新型コロナウイルスの影響で異例のシーズンとなりながらも、ついに最終節を迎えたJ2リーグ。

最下位脱出のためにも勝利を収めたいレノファ山口FCはホームでモンテディオ山形と対戦しました。

   フォーメーション図 フォーメーション図

山口は前節からスタメンを1人変更。楠本卓海が8試合ぶりの出場となりました。なお、トップ下に起用された高井和馬はチームで唯一の今シーズン全試合出場を達成しました。一方、山形は3試合連続で同じ11人がスタメンに名を連ねました。


山口のビルドアップ

前半は両チームともに攻撃時は後方からビルドアップ、守備時はハイプレスという戦術を中心に戦っていました。

特に山形は立ち上がりから鋭いプレスを敢行。2トップやサイドハーフの選手が積極的に前へ出て、山口の最終ラインにプレッシャーをかけていました。それに対して、山口の選手たちは簡単にクリアすることなく、落ち着いてビルドアップ。トップ下の高井が下がってボールを引き出したり、ワンタッチパスを連続して使用したりすることで山形のプレスを回避していました。

    攻撃スタッツ - 高井 和馬 ヒートマップ - 高井 和馬

また、状況によってはロングフィードでサイドを変えたり、ディフェンスラインの背後を狙ったりとピッチを広く使うこともできていました。以前は自陣でボールを奪われてショートカウンターを受けるシーンが何度も見られましたが、この試合ではほとんどありませんでした。


サイドの違い

山口は相手のプレスを回避し、敵陣にボールを運ぶことはできていました。ただ、なかなかシュートチャンスを作り出せず、得点を挙げることができませんでした。

先ほど示した高井のヒートマップからも分かるように、山口は左サイドからの攻撃が多くなっていました。ウイングに入った田中パウロ淳一は持ち味のドリブルを活かし、積極的に仕掛けていました。そこに高井やサイドバックの安在和樹が関わり、ワンツーなども使いながらサイドの深い位置へ進入。ただ、山形の守備を崩すまでには至らず、クロスがシュートには繋がることもありませんでした。

一方、右サイドでは池上丈二が良い形でボールを受けられず、チャンスを作れませんでした。田中パウロと池上のヒートマップを比較すると、ボールタッチ位置の分布に大きな差が見られ、池上は敵陣でのボールタッチ数が少ないことが分かります。また、池上のパス数は田中パウロの本数の半分のみ。2選手は同じ時間(67分)に交代しているので、単純に池上の方がボールに絡む回数が少なかったということになります。パサー型の池上は敵陣でボールを持てなかったことで特徴を出せず、チャンスを創出することはできませんでした。

    攻撃スタッツ - 田中 パウロ淳一 ヒートマップ - 田中 パウロ淳一

    攻撃スタッツ - 池上 丈二 ヒートマップ - 池上 丈二

前半、山口のシュート数は3本のみ(参考:https://www.football-lab.jp/r-ya/report/?year=2020&month=12&date=20)。そのうち、2本はコーナーキックからであり、流れの中から放ったシュートはわずか1本という結果となりました。一方、山形が前半に放ったシュートは5本。一度も枠を捉えられなかった山口とは異なり、ゴールへ飛んでいったシュートが2、3本ありました。ただ、山口のキーパー林瑞輝がセーブし、得点とはならず。前半は0-0での折り返しとなりました。


クロスから失点

後半に入っても山口はシュートチャンスを作ることができませんでした。一方、守備では後半の立ち上がりこそハイプレスで山形のミスを誘う場面がありましたが、次第にプレスの強度が低下。また、プレスの連動性も徐々に落ち、山形に攻め込まれるシーンが増加していきました。中央を固めてなんとか耐えていましたが、66分にクロスから先制を許してしまいました。

山形は右サイドでボールを動かし、サイドバックの山田拓巳がクロスを供給します。このボールにヴィニシウスアラウージョが合わせボレーシュート。叩きつけたボールがゴールに決まり、山形の先制点となりました。

    攻撃スタッツ - ヴィニシウス アラウージョ ヒートマップ - ヴィニシウス アラウージョ

シュートの際、アラウージョに対しては菊地光将がしっかりと体をつけていました。しかし、アラウージョはその状態にも関わらず、ややジャンピング気味にボレーシュート。難しい体勢でしたが高いシュート技術で得点を決めました。

山口は選手交代を準備していましたが、投入の直前に失点。試合の流れを変えることができず、先制を許してしまいました。今シーズン、山口が先制されたのは28試合。3試合のうち2試合で先手を取られたということになります。追いかける展開が多くなってしまったことで思うように勝ち数を積み上げられなかったのだと思います。


最終戦を勝利で飾れず

ビハインドを背負った山口は73分に安在のクロスから大きなチャンスを迎えました。クロスに対して山口は6選手がボックス内に入っており、ファーサイドにいた清永が右足でゴールを狙いました。しかし、ボールはゴールポストの横を抜け得点とはなりませんでした。

その後はシュートチャンスを作ることすらできず。後半はわずか2本のシュートにとどまり、無得点という結果に終わりました。試合終盤にはコーナーキックから追加点を決められ、万事休す。0-2で敗れ、今季最終戦を勝利で飾ることはできませんでした。


試合総括

基本スタッツ

山口は試合を通してチャンスが少なく、放ったシュートはわずか5本。枠内シュートに至っては0本であり、得点を挙げることができませんでした。守備では後半にプレスの質が低下したこともあり、2失点。0-2で敗れ、ホーム最終戦を勝利で終えることはできませんでした。



シーズン総括

この試合が山口の今季最終戦ということで、簡単に今シーズンを振り返りたいと思います。

山口はリーグ戦42試合を戦い、9勝6分27敗。勝ち点33で最下位となってしまいました。J3降格はありませんが、本来の降格圏外である20位とは勝ち点差16。厳しい1年となりました。

今季はとにかく失点の多さが際立ちました。74失点・得失点差-31はリーグ最下位。クリーンシートは7試合、1失点に抑えた試合は10試合であり、半数以上の試合で複数失点を喫してしまいました。シーズン序盤はセットプレー、中盤以降はビルドアップのミスや最終ラインの背後を突かれるパスから失点するケースが多く、シーズンを通して不安定な守備が続きました。

攻撃では高井が11ゴール、池上が7アシストとともにキャリアハイを記録。また、大卒ルーキーの浮田健誠が7ゴールを挙げるなど、結果を残した選手もいました。ただ、チーム全体としてチャンスを作れない、決定機を決められないという課題は常に存在。得点数は試合数を1上回るだけとなり、J2参入以降最少となってしまいました。

※以下は第41節までの得点パターン・失点パターンとなります。

   得点パターン 失点パターン

今年は4ヶ月半に及ぶ中断期間や試合の延期、超過密日程など異例の一年となりました。それでも、医療従事者の方々を始め、試合開催に関わる多くの方のご尽力により、リーグ戦全試合が開催されました。そして、選手・監督・チームスタッフの方々の奮闘により、毎試合素晴らしいプレーを見ることができました。Jリーグに携わったみなさま、本当にありがとうございました。


謝辞

最後に、このような機会を与えてくださったSPORTERIA関係者のみなさまに心より感謝申し上げます。スポーツアナリティクスに興味を持ち始めた自分にとって、Jリーグの実際の試合データを使用して分析できたことは非常に大きな経験となりました。2020年のJリーグが終了したこのタイミングでお礼を申し上げたいと思います。本当にありがとうございます。

そして、未熟な分析・拙い文章にも関わらずブログをお読みいただいたみなさま、いいねを押してくださったみなさま、コメントしていただいたみなさまに深く感謝いたします。

長文となってしまいましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。