1、前置き(データとサッカー)
自身の戦術などにおける機微な観察眼の精度の低さによって、データと感覚に差異があった時には、やはり落胆する。逆に、データと感覚が一致して時には、嬉しく思う。ただ、差異が生じた時には、自身の未熟さに恥ずかしさ覚えるのも事実だが、それだけではなく、データでサッカーをより知れる、学べる事で、満たされる知的好奇心も内在する。サッカーには、様々な楽しみ方があり、その楽しみ方は、尊重されるべきであるし、定義する必要もないが、色々な楽しみ方のあるスポーツで、データで見てみても面白いスポーツ。
また、これは、推察になるが、選手自身も、プレーの手応えと、データとの差異は、当然あるだろう。例えば、自身では、試合の中での走行距離が少なかったと感じていたが、実際にデータで確認すると、体感以上に距離を走る事ができていた。こういった感覚とデータの誤差を突き詰めていく事で、次の試合のプレーに繋げる。これは、クラブ単位で取り込んでいる所もあるように、単純に巧い・下手だけでは、戦えないのが現代サッカーである。
ただ、やはりプロという世界では、そういった巧い・下手で優劣が付く基準のウェイトは高く、観戦しているサポーターにも、その凄さが伝わってきているからこそ、プロになるという夢を持つ小さい子供達が多く、憧れの眼差しを注がれる。
私は、そういったサッカーの奥深さに嵌っている1人のサポーターであるが、感覚を言語化する事と、データを言語化することを通して、チームの良い所と悪い所を多くの人に発信する事で、サッカーの魅力を共有し、多くの人とサッカーを楽しみたいと思い文章としてまとめさせて頂いている。多くの方に読んで頂けていて、Twitterなどで、イイネやリツイートして頂けていて、非常に感謝している。
そういった感謝の気持ちを噛みしめつつ、プレーする側も観戦する側も楽しめる。そして、様々なスタイルで楽しめる。そういった魅力的なスポーツであるサッカーの2021年シーズン、J2、第26節、シティライトスタジアムのホームのファジアーノ岡山vs大宮アルディージャの試合の大宮のサッカーにフォーカスをデータで当てつつ、振り返っていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
2、分断と集結の攻防の時系列
時間帯別パスネットワーク図を双方のチームを見比べる事で、大宮と岡山の攻防をみていきたいと思います。
時間帯別パスネットワーク図(大宮)
時間帯別パスネットワーク図(岡山)
「前半0~15分」
・中盤省略の大宮のサッカーが嵌った時間帯。
・岡山は、ビルトアップに苦しみ押し込まれる
・プレスの壁で、岡山の組み立てを完封する大宮。
・自分達のスタイルを展開できない岡山。
「前半15~30分」
・プレスに多少慣れてきた事で、16河野が上がれるようになった岡山。
・プレスの人数を増やす事で、岡山のビルトアップに対抗する大宮。
・ロングパスやクリアが依然として多い岡山。
・苦し紛れのパスに限定できた大宮の前のプレス。
「前半30~45分」
・大宮のプレスの圧力に対し、リスクを冒して攻め上がったSBの2人で岡山が先制点。
・大宮は、失点の影響か前から行く守備は、目に見えて少なくなった。
・ハイラインとコンパクトに保ち攻守でバランスの取れた岡山の時間帯。
・その後も多少守勢に回っても体力を温存する大宮は、後半勝負の姿勢。
「後半0~15分」
・岡山は、3バック採用し、カウンター狙いにシフト。
・大宮は、前からのプレスと中長のパス、クロスで岡山のゴールの攻略を図る。
・守備網の手前からクロスやロング(ミドル)パスを入れられて、対応に困る岡山。
・後ろに人数を増やした事で、大宮の前から行くというサッカーに嵌る岡山。
「後半15~30分」
・攻守に一体感がなくなった岡山は、攻守の立場が、はっきりと分かる様になる。
・大宮が攻めては、岡山がクリアかロングパスという時間帯。
・カウンターとクリアを徹底し、ドリブルで運べる選手を前線に集めて活路を探る岡山。
・押し込むも油断が出来ない大宮は、あと少しというところで、ゴールが遠い。
「後半30~45分」
・この時間の岡山は、前から行けず、前線が孤立。
・大宮は、冷静に繋ぎつつ出しどころを探し、ペナルティエリアにパスを通していく。
・クリアvsクロス~シュートの攻防も手数が多い分ゴールが遠い大宮。
・最後は、足が攣る選手も出る中で、岡山が辛うじて逃げ切る。
「90分間の攻防」
・大宮は、多くの時間帯で自分達のサッカーを展開するも、先制点を奪われた事が響いた。
・受けの内容の試合展開の中、無理をせず明確なサッカーで対抗する岡山。
・工夫が目立ったが、試合運びに課題も判定次第では同点~逆転の流れを作れた大宮。
・後半の入り方に課題も、最後まで明確なプレーを徹底した岡山。
3、大宮の疑似的4バック
パスソナー・パスネットワーク図と、ヒートマップで見えてくる大宮の工夫。
ヒートマップ(7三門 雄大)
ヒートマップ(15大山 啓輔)
ヒートマップ(20櫛引 一紀)
ヒートマップ(24西村 慧祐)
「大宮の疑似的4バック」
・CBの20櫛引 一紀と、24西村 慧祐は、CBであり、SBである。
・DH(CH)の7三門 雄大と15犬山 啓輔は、DH(CH)であり、CBである。
・大宮は、4バックであり、3バックである。
・流動的と不動で、守備のバランスを保つ。
4、遊撃に特化した大宮のSB
簡単そうで、難しいSBの役割を、ヒートマップでみてみる。
ヒートマップ(6河面 旺成)
ヒートマップ(8馬渡 和彰)
「大宮式のSBの役割」
・両SBは、SBでありSHである。
・両SBは、基本的には、同じ役割。
・両SBは、プレス一翼として奪取を狙う。
・奪取後にゴール前にボールを配給していく。
5、集中と展開は誘導か偶然か?
基本的な役割は、一緒でもパスを集めるかどうか、選択する事で、ここまで差がでるパスソナー・パスネットワーク図と、個人スタッツ。
パスソナー・パスネットワーク図(大宮)
攻撃スタッツ(6河面 旺成)
攻撃スタッツ(8馬渡 和彰)
守備スタッツ(6河面 旺成)
守備スタッツ(8馬渡 和彰)
果たして、この偏りは、偶然なのか?それとも意図したものなのか?恐らくこれだけデザインされた形を持っているチームなので、意図した形であることは間違いない。現代サッカーで、J2で戦えるチームが、選手をただ、並べるだけは、あり得ないし、独自のスタイルを確立している。ヒートマップを見ると、それは顕著なものがある。
ヒートマップ(33河田 篤秀)
ヒートマップ(20櫛引 一紀)
ヒートマップ(24西村 啓輔)
ヒートマップ(15犬山 啓輔)
ヒートマップ(7三門 雄大)
この試合に限定されるかもしれないが、これらのヒートマップを見ても、意図的に右サイドに、選手が集中している事が分かる。左から右サイドに移っている事がある選手や左サイドで、大きく動いている選手が多いのに対して、右サイドの選手は、右サイドによりがちの傾向にある。これは、左サイドのパスコースを切って、大宮の攻守の強みである右サイドに誘導していると考えることができる。
6、大宮のサッカー
大宮のサッカーは、どういったものか?最後にこの図を見て、大宮のサッカーに迫っていく。
エリア間パス図(大宮)
ボールロスト位置(大宮)
見ての通り、左から流れるように右にボールが集まっている。ここまでのデータを見てきて、これが意味するのは、どういったサッカーなのか。
「大宮のサッカー」
・敵味方のボールを右サイドに誘導する事で、強みとするサイドで、自分達の長所を発揮する。
・前からハイプレスかけて行く中でも、右サイドに誘導し、そこから奪取からも強みを活かした攻撃を仕掛ける事を可能としている。
・前からの人数をかけたプレスを実現するために、後方のポジションは流動的に動く事で、スペースを埋める。
・DHとCBで疑似的4バックや3バックとも言える形を構築し、SBはWBのように高いポジショニングを維持する事で、ビルトアップや守備を安定させる。
7、岡山の大宮対策
「・敵味方のボールを右サイドに誘導する事で、強みとするサイドで、自分達の長所を発揮する。」への解答。
エリア間パス図(岡山)
攻撃スタッツ(11宮崎 智彦)
「岡山の対策」
誘導される方向に、一度は、左に繋ぐが、そこから対角線のパスを多用する事で、弱みとなる右サイドを使う。先制点もこの形から生まれた。また、相手の強みに、飛び込んだ中で、抜群の存在感を魅せたのが、11宮崎 智彦。ドリブル・パス・サイドチェンジ・クロス。テクニックを最大限活用し、プレス網を掻い潜った。
「・前からハイプレスかけて行く中でも、右サイドに誘導し、そこから奪取からも強みを活かした攻撃を仕掛ける事を可能としている。」への解答。
パスソナー・パスネットワーク図(岡山)
守備スタッツ(5井上 黎生人)
守備スタッツ(22安部 崇士)
「岡山の対策2」
無理に繋がず、長めのパスを多用。シンプルに、19ミッチェル・デュークを使う。ビルトアップでは、追い込まれていたが、自陣深く出のボールロストや、左サイド(大宮の右サイド)のボールロストも最低限に抑えた。中でも、5井上 黎生人と22安部 崇士は、無理にマイボールにする事には、慎重で、クリアする事で、危険を未然に防ぐ。
「・前からの人数をかけたプレスを実現するために、後方のポジションは流動的に動く事で、スペースを埋める。」への解答。
攻撃スタッツ(7白井 永地)
攻撃スタッツ(16河野 諒祐)
ヒートマップ(16河野 諒祐)
「岡山の対策3」
対角線のパスを多用する事と、縦へのパスを多用する事を合わせて、運動量のある7白井 永地が、スペースに使うポジショニングで、右サイドで、攻撃の形を作る。そして、人数ではなく、ポジショニングで対応する守備に対して、後方からの攻撃参加で、16河野 諒祐が加わる事で、厚みのある攻撃を仕掛ける。本来は、リスクのある攻撃だが、リスク管理や攻撃センスは、ここまでの試合で証明済み。7白井 永地と2人での右サイドでの仕掛けは、岡山の武器となりつつある。
「・DHとCBで疑似的4バックや3バックとも言える形を構築し、SBはWBのように高いポジショニングを維持する事で、ビルトアップや守備を安定させる。」への解答。
守備スタッツ(19ミッチェル・デューク)
ヒートマップ(27木村 太哉)
ヒートマップ(18齊藤 和樹)
「岡山の対策4」
現状、攻守に彼に頼るしかない。前線へのパスや守備の制限が求められる中で、セットプレー時の守備を含め、攻守でハードワーク。大宮のサッカーにより、押し上げが難しいサッカーの中、前で前線の選手をハードワークで引っ張った。後半の苦しい時間帯には、27木村 太哉と、18齊藤 和樹が、サイドのスペースを使う事で、相手のDFにプレッシャーをかけた。データでは示せないが、20川本 梨誉も献身的にプレスをかけた。
8、試合総括
基本スタッツ
ゴール期待値
基本スタッツと、実際に見た体感だと、このゴール期待値は、意外であった。これは、恐らくパス数の差と、パスの内容が、関係しているのではないか。岡山は、長いパスを多用し、効率よくゴールに迫っていたのに対して、大宮は、波状攻撃を仕掛けていたとはいえ、手数が多いのに得点を決める事ができていない上に、確実性の低い攻撃なども散見された。岡山の長いパスは、縦方向や対角線のパスが多かった事で、データ上は、内容の良い攻撃が出来ていたと錯覚していたと解釈する事もできる。
また、大宮の守備の人数なども関係しているかもしれない。そこまでデータとして計算しているかは分からないが、ヒートマップやタッチ数などで、そこまで計算しているとすれば、両WGが高い位置に残る事が多い事で、守備の人数が少なかった事で、岡山のゴール期待値が上がったとも考えられる。もしくは、人数が少ない事で、岡山の前線の選手に、攻撃のアクションの高い成功率が記録されて、データ上では、ゴール前で攻められて、ゴールに迫られたとも解釈できる。
岡山が、ペルティエリアへの侵入を極力させないために、クリアやロングパスを多用した事で、自陣でのプレー時間が短くなった事で、こういった事になったのかもしれない。そもそもシュートの回数なども関係している部分もあるかもしれない。
いずれにせよ、守備の内容をこういったデータに反映すると、また違ったものになる可能性があるかもしれないが、将棋で言うと、玉の守りを薄くして、手厚く指し方の力戦系の形になった事で、こういったデータになったのかもしれない。何れにせよ、データで分かる事と、より詳しいデータを確認しないと分からない事。もしくは、データの解釈で、データ自体が逆になる事は十分ありえる。データのどこを「良」とし、どこを「悪」とするかで、評価の数値が変わって来ることも事実である。データだけで分かる事と、試合を見ていないと分からない事がある。そういったデータの解釈の1つを、私の私見で、文章化することで、この試合の攻防などが、伝わる事で、大宮の事や岡山の事を知り、サッカーをより楽しむ事に、微力ながら貢献できていると嬉しいです。
文章・図版=杉野 雅昭(text・plate=Masaaki Sugino)、図(データ)=SPORTERIA様
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コメント(2)
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SPORTERIAスタッフ
2021/8/29 15:54
いつもありがとうございます!
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杉野 雅昭(masaaki sugino)
2021/9/5 06:07
コメント有難うございます。
サッカーをより深く味わうための"調味料"として、これからもデータを使っていただけると嬉しいです🧂
特定のサイドに偏ると、そちらから攻められるが逆に相手からもスペースを突かれることになりますが、大宮としてゃ"右サイドの攻防を意図的に増やしたほうが試合展開としては有利になる"と踏んだのでしょうか。
実際、良い時間帯も多かったと思いますが、サッカーはなかなか点が入らないスポーツなので結局先に1点取るか取らないかが勝敗に直結しがちなので難しいですね💦
ただ、狙っていることを試合でどれだけできたか、も重要な指標だと思います。
そうですね。
偶発的に勝ってしまう事がないわけではないですが、狙ったサッカーができたチームが勝ち易いスポーツであると思いますので、大事な勝つための要素であると思います。