1、前置き


 19ミッチェル・デューク。岡山で、衝撃的なデビューを飾った。現役のオーストラリア代表の実力を遺憾なく発揮した。データでみるとより鮮明となったチームの変化。岡山のサッカーへのフィット率も非常に高く、まさにピンポイント補強であった。それを強く感じることで出来たデータを振り返っていこう。


2、終始圧倒で勝利の方程式すらペースダウンに


ゴール期待値

ゴール期待値


 驚くべき事に、19ミッチェル・デュークが、出場していた時間では、山口側のゴール期待値は、ほぼ0で推移。山口の渡邊 晋監督が、怖さがなかったという攻撃は、データとしてもはっきり出ていた。

 そして、今までは、勝利の方程式として、導入していた3バック(5バック)すらゴール期待値こそ上がっているが、同点に追いつこうと山口が攻勢に出たとしても、データ上は、後退してしまっている。

 今までの勝利の方程式すら緩く感じてしまう。19ミッチェル・デュークのチームへの影響力といったのは、どういったものなのか。次のデータに行ってみましょう。


3、やりきれた攻撃の形


時間帯別パスネットワーク図

時間帯別パスネットワーク図(岡山)


「図1のポイント」
・常に19ミッチェル・デュークにパスが集まっている。
・19ミッチェル・デュークへのパスの成功率も高い。
・DFの平均ポジションがパスを出した所となっている。
・型に嵌らない時間毎に変化のある攻撃時の平均ポジション。


エリア間パス図

エリア間パス図(岡山)


「図2ポイント」
・サイドからの崩しに重点を置いたパス図。
・GK31梅田 透吾の高いパス成功数。
・サイドに運ぶ前には、中央を経由する工夫の跡。
・バイタルエリアを横切れそうな中央での崩しの跡。


ボールロスト位置

ボールロスト位置(岡山)


「図3ポイント」
・後方でのボールロストほぼなしの安定したビルトアップ。
・サイドの深い所でのボールロストが驚異の0で、やりきれている。
・縦方向へのパスのボールロストが多くなっている。
・右サイドの攻撃は、クロスやラストパスで中に配給できている。


 以上3種の図を見てきましたが、基本的には、自陣でのプレー機会は少なく、相手陣地でプレーする時間が長くなっている。加えて、サイドの深い所まで運んだ上で、クロスやラストパスというアクションまで到達している。シュートいうプレーに至る可能性の高い攻撃が出来ている事を示す十分なデータであった。そして、GKまでの攻撃の関与を感じるデータもあり、19ミッチェル・デュークだけではなく、11人で攻めている事を示すデータでもある。ただ、19ミッチェル・デューク加入前では、ここまでのデータは出ていなかったので、パスの成功数を見ても19ミッチェル・デュークの存在の大きさを感じることとなった。

 次に、山口にとってこの試合は、どうであったのかも見て行きましょう。


4、窒息しそうな圧力を受けた山口


時間帯別パスネットワーク図

時間帯別パスネットワーク図(山口)


「図1ポイント」
・ハーフラインを越えられない選手の多い。
・後ろでのパス交換が多くなっている。
・パスに関与できない時間帯もある46高井 和馬。
・繋ぐ事はできているが、前に運べていない。


エリア間パス図

エリア間パス図(山口)


「図2ポイント」
・後ろでパスをしっかり繋げている。
・パスコースから見えない攻撃の形。
・深い所でのパス成功数の少なさ。
・ここでも感じる前に運べないパス交換の多さ。


ボールロスト位置

ボールロスト位置(山口)


「図3ポイント」
・19ミッチェルのプレスでもボールロストしない安定した後ろでのパス交換。
・サイドの深い所を狙っているが、そこでボールロストしている。
・中盤でやり直そうとしている所でボールロストしている。
・ラストパスやクロスでのボールロストが非常に多くなっている。


 後ろでは、ボールをなんとか回せているが、そこから前に運べていない。これは、19ミッチェル・デュークの始点としてハイプレスにより、サイドや中央に良い形でのパスを入れる事が出来ていない事を示す。岡山の19ミッチェル・デュークを中心としたハイプレスにより、ボールロストこそしていないが、パスコースが限定されてしまった事で、中盤の選手の寄せを受け易い状況となり、そこでのパス交換での攻防でのロストが一定数ある。その苦しいパス交換の中で、前線に配給しても、精度や攻撃にかける人数というのが足りず、単独攻撃になりがちであった。ゴール前でのボールロストが多いが、その分成功数がほぼなく、ゴール前に入れるパスは、ほぼ通っていなかったことを示す。山口は、自分達の繋ぐサッカーができなかった。19ミッチェル・デュークを中心としたハイプレスの前に、息つく暇もない攻撃を強いられていた事が分かるデータであった。

 次に、これらの違いより鮮明に出たチームのデータを見ていきましょう。


5、明暗くっきり


パスソナー・パスネットワーク

パスソナー・パスネットワーク(岡山)


「ポイント」
・最前線でも高いパス成功数の2トップ
・後方でのパス交換は必要最低限。
・パスのベクトルが前方にある。
・攻撃の形を感じる色のあるパス交換。


パスソナー・パスネットワーク

パスソナー・パスネットワーク(山口)


「ポイント」
・前線のパス数の少なさ、特に1トップの46高井は0本。
・後方でのパス交換が多くなっている。
・パスのベクトルが横が多めとなっている。
・攻撃の形が見えないパス交換の多さ。


 前に運べた・繋げた岡山に対して、後でなんとか繋いでも前に運べない・繋げない山口。そういった構図がはっきりとしたデータとなっている。特に46高井 和馬の0のような数値は、今季からチェックし始めて、味方を含めて初めてみました。ここだけを見ても岡山が、どれだけ山口を圧倒していたのかというのが分かるデータであった。

 次は、選手個人のデータを見ていきましょう。


6、役割をしっかりこなした選手達


攻撃スタッツ - 白井 永地

攻撃スタッツ(7白井 永地)


攻撃スタッツ - 河野 諒祐

攻撃スタッツ(16河野 諒祐)


 クロス数が両選手とも5本を記録。ラストパスも7白井 永地が3本。SBの16河野 諒祐も1本記録している。驚くべき事にシュートまで記録している。サイドからクロスをどんどん配給して、19ミッチェル・デュークをターゲットにしつつも14上門 知樹や41徳元 悠平も狙って行く。そういった形が見えた。ゴール前に3人いるという状況を何度もチームとして作れるようになったのもこの試合から、チームとしてもゴール前に入っていくという意識は非常に高くなっていた事が分かる。また、この2選手が、シュートを記録している通り、左からの崩しやパス交換して、中に入っていく崩し。チームとしての攻撃の多彩さを感じるデータとなった。


攻撃スタッツ - 高井 和馬

攻撃スタッツ(山口)


守備スタッツ - 高井 和馬

守備スタッツ(46高井 和馬)


 攻撃スタッツは、シュート1本のみという寂しいデータあるが、守備スタッツに目を当てるとファウル4回。データだけ見ると、何もできていないように感じるが、これは、ちょっとした差でもある。これまで岡山が圧倒したというデータを示してきたが、スコアは、あくまで1-0なので、僅差であった。試合を観戦していた私から見れば、ゴール前のアーリークロスやスルーパス、ロングパスに抜け出して、反応してというシーンも何度もあった。事前に、GKやDFが先に触って対応したが、ここで、岡山の選手が対応を誤っていれば、失点していても不思議ではなかった。

 46高井 和馬は、1トップというFWらしく1チャンスを粘り強く待ち狙い続けた。この試合こそ不発であったが、山口としても劣勢であるが、しっかり狙いを持って戦っていた事が分かる。ただ、このようなデータとなった事で、何らかの対策や修正も必要であるのも事実で、得点の確率をどう高めて行くのかというのは、個人というよりは、山口というチームの課題と言えそうだ。


守備スタッツ - 井上 黎生人

守備スタッツ(5井上 黎生人)


 守備予測に優れた選手で、今まではブロック数の多かった。しかし、19ミッチェル・デュークを中心としたプレスにより、対人守備が多くなった。裏のスペースへのボールに対して戻りながらの対応や、サイドからの1対1という難しい対応が迫られた。しかし、元々スピードのある選手で、高い予測能力や身体能力を活かした守備で、巧く対応することができた。ビルトアップにも優れ、チームとしての安定感を生み出している。まだ若く、もっともっと伸びる。そう感じる圧巻のパフォーマンスであった。


守備スタッツ - 楠本 卓海

守備スタッツ(13楠本 卓海)


 16河野 諒祐や7白井 永地から多くのクロスを配給される中で、19ミッチェル・デュークへも対応。混戦の中での岡山の厚みのある攻撃に対しても、粘り強く対応。1-0という最後まで分からないスコアにできたのも守備スタッツをみても13楠本 卓海の頑張りは大きい。もちろん、3ヘナンや6渡部 博文も高い集中力をもって、DFラインというチームで頑張っていた。後ろでのパス回しの大きなミスもなく、ゲームを作った功績は大きい。ここは戦えたという点で、DF3選手と、GKの21関 憲太郎と共に、下を向かず、胸を張って欲しいと思う。


7、総評


攻撃スタッツ - ミッチェル デューク

攻撃スタッツ(19ミッチェル・デューク)


守備スタッツ - ミッチェル デューク

守備スタッツ(19ミッチェル・デューク)


ヒートマップ - ミッチェル デューク

ヒートマップ(19ミッチェル・デューク)


 攻守に大車輪の活躍。山口をこれだけデータで圧倒出来たのも19ミッチェル・デュークが加わったことが大きい。攻撃では、シュート3本、パスも28本。守備では、タックルやクリア、ブロックも記録。データには出ないが、ヒートマップが示す通り、縦横無尽にピッチを走り回り攻守で、圧倒的な存在感を放っていた。

 しかし、これでまだ合流して1週間。コンディションや連携的にもまだまだというだけに、これからの試合でどれだけのパフォーマンスを魅せてくれるのだろうか。涼しくなって行く中で、ハードに戦い易く、持ち味を出してい来ると思いますが、チームとして、しっかり準備して、試合に臨めるかどうかか、カギを握る事となりそうである。


基本スタッツ

基本スタッツ


 パス数が山口を大きく上回っている中で、ボール支配率に大差がない。これは、やはり、山口のパスを繋ぐスタイルであったが、自由に回せなかった。そういった事を如実に表れていたデータである。これは、後のデータで、岡山が上回っている事にも繋がっている。こういった感じに岡山が、データでは、山口に完勝しているが、スコア上は、1-0という最少得点差のスコアという事を考えると、山口の健闘もありますが、岡山がチームとしてまだまだであるのも事実であると思いますので、残り試合完成度をどこまで高めて戦い抜けるか注目したい。


文章・図版=杉野 雅昭(text・plate=Masaaki Sugino)、図(データ)=SPORTERIA様


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