サッカーのパワー


サッカーは「手を使わずにボールをゴールに入れる」という単純な球技でありながら、単なる球技とは思えないくらいに社会と複雑にかかわっている。

たくさんの関係者が、それぞれの楽しみ方・それぞれの夢を持ってサッカーと接している。


例えば、選手・スタッフは、チームの勝利に貢献し自身の市場価値を高めようと試みる。

ファン・サポーターは、応援で盛り上がったり、分析しながら見たり、とにかくスタグルを食べたりと様々な方法でサッカーを楽しむ。

スポンサーにとってのサッカーは広報・宣伝活動の一貫であり、費用と効果を天秤にかける1つのビジネスといえる。

サッカーに興味がない人にだって、サッカーは関わっている。例えば、ザスパが勝利した翌日は、ザスパを応援しているガソリンスタンドでガソリンが『1リットルあたり』5円安くなる。車社会の群馬ではガソリンは必須アイテム。サッカーに興味がなくたってザスパの勝敗が気になってしまう。


このように、サッカーは競技でありながら、競技にとどまらないパワーをもっている。

だから、サッカー選手の1プレー1プレーは、ピッチを飛び越えて誰かに何かを届けている。


と、冒頭にポエムを述べたところで、この試合でリーグ戦デビューをした山田晃士について紹介していく。


山田晃士とは?


山田晃士は早稲田大学を卒業して、新卒社会人としてサッカー選手を選んだ。

入団時インタビューは衝撃的で、

プロとして生きていくということ、それはサッカーを通じてサッカー以上のことを表現することだと思います。

という部分に胸を打たれた。ゴールキーパーとしてはもちろん、サッカー哲学者としても楽しみな選手が入団した。

※入団時インタビュー記事はこちら


入団後は第2,第3GKとして常に準備しながら、彼なりにサッカーを表現し、サポーターの心を鷲掴みにしていた。

試合前の熱い声掛けは「魂の鼓舞」とも呼ばれ、SNSで話題にもなった。

今年からは日本プロサッカー選手会の監事に就任した。そうそうたるメンバーとともに選手の立場からサッカー界の発展に尽力している。

最近はYoutubeチャンネルを開設し、積極的な発信を行っている。


山田晃士はピッチに立てずとも、常にチームやサッカー界に何ができるか挑戦をしてきた。


参考:魂の鼓舞


参考:日本プロサッカー選手会


スクランブルで山田晃士出勤!


その山田晃士がついにリーグ戦デビューをした。

チーム内でコロナが流行し、スタメン・ベンチで計9人選手の入れ替えがあった。

しかも、GKは山田を除き全員離脱。控えGKが0人というスクランブルで山田はゴールマウスに立った。

試合前にはゴール裏の山田コールに大きく一礼、彼はピッチで何を表現したのだろうか。私なりの解釈簡単に紹介していく。


GKスタッツ - 山田 晃士

※21本のシュートをあびながら、ファインセーブやパンチングで最小失点で切り抜けた。



統制された442と素早いカウンター、いつものザスパ


山田晃士の出番は早速訪れた。

1分には相手のシュートを止め、2分には素早い飛び出しで際どいロングボールを防いだ。

ゴール裏からは山田コールが巻き起こり、チームに安心感をもたらした。


90分を通してみると、いつも通りのサッカーができていたと思う。

ゴール裏から見てあらめて美しいと思った442の守備ブロック、大外を割り切りつつ中をしっかり閉めて得点を許さない粘り強さ、相手のパスを引っ掛けて鋭いカウンター。

選手がかわっても、培ってきたサッカーを継続できていた。


基本スタッツ


ゴール期待値



そして54分、山田のゴールキックを始点に、待望の先制ゴールが決まる。

山田のスペースを狙ったキックは、相手がキープしづらい。セカンドボールの取り合いから擬似カウンターのような形となると、田中稔也のクロスを鈴木国友がシュート、ポストに跳ね返ったボールを川本梨誉が冷静に押し込んだ。

このシーン、特筆すべきは田中稔也の推進力のあるドリブルだ。PA外から自分で切り込むと、クロスのフェイクからさらに一歩踏み込み、相手DFを置き去りにして完璧なクロスをあげた。

久しぶりの実戦となった田中稔也だが、復帰前に比べてPA近くでのボールタッチが増えた印象を受ける。もしかしたら、長倉幹樹(※この日はベンチ外)の前へ前へのエネルギーに触発されたのかもしれない。

1人1人の強みがライバルを刺激し、チームが表現できるサッカーの幅は広がっているように思えた。


ヒートマップ - 田中 稔也攻撃スタッツ - 田中 稔也



この4分後にチームは追いつかれ、試合は同点で終わった。

即座に失点した部分は反省点ではあるが、緊急事態で得た勝ち点1は評価に値するだろう。メンバーがかわっても積み上げてきたサッカーを変わらず表現できた点に、私は拍手をおくりたい。

その中で、特に山田の存在は大きかったように思う。ライン裏のカバーや鋭いパントキックなど判断に迷いがなく、チームに安心感をもたらした。(声出し応援可能の試合だったが)山田のコーチングはゴール裏まで聞こえてきて、GKとしてのリーダーシップもバッチリだった。

山田の背中は頼もしく、そのほとばしる情熱は私まで伝わって、今こうして記事を書く筆が止まらない。



成果が問われる残留争い


この引き分けで21位になったので、残留争いについて触れておく。

残留争いは相手があるもの。

ザスパは精一杯引き分けたが、他チームが勝利したため、降格圏へと足を踏み入れることとなった。

だが、降格圏にいながら、これほど雰囲気がいいチームも珍しいだろう。残留用の戦術を組み直すのではなく、あくまで1年間続けてきたサッカーを発展させ長期的に強くなる姿勢をみせている。

これを危機感が足りないという見方をすることもできるが、選手・スタッフは未来を見据えて勇気ある選択を続けているのだと私は捉えている。


水曜には、22位の琉球との対戦が控えている。

負けられない琉球は決死の覚悟で群馬に乗り組んでくるだろう。それをあくまでマイペースな群馬が迎え撃つ形なる。積み上げを信じて戦うことがどの程度妥当なのか、この1年そのものが問われる90分となるだろう。

そして、山田晃士はスタメンが予想される。負けたほうが降格にぐっと近づく魂の大一番で、情熱の男が何を表現するのかが楽しみだ。