ピッチは平行四辺形だった!?左サイドにボールを集め琉球のストロングを封じる【2022 J2第10節 琉球 0-1 群馬 レビュー】

ピッチが長方形ではなくて平行四辺形だったらいいのに…と思ったことはあるだろうか？

もしピッチが右肩上がりの平行四辺形だったら、攻撃的な右サイドハーフや右ウィングが高い位置を取ってマイナスのクロスを入れやすくなる。

伊東純也率いる柏レイソルを応援していた2018年、ピッチが少しでも平行四辺形になるように毎週流れ星にお願いをしていたこともあった。

なぜ急にこの話を始めたかというと、まさに今節の群馬がピッチを平行四辺形に使うことで勝利したからだ。

下のエリア間パス図とパスネットワークを見て欲しい。

群馬は左サイドを中心にパスを回し、どの時間帯でも左肩上がりの位置を取っていたことが分かる。

まさに、左は高め・右は低めとピッチを平行四辺形に使っていたことがわかる。

ピッチを平行四辺形に使うとどう効果的なのか、拙作ではあるが図解をしてみた。

ポイントは大きく分けると3つ

・琉球の右サイドを押し込む

・天笠のクロスを有効に使う

・田中・小島の運動量を有効に使う

と考えられる。この3つについて簡単に紹介する。

①平行四辺形ピッチで琉球を押し込む

琉球のストロングポイントは右ウィングバックを務める、田中恵太。

攻撃参加が魅力で、去年は一時首位に立った琉球の立役者といえる選手だ。

群馬は重点的に左サイドで前進することで、田中恵太を最終ラインに貼り付けさせることに成功した。

田中恵太のボールタッチ位置を見ると、一番脅威になるPA脇で仕事をさせていないことが分かる。

ピッチを平行四辺形に使うことで、相手のストロングを封じることができたようだ。

②天笠のクロスを有効に使う

さらに平行四辺形ピッチは、天笠のクロスを驚異的にする。

この試合では、加藤が低い位置でボールを受けて運び、天笠がコーナー付近でクロスをあげるというシーンが頻出した。先制点もこのかたちから生まれたものだった。

天笠は鋭く曲がるクロスを蹴れる選手。そのクロスにスプリント自慢の深堀が全力で飛び込む。すると守備ライン間に隙が生まれるので、クロスが跳ね返されてもセカンドボールは群馬に渡りやすいという算段だ。

ゴールのシーン、あの位置で岩上にボールが渡るのは必然だったともいえよう。

ヒートマップをみると、最前線の加藤より2列目の天笠の方が高い位置でボールを触っているという逆転現象が生じている。

ポジションという概念を覆す珍しい組み立てだが、臆せず90分貫き続けた選手たちに最大級の賛辞を送りたい。

※琉球の左WB大本は右利きで右サイドを本職としていた選手。天笠のようにワンタッチでクロスを入れづらい点もこの作戦を実行する上で大事だったことを添書しておく。

③田中・小島の運動量と献身性

最後は、田中稔也と小島雅也が平行四辺形ピッチの弱点を消していた点に触れる。

群馬は左に重心を置いてビルドアップをするため、ボールを奪われた際は右サイドに大きなスペースができる。

右サイドで出場した田中と小島は、圧倒的な運動量で広い守備エリアをカバーし、迅速なスライドで相手の前進を食い止めた。

ヒートマップを見ると、ピッチ右半分を満遍なく走っていたことが分かる。

左サイド：山中・天笠

右サイド：小島・田中

小島は敵陣でパスを受ける機会がほぼなかった。もしかしたら攻撃に出たい気持ちを必死に抑えていたかもしれない。

田中はシュートが0本だった。自分で試合を決めたい気持ち、10番を背負うプライドと決意を噛み殺していたかもしれない。

田中と小島の献身性は、作戦実行の上で欠かせないピースだったといえよう。

さらに驚くべきは、群馬はこの日交代枠を1つ残して試合を終了したことだ。

疲労を考慮して小島や田中を下げる選択肢も考えられるはずだが、それをしなかった（沖縄遠征で暑かったのに！）。

しっかり役割を果たしている選手は替えない、ということなのだろう。

このベンチワークから大槻監督が選手にむける暖かい眼差しと厚い信頼関係が読み取れる。

月並みの表現になってしまうが「すごい監督」だと、胸が熱くなる瞬間だった。

以上、本記事ではピッチを平行四辺形に使って試合を優位に進めたザスパクサツ群馬について触れてきた。

相手のストロングを封じ、自身の強みを活かし、さらに作戦の弱点も予め消しておくという完璧な作戦だった。

これも、相手の的確な分析・選手の特長・監督と選手の信頼関係があるからこそ為せるわざといえよう。

毎節的確な作戦を実行し勝利を積み重ねるザスパ、来節はどんな作戦が飛び出るか目が離せない。