第7節 いわき戦のレビュー記事です。皆様の考察の一助としていただければ幸いです。


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対戦相手全員、なんだかガタイが良い。いわきFCの選手たちを見て(試合を見返して)感じた印象です。しっかり、がっちりと鍛えられたフィジカルを以て、岡山をねじ伏せんと攻めかかってきました。他方、岡山も屈せず対応する。試合は両軍激しいぶつかり合いの様相を呈しました。



■スタートポジション



今季はじめて3バックを採用した岡山。その狙いは、木山監督のコメント等から察するところ「はじめから幅をとる」というものであった模様。前節・千葉戦においては相手にサイド(横幅)を先行して使われ、想像以上の苦しい展開を強いられたこともあったし、後半の3バック移行後はそれなりに持ち直した。そういうこともあって前週は、3バックでのスタートを視野に準備を進めていた様子。


したがって中盤の並びはフラットな4枚に。#6輪笠 祐士#41田部井 涼を並べる2ボランチに、幅を取る両WBは左へ#2高木 友也、そして右へ#15本山 遥がセットされた。


また、GKには#21山田 大樹に代えて#1堀田 大暉を今季初起用した。7戦目にしていよいよゴールキーパー序列の入れ替えが発生したということか。昨季の守護神がピッチに戻り、どのようなパフォーマンスを見せるのか、にも注目が集まった。


■試合展開等


岡山は前半10分に先制点を許してしまい、以後追いかける展開が続いた。サイドを使い、ロングボールを使い、個の力を使い、とあらゆる方法を駆使してゴールには迫るも、後一歩のところで相手ゴールを破れずに前半を折り返す。


後半になると、強いフィジカルを全面に押し出してくるいわきとの激しいマッチアップが随所で繰り広げられ、自然とスタジアムもヒートアップ。少しずつ相手を土俵際には押しこめていくものの、それでもゴールを破れずにいたが、試合終了間際にPKを獲得。エース#18櫻川 ソロモンがこれをきっちり沈めて同点に追いつき、1対1ののドローに持ち込んだ。



▽FAGIGATE|ファジゲート|【速報】ファジ、いわきと1―1分け 3試合連続白星なし J2第7節

https://www.sanyonews.jp/article/1381651


▽ファジアーノ岡山 2023マッチレポート | 4月2日 vs いわき | データによってサッカーはもっと輝く | Football LAB

https://www.football-lab.jp/okay/report/?year=2023&month=04&date=02




■データで振り返る

試合結果は1ー1。2試合続けてのドロー。岡山はこれで3試合勝ち無しとなった。


クラブが打ち出した目標「J2の頂」との対比からすれば、思ったより勝ち点を挙げられていない状況でもある。開幕前の高い期待と現状の差に、徐々にサポーター内でも焦りを覚える方が出てきてはいる。


しかし、試合を見返してみると、前節・千葉戦に比べれば内容はそこまで悪くなかったのでは?と思えたりもする。


◆スタッツについて

まずは、前節と今節のスタッツを比較してみる。▼


基本スタッツ基本スタッツ


後半途中まで全く主導権を握れなかった前節と比べ、今節は得点以外の全スタッツで相手の数値を上回った(FK数はギリギリ)。スタッツの数値の優劣については当然、相手の戦い方にも左右されることではあるけれど、少なくとも岡山としては、数値の上では前節より良くなった部分も多かったはずだ。



◆時間帯別のパスネットワークについて

前述のスタッツ数値を確認するところ、

・支配率   :岡山65%、いわき35%

・パス成功数 :岡山391、いわき135

となっている。これらの数値が示す通り、この試合の基本的な構図は「岡山がボールを動かし、いわきがそれを激しいフィジカルコンタクトで奪いにくる」というものであった。

では岡山はどのようにボールを動かしていたか?パスネットワーク図というデータがありましたので、そちらを引用してみます。▼

時間帯別パスネットワーク図


▲パスを受けた選手の平均ポジションという意味合いもあるようなので、それを踏まえていえば、岡山は横に幅をとって進撃しようという狙いの通りには布陣できているように思える。ゲーム序盤はやや右サイド偏重にもなっていたが、だんだん左サイドへの循環も徐々にできるようになった印象。

実際の試合を観ると、横幅もそうであるがゴリゴリ削ってくる相手守備の裏を突いて長い縦パスを打ち込み、スピードのある#9ハン イグォン#19木村 太哉を走り込ませるといった手法も見られた。今や岡山の大黒柱である#18櫻川 ソロモンにも長いボールが行きわたり、彼自身もボールを収めて前に走るという強さを存分に発揮していた。


▼ちなみに前節・千葉戦のパスネットワーク図はこんな感じであった。ボールを持てなかったので、特に後半3バック化までは薄ーい矢印となっている。

時間帯別パスネットワーク図



◆選手間・エリア間のパス交換について


パスソナー・パスネットワーク図について、前節と今節の比較。▼

パスソナー・パスネットワークパスソナー・パスネットワーク


この試合で今季初スタメン、Cスタにてようやくそのプレーをサポーターに見せることが叶った#1堀田 大暉が、積極的にパス回しに関与している。また、最終ラインと両WB(高木と本山)の間で多くのパスが交換されており、さながら「振り子」のようにも見え、「幅を取る」というねらい通りにボールを動かせているようにも見える。WB→シャドーへの矢印も、薄い色ではあるが何本か通せたことが記録に残っている。


他方で中央(輪笠と田部井、佐野ら)を通すようなパス・あるいは中央から配給されるようなパスに関しては、おとなしめの矢印となっている。実際の試合を観ていても、横展開からゴールを目指す道のりは多く作れていたが、あまり中央は使えていなかったという所感は確かにあって、それが表れた図であるともいえる。


個人的には#41 田部井 涼の左脚でのフィードから、ソロモン・イグォンなどを裏へ走らせるような、かつての上田康太⇒荒田智之(2014、国立)のような、そんなやりとりもちょっと見てみたい気がしている。



エリア間パス図

エリア間でのパス交換図。すでに触れている通り、左右のサイドを使って前へ進もうとしていることが多く、特に右サイドの使用が顕著。一方で中央、特にセンターサークル付近では矢印がなく、このエリアを使うシーンが少なかったことがうかがえる。



◆ゴール期待値

ゴール期待値にしても、終始、岡山が高い数値をマークしていた。試合でも、後半少しずついわきのパワーが落ちるにつれて、岡山が攻勢を強めていたのであるが、その傾向が表れた図であるともいえる。▼

ゴール期待値


前半10分でいきなり失点してしまったこと、これがすごくいただけなかったということは言うまでもない。落ち着いて見返すとそんなに悪い内容でもないように見えるのに、なんだか良くないという印象を持ってしまうのはこの点なのだろうなと思います。


先制点を与えた後、いわきのゴール期待値はわずかに増えているのみで、そこまで高くはなっていない。先制点を与えていなければ何とかなっていた試合だったのかなと、たらればですが想定します。



■ピックアッププレーヤー


◆ #1 堀田 大暉

今季初スタメンで舞い戻ってきた守護神。前述の通り、今節はビルドアップ参加(もしくはボールの逃がしどころとしての機能)として、フィールドプレーヤーとの積極的なパス交換がみられた。対戦相手・いわきの選手たちがガツガツとボールを奪いにくる中、それを躱しながらパス循環の一端を担ったという点、前節までの山田ではあまり見られなかった点ではある。


筆者は、昨シーズン初めてそのプレーを観た時から「足元の落ち着き」にさすがのものがあるなあ、と思っていたところですが、体の向きやパス方向が良くない場合であっても、相手のプレスが厳しい場合であっても、ぎりぎりまで落ち着いてプレスを躱し、ボールをさばくことが出来るのが彼の良いところだと考えています。今節でも、その強みが発揮できていたといえるのでしょう。

GKスタッツ - 堀田 大暉

▲ちなみに、この日の堀田が出したパス本数は37本となっており、今季の岡山のGKが1試合で出した本数としては最多のようです。この本数は、昨季のデータと比較しても、多い数値であるようです(昨季の最多本数は、2022/07/02:第24節:岡山×熊本で42本(当該試合のGKも堀田))。


GKパス本数についてはSPORTERIAさんのスタッツデータ画像などより確認


◆#15 本山 遥

時間帯別パスネットワーク図の項でも触れた通り、前半30分ごろまで、岡山が進軍する際に主として使ったメインルートは右側のサイドでした。この右サイドでボールにかかわったのが本山。この試合では彼を通しての敵陣進入が多く試されていました。

ヒートマップ - 本山 遥


この試合は岡山がボールを持つ傾向にあったので、岡山がサイドを使えば、必然的にいわきも同じレーンに立ちふさがって妨害・奪取しようとしてくる。屈強なフィジカルで、ゴリゴリとプレッシャーを浴びせてくる。複数人で奪いに来ることもある。この試合序盤において、本山のいる右サイドはまさに激闘の最前線と化していました。


DAZN中継では本山のところを「狙われている」という表現もなされていましたが、まぁその通りではあったのかなと思います。一方で、いわきのプレス攻勢については「剥がしても剥がしても誰かがいる」というような多重の連動が仕組まれているというものでもなく、焦れずに一枚はがすことが出来れば、その背後にスペースが見つけられることも多かった印象があります。


はじめは結構身体を当てられ、奪われるシーンもありましたが、プレスを躱して背後のスペースに抜け出し、一列前方にいるハンイグォンらを使ったり、自分でクロスを試みたりというプレーも見せられていました。


攻撃スタッツ - 本山 遥 守備スタッツ - 本山 遥



ボールロスト位置


▲他方でこの試合では、右で取り返される(ボールロスト)というケースが多かったことも、上記のボールロスト位置図からうかがえる。ここで奪われた本数をいくらかキープ出来るようになったり、こらえて次の選手につなげられたりするようになれると、#16河野 諒祐のポジションに一歩前進できるのかな、と考えています。

もっとも、右から攻めているので右で防がれるのは必定でもあるし、本山だけでなくイグォンらにも言えることではありますが。


◆#42 高橋 諒・#27 河井 陽介

J1経験豊富なふたりの戦士が、途中投入で今季初出場。


攻撃スタッツ - 河井 陽介ヒートマップ - 河井 陽介



攻撃スタッツ - 高橋 諒ヒートマップ - 高橋 諒


いずれも経験に裏打ちされた、落ち着き払ったプレーが、チームの攻撃にアクセントをもたらした。

二人とも、力、勢いだけではなく、「こんなときはどうすればいいか」という選択肢を広く持ち、状況に応じて一番いい選択を取ることが出来る、という印象。


自分で効率的なコースへボールを出すだけではなく、気の利いたポジショニングでボール受けにも貢献する河井。高木とはまた違ったドリブル・剥がしのテクニックをみせ、相手PA内へのクロスを打ち込んだ高橋。彼らが今後、ここまでチームを引っ張ってきている「若い力」と融合することで、まだ奥底に眠っているチーム全体のパワーを引き出すことにもつながるかもしれない。


コンディションに気を付けつつも、もっと出場機会が増えるといいな。


◆#22 佐野 航大

ポジションを変えながら90分走り回り、状況打破を試みたミドルシュートなども放った。おそらくチームいち、広くピッチを駆け回っている。この日、運動量の鬼と化していたことがヒートマップから分かる。▼


攻撃スタッツ - 佐野 航大 ヒートマップ - 佐野 航大


世代別代表から復帰後2試合、まだゴールはない。チームのために走ることに徹している印象もあるが、どこで魅せてくるか。そしてチームはこの前途有望な若者をどう活かすか。


◆#5 柳 育崇

この試合でいちばん多くのパスを出していたのが、この柳であった。▼

攻撃スタッツ - 柳 育崇ヒートマップ - 柳 育崇


成功72/本数90、成功率にすると80%。この数値がいいのかどうかはさておいて、この試合では右サイドに最終ライン間に前線にと、彼がパスを配球したりボールを繋いだりというシーンが多くなっていた。また、ヒートマップを見ると前線にも出ていった形跡が残っているが、実際にゲーム終盤には自ら最前線まで上がっていっており、クロスも1本上げている。


前半10分の失点シーンにおいて彼が絡んでおり、それに関しては厳しい意見があることも事実。しかし、反省や修正は選手たちがしっかり行ってくれると筆者は信じており、ここで払った痛い出費を必ずどこかで取り返してくれると思っている。


今シーズンの彼はチームの主将。今節に限らず、今後も矢面に立つことは多いだろう。それでも食らいつき、身体を張り、勝利のためにいつも率先してチームを鼓舞しようとしているのは、まぎれもなく彼だ。



▽【J2第7節・いわき戦】木村『抜きにいったら足が引っかかった』、堀田『あの失点は防ぐことができた』、柳『DFとして責任を感じている』、河井『ようやく試合に出られるコンディションに』、高橋『自分のクロスでゴールを演出したかった』、櫻川『最後の質にこだわっていかないと』:FAGIGATE|ファジゲート

https://www.sanyonews.jp/article/1381737?rct=f_report



■雑感・次戦へ向けて

3試合勝ち無しという状況下で、やはりその事実・結果にフォーカスすれば「思い通りに行ってない」と考えてしまうのは致し方ないこととも思います。ただ、もがく中でも「なんか繋がりそう」な雰囲気もある。


いずれにしてもこの試合は、「内容は良かったかもしれないが結果を出せていない」と評価するか、「結果は出なかったけど内容は良かった」と評価するか、人によって解釈は異なるだろうと思いました。筆者としては、結果と内容両方にフォーカスできているのなら、どちらの考えがあってもいいのかなと思っています。


なんにしても、終わったゲームは基本的にやり直せない(いや、やり直すことも極極極まれにあるが…)。反省・課題には目を向けつつ、次のゲームに目を向けていかなくては。


ということで次節はこれまた昇格組、藤枝MYFCとのアウェーゲーム。互いに直近5試合で白星ひとつ、渇望するのは勝点3といったところであろうから、今節にも増して激戦となることは必至であろう。


前節までの対戦成績


もがいている岡山であるが、ここでついにいよいよ待望の情報も入った。あの男がもうじき復帰だという。誰もが皆、首を長くして待っていた。やっぱりあなたが大将だ。

https://www.sanyonews.jp/article/1382568


※ちなみに、「藤」繋がりでいえば、岡山県にも和気町に藤棚というのがあって、これから見ごろを迎えるな。


▽藤公園|観光スポット | 岡山観光WEB【公式】- 岡山県の観光・旅行情報ならココ!

https://www.okayama-kanko.jp/spot/11611



(了)