAB

https://www.football-lab.jp/okay/report/?year=2023&month=04&date=12


【J2第9節・熊本戦】木山隆之監督『もっとタフにやれるようにならないと』:FAGIGATE|ファジゲート

https://www.sanyonews.jp/article/1386044?rct=f_report


【J2第9節・熊本戦】チアゴアウベス『試合勘取り戻していく』、柳『まだまだ我慢のとき』、仙波『前半は球際とかで負けていた』、河井『チャンスをつくり続けることが大事』、佐野『もっと貪欲にゴール狙う』、田中『大事にいき過ぎちゃった』:FAGIGATE|ファジゲート

https://www.sanyonews.jp/article/1386048?rct=f_report



■雑感など


・先に掲示したチャンス表の通り、後半になってからの岡山は流れの中からも相手陣内でチャンスを作れるようになっていた。得点の匂いも大いにあった。だが、良いクロスが中で合わなかったり、相手のブロックに遭ったり、つながったと思ったらオフサイドだったり、決まったと思ったらバーを叩いたり…本当にあと少し、あと少しのところなんだろうと思う。


・▲試合後のクラブ公式ツイッターアカウントで「枠内0」と出ており、これが一部サポーターの琴線に触れたようだが、試合を観ているとそんな単純な数字だけで判断していいのか?と思えるところもある。73分の河井さんのシュート(バーをたたく前の1本目)は枠内とカウントされてもおかしくはないものだった(誰かに当たったので枠内でないということか)。その辺も踏まえて、出された数字を鵜呑みにするのがいいことなのか悪いことなのか。まぁ、この辺はもう観た人の価値観に任せるほかあるまい、とは思う。


※この件に関し、筆者お気持ち表明

何も終わっちゃいない!何も終わっちゃいないんだ!

おれにとってJ2リーグは、始まったばかりなんだ!

選手たちは勝てなかったが、一生懸命戦っていた!

それなのに!クラブ公式SNSにゃ試合が終われば「やる気が感じられない」だの「お前らプロか」だの「いい加減にしろ」だの、好き放題言いやがる!

おれたちの好きなクラブや、応援している選手たちがディスられている!

アイツらは何なんだ!(選手たちの頑張りも想いも悔しさも)何もわかってない!



基本スタッツ

・▲SPORTERIAで公開されているスタッツでは枠内4となっている。この辺の数値の考え方については、SPORTERIAの「データ検索」機能において、以下の説明が記載されているので、引用する。▼


本サイトの画像素材は、Jリーグオフィシャルスタッツの「J STATS:ジェイスタッツ」のデータを使用しています。(中略)本サイトの数値は試合終了直後の速報値を使用しているため、後日発表される確定値と異なる可能性があります。また、シュート数やラストパス数など一部については、データスタジアムが独自に取得した数値となっております。

データ検索 | SPORTERIA https://sporteria.jp/data/search_game_images




攻撃スタッツ - 高木 友也 ヒートマップ - 高木 友也

高木 友也について、90分通じて試合に出続けた。その中で、左SBから持ち前のドリブルなどで推進力を見せた。のみならず、CB左にも入ってその任をそつなくこなしていた。起用法における可能性の広がりを感じさせた。


守備スタッツ - 佐野 航大 ヒートマップ - 佐野 航大

佐野 航大について、観ているこちらをワクワクさせる攻撃というシーンは最近なかなか見られないものの、守備での貢献はきちんと個人スタッツ数値に残っている。ブロック6回、こぼれ球奪取6回はたぶんこの試合チーム最多である。終盤には右SBに入っていたが、木村 太哉とのコンビネーションも使いながら、あくまでゴールを目指す姿勢を貫かんとしていた。


GKスタッツ - 堀田 大暉

堀田 大暉について、前半をゼロにしのぐことが出来たのは彼のおかげであるといっても過言でない。特に20分あたりに発生した攻防(クロスを弾くが二次攻撃に遭い、飛び出しての対応を余儀なくされた)は緊迫感漂うものであったが、恐れず屈せず身を挺してゴールを守った。無失点に抑えることのできた最大の功労者であろう。


攻撃スタッツ - チアゴ アウベス ヒートマップ - チアゴ アウベス

▲帰ってきた勇者ALVES。後半ラスト15分のみの出場で、悪魔の左脚が召喚されるまでには至らなかったが、それでも持ち前のスキルは大いに発揮されていたと思う。彼がボールを持つと周囲にいる相手選手たちが「おっ、どうしようか?」と一瞬考えてるというか。味方としては「何をしでかすか分からない」ワクワク感があって、今後の活躍を予感させた。いや、活躍してもらわにゃ~困るのではあるが!


■次戦へ向けて

前節までの対戦成績


得失点パターン


・次節はアウェーで仙台戦である。3連戦の締めくくりである。今こうして筆者が記事を書いている中でも、すでに仙台へ向かっているファジサポさんが沢山いらっしゃるのだろう。行きたかったぜ…。


・岡山としては、昨季ホーム仙台戦では3対0の快勝であった。他方、アウェー仙台戦は0対0の引き分けに終わっている。敵地での初勝利をつかみに行きたいところである。


・得失点パターンを見る限り、岡山としては「セットプレーから」が相性が良いようである。今節・熊本戦においてもセットプレーから惜しいシーンを幾つも作ったので、継続していきたい。他方で相手も「セットプレーから」には強みがあるようだから、警戒していきたいところ。


・熊本戦は本当にあと少しだったのだ。いろんな声があるけれど、焦れずに諦めずに、続けていってくれることを願う。


(了)