メンバー

  • GK: スンテ
  • RSB: 広瀬
  • CB: ミンテ、関川
  • LSB: 安西
  • CH: ピトゥカ、樋口
  • LSH: 荒木
  • RSH: 和泉
  • FW: エヴェラウド、鈴木
  • Sub: 沖、林、常本、三竿、中村、仲間、染野


所感

現地観戦。試合を通して本降りの雨が降る2月の寒さの中での一戦。

メンバー紹介で岩政監督代行の名前がコールされた時には感慨深いものがあった。


攻撃

スタートのシステムはオーソドックスな4-4-2。戦い方も特に目新しさを感じない入り方。YouTube のキャンプ動画で時折見られたボランチが深めの位置から対角線に向けたフィードからの攻撃の回数もそれほど多くは見られず、これをある程度徹底して狙っていこうという感じはあまり受けなかった。どちらかというと試合開始から後半途中のメンバー交代までは左の安西が大外から縦に運んでクロスか、右で和泉と広瀬が大外レーンと一つ内側のレーンを臨機応変に使っていくケースの方が多かったような印象を受けた。前線が2 トップスタートだったため、LSH 起用となった荒木は、ほとんどの場合で大外レーンを使うLSB 安西との兼ね合いでプレーエリアが一つ内側のレーンに集中することとなったが、ここでは昨年のような輝きを見せることはなかったと言わざるを得ない。彼の最も得意とするのは狭い局面でも相手守備の中間に入り込んで後方から縦に入ってきたボールを素早く前向きにターンしてゴールに直結するシュートまで持っていくところであり、昨シーズンにトップ下で起用された試合で非常に有効だったと思うが、サイド寄りのエリアで前向きにターンしたところでそこから直接ゴールを脅かすことは難しい。今シーズンはCF がリーグトップクラスの選手3 名(上田・鈴木・エヴェラウド)に加えてキャンプでもアピール著しい染野という厚い編成となっており、2 トップの試合も増えることは容易に想像され、本人としても自身のプレーヤーとしての価値をさらに増していくためにもサイド起用で違いをどう見せていくのかという点にチャレンジしているのではないかと思う。つまり、和泉・土居のようにSB の動きに合わせて黒子にも見えるようなプレーでチームの攻撃を助けていくのか、カイキのようにパワーでサイドからゴールに迫るのか、あるいはファン・アラーノのように一度相手にボールが渡ったとしても間髪入れずに急襲し続けることでDF を後ろ向きにさせて前向きに即時奪回することでビッグチャンスを作り出すのか、おそらくいずれとも異なる形で自分の特徴をどのように有効に発揮する方法を模索しているのだと思うが、現時点ではまだ解を得られるには至っていない段階なのだろう。ルーキーイヤー・2 年目に見せたような成長を止めることなく、今年さらに武器を増やしていくことを期待したい。

58 分に広瀬・和泉に代わって常本・三竿が投入され、三竿がCH に入り、樋口がRSH、鈴木がLSH、荒木がトップ下に入る4-3-2-1 にシステム変更。リードした水戸が守備意識を強めた展開であったことを差し引いて考える必要はあるが、鈴木はLSH でのプレーも及第点と言える出来だったのではないだろうか。エヴェラウドもLSH でもプレーできるため、今シーズンはこのような形がいくつかの試合で見られるかもしれない。RSB にそのまま入った常本はやはり攻撃でそれほどバリエーションを見せることはなく、前半からCH で良い立ち位置を取り続けていた樋口がペナ角周辺で何度か起点になっていた。三竿も昨年終盤あたりでよく見られたチャレンジする縦方向・斜め方向への配球を見せていたが、残念ながら得点に結びつけることはできなかった。樋口については、新戦力のところでも取り上げたいが、27 分にドリブルでの仕掛けからPK を得たところも然り、随所に光るところは見られた。

絶好の先制チャンスとなったPK は鈴木がキッカーを務めたが、GK をまったく見ることなく蹴ったキックの質・コースも平凡でストップされたのは当然と言わざるを得ない。攻撃が形としてゴールを脅かす気配がないまま前半半ばで迎えたチャンスだっただけに、これを決めていれば試合の流れが大きく変わったと思われる場面でのPK 失敗は痛恨だった。

4-3-2-1 となってからの時間帯は水戸が中を固めてきており、サイドからのクロスが前半よりも増えたが、クロスターゲットとして優位性を持つ鈴木・エヴェラウドは既に交代しており、中央で相手が待ち構える中で得点を奪える期待値はほとんど感じられなかった。トップ下荒木はCF が染野になったこともあり、中央の狭いエリアの連携で突破していく形を作ることができており、得点の可能性を感じられるチャンスを繰り返し迎えたが、最後のところでシュートがバーや相手の好守に阻まれてしまった。得点という結果が得られなかったことはある程度運にも左右されるところではある。


守備

現時点でのCB のファーストチョイスと思われるミンテ・関川が問題なく対応していた。関川はキャンプでのテストマッチには出場していなかったように見えたので戦前はコンディションの面で不安を抱いていたが、水戸もおそらく4-4-2 で試合に入っており、システム的には両チームが噛み合う形で、鹿島の守備もそれほど動かされる局面も見られず、各ポジションが個人の質的優位性で上回っていた鹿島が対応で慌てさせられることがなかったというところだろう。関川もこのレベルの相手であれば昨季後半に見せた安定性を持って守備対応できることが確認できたことは収穫。J1 平均以上のクオリティを持った攻撃力の相手を対戦してどうなるか、というところを今シーズン注目したいところ。新加入のミンテは左CB で先発して守備・ビルドアップとも無難に終えた印象。ここも、CB の対応力が問われる場面を迎えた際に味方とのコンビネーションも含めてどうか、というところを見ておきたかったが、この試合ではそのような場面はほとんどなかった。

守備面から見たSB は先発した広瀬・安西はやはり不安は払拭できないと感じる。守備重視であればRSB は常本で問題ないが、LSB は代わりとなれる選手がおらず、シーズン通しての課題となる懸念も残る。昨年のように左CB のミンテがカバーして中央エリアをボランチがカバーする形となると思われるが、シーズン通してこのボランチのカバーを徹底できるかが鍵となるかもしれない。ボランチに三竿が起用されていればあまり不安はないが、今日のように樋口・ピトゥカのコンビとなると、試合を通じてかなり自由に動きまわるピトゥカが危険なエリアを埋めきれない場面は容易に想像がつく。ピトゥカ自身が非常に献身的なプレーヤーであるがために、昨年第32 節のホーム川崎戦でAT に決勝点を奪われたシーンのように、最後のところで寄せきれない、といったリスクも持ち合わせる。


新戦力

キム・ミンテ

関川と同じく、守備で危険なシーンがほとんどなかったため、特にJ1 リーグ戦で組織・個人の高い攻撃力を備えるチームと対峙した際のパフォーマンスを見て評価していきたい。

ビルドアップの持ち運び・パス・フィードは苦手とはしていない印象で、少々のプレッシャーを受けたとしてもある程度安心して見ていられた。


樋口

ボランチスタートで、後半に三竿が投入されたタイミングでRSH に一列上がる形となった。マイボールの際にボールを受けるポジショニングや受けたボールを配球し、その後に再度ボールを受けられる位置に常に動いており、彼の存在でチームがうまく回っていたようにも見えた。

前半のPK 奪取の場面では、試合を通じてチーム全体にあまり見られなかったチャレンジのプレーからであり、非常に良いトライだったと思う。新加入のプレーヤーがチームのこれまでのプレー基準と違うムーブを見せてくれることでサッカーがよりダイナミックに躍動するきっかけとなることを改めて感じさせられた。ひとつ違うバリエーションのプレーを織り交ぜることで、相手チームも狙いを絞るのが難しくなるため、チームがこれまでに積み上げてきた感覚のプレーもより効果的になってくるのではないか。樋口にももっと思い切りの良いチャレンジをより回数多くトライすることに期待したいし、彼に限らず、新加入選手には自分の特徴を思い切って出すプレーを期待したい。それがひいてはチーム全体の向上につながるからだ。


鈴木

新加入とはいえ、鹿島には復帰組であり、これまでの鹿島スタイルが感覚的に染み付いており、そこにベルギーでの成長分とチームを担う責任感をプラスアルファしたと言うべきだと思う。

スタート時のエヴェラウドとの2 トップはまずまずの印象。お互いのプレーが重なりすぎないように上手くコンビネーションできていたと思う。

前半のPK 失敗は気負いすぎたのか、GK の重心移動を見るそぶりもなくあっさりストップ。チームを引っ張る責任感と気負いすぎない余裕のバランスは今後の成長に期待か。後者の意味も込めてPK 自体も今年初の有観客試合で新加入選手をサポーターに披露する意味でも樋口に任せる選択肢をとっても良かったのではないか。

後半は選手交代に伴う4-3-2-1 へのシステム変更でLSH に移動。試合としては1 点のビハインドを追いつくためにも鈴木1 トップの手もあったのではないかと思うが、LSH でも及第点以上のパフォーマンスを見せていた。水戸が後ろ重心の守備に移行した状況であったという事実は差し引く必要があるが、CF が少し余剰とも言える編成の中での選択肢としては良いのではないか。


仲間

75 分に投入されてLSH でプレー。チャレンジしたいという気持ちは伝わってきたものの、さすがにプレー時間が短かったことと、試合の状況としては鹿島は成り振り構わずとにかく1 点を取りに行く、水戸は守備を固めてとにかく耐え切る、といった局面であったために仲間自身の評価をするには情報が限られすぎていた感がある。これからシーズン通しての仲間のチャレンジとチームとの融合を楽しみにしたい。


チームとしての戦い

PSM ということで、GK は前半スンテ・後半から沖の起用となった。圧巻だったのはスンテの振る舞い。試合を通してチームに力を与えるコーチング・フォローの声が非常に効果的。特に荒木や樋口がプレスバックして奪いきれずに相手コーナーに逃れた際の声かけを見た時にこれがチームに与えるプラスの影響力ははかりしれないものがあると心底感じさせられた。対照的に気になったのは、スンテ以外の選手からの声がほとんど聞こえてこなかったこと。聞こえてきた声は後半に1点リードされて試合の残り時間が少なくなっていくにつれて相手チームのプレーに苛立つ声や守備対応が不十分だった味方を叱咤する声に限られた。そのような声も必要であることには違いないが、チームを勝たせる・苦しい時に状況を打破するといったことにつながる空気を作ることができていたのは残念ながらゲームキャプテンだった鈴木・ピトゥカでも昨年までのキャプテンだった三竿でもなく、クォン・スンテのみであった。

プレーヤー個々の質という点では各ポジションで水戸を上回っていたが、試合の入りから得点を奪える気配を出すこともできず、数少ない被チャンスから失点し、試合終盤に守備に回った相手を攻めたてるもゴールは奪えない。ここ数年何度も見ていた負けパターン。質的優位性を持に合わせていないながらもチームとして同じ方向性を明確に持って試合に臨むことのできた相手に対して勝ち筋を見つけられず試合終了を迎えて感じた空気は例えば2021 シーズン第28 節ホームアビスパ福岡戦と非常に近しいものがあった。チーム・スタッフ・メンバーなど変わった部分は多くあるのだろうが、それでも変わる以前と同じような結果しか得られない。

試合が思ったように運ばないとき、チームがなかなか上手くいかないとき、どうやってチーム一丸となり前に進むのか。かねてからの課題であるが、今年はさらにベテランも少なくなり、より難しいところもあるかもしれないが、サッカー的な実力は十分に兼ね備えており、若さという勢いもあるチームだと思う。どんな試合もチーム一丸となって試合開始から終了の瞬間まで常に勝利を目指して戦い続ける、そんなシーズンを期待して応援したい。


リンク

公式試合レポート: https://www.antlers.co.jp/games/53186/live

ハイライト: https://video.twimg.com/amplify_video/1492760955520184321/vid/1280x708/CBnhR223yWEqLqh8.mp4