1.メンバーとスタッツ

スターティングメンバー:

フォーメーション図フォーメーション図


  • 快調に走っていた横浜FCは3試合連続引き分けからの2連敗で、4月後半から急激にブレーキがかかっています。齋藤功佑の離脱(この試合で復帰)はあったものの、他はそんなにキープレイヤーを欠いている印象はないのですが。
  • メンバーは、左WBに高木&武田ではなく右利きの山下を持ってきたのが目を惹きます。特に武田は試合前のセレモニーで親御さんも来場していたくらいなので、明確な意図があったと見るべきでしょう。あとは最終ラインにガブリエルが、フェイスガードをつけながらも強行出場で、人が固定されない中では序列的に上の方なのかもしれません。GKは失点が多めだったからか?六反が2試合出ていましたが、ブローダーセンに戻してきました。


  • 直近2試合(vs熊本&秋田)の感想は、熊本は首位チームに対するアウェイゲームでも怯むことなく前に出てくる、いかにも大木剛監督らしいスタイルで、ビエルサ・アルゼンチン代表のような1-3-3-1-3っぽいシステムからのpressingで、横浜FCのDFは時間を確保できずにボールをほとんど運べませんでした。ただ撤退守備が怪しい(5バックの前をアンカー1人で守っているような感じなので、横浜の2列目/シャドーがキーだったはず)熊本に対して、もう少し打てる手はあったかな、という感じはしました。
  • 秋田とのゲームは、敵は相手選手というよりは札幌厚別を彷彿とさせる強風で、前半に風上の秋田がアドバンテージを最大限に活かしたキック&ラッシュ戦法を仕掛け、あまりサッカーをしてくる相手じゃなかったな、という印象です。


  • 開幕から引き分けが多かった徳島。ここ5試合は3勝1分と勝ち点ペースの引き上げに成功しているようです。メンバーは、ここ2試合はトップにバケンガではなく藤尾。左は浜下から坪井や杉森。渡井は急にベンチ入りしなくなったので負傷でしょうか。最終ラインは色々試しているようで、カカがまだ軸になりきれていないのは誤算でしょうか。


スタッツ:

基本スタッツ


2.互いの狙いや仕組み

徳島の基本スタンス:

  • 昨シーズン、J1の椅子を失ってでも”ポヤトスのサッカー”を信じることとした徳島。じゃあそのポヤトスのサッカーってなんすか?と言われると、キャッチーに一言で言い難いのですが、ゴールにダイレクトにアタックするよりも、ボールとポジショニングによってゲームをコントロールすることを重視しているのかな、という感じがします。


  • これは監督の戦術というかはチーム作りの話になってくるのですが、予算的に限られている中で加入した選手がアンカーの櫻井と長谷川、最終ラインの新井、石尾、中盤の児玉、GKのスアレスだったりで、ラスト20mで仕事をする選手を藤尾くらいしか加えていない
  • 昨シーズンの徳島のアキレス腱は、センターバックのクオリティ(パワーとスピード)と、ウイングのクオリティ不足で、クリーンにビルドアップして敵陣でウイングにボールを渡して1on1の形までは行っても、そこから決定機創出には至らなかった(コン●ドーレと正反対だ)ことを考えると、前線で仕掛けを担う選手の補強が必要かと思ったのですが逆の方向で動いている。
  • これはバケンガ、西谷、浜下はJ2ならやれるって計算なのかもしれませんが、言い加えるとしたら、そんなにダイレクトにゴールに向かってプレーするスタイルを志向していない、というのが私の仮説です。


相変わらずのアキレス腱:

  • 昨シーズンの徳島のやられ方のパターンとして、CBに簡単に放り込まれたボールを処理できずに押し込まれて失点、みたいなのが何度も見られました。ダニ・ポヤトス監督がジエゴを重用したり、福岡ではなくドゥシャンにビッグゲームを託していたのはこのため(パワー不足を少しでも補いたい)だったのでしょう。


  • ただその福岡、ドゥシャン、ジエゴが去った最終ラインには屈強なDFの補強が実現できておらず、この試合もスタメンには登録175cmの内田と、180cmだけどファイターというよりはサイド兼任の安部。リカルド前監督は内田を3バックの右として採用していましたし、このCB2人+藤田+新井といった最終ラインで、横浜FCのアタックを少ない人数で対処できるようには到底見えない
  • となると、徳島は簡単に最終ラインを晒さないように、pressingでハメまくるとか、素早くリトリートして枚数確保して守れるように準備しておかなければならない。岩政大ちゃん氏がかつて言っていましたが「鹿島の4バックは5トップ相手でも1人で2人マークできるから普通にやれる」、徳島の場合はこういう強気な対応が成り立たないのです。


  • クロップのリヴァプールが現代サッカーにおける先導者だと思いますが、1-4-3-3というシステムだと、オフェンスにおいて前に3人を配していることを活かしてボールを持っていない時も1-4-3-3の形を維持して守る、必然と高い位置からのpressingに積極的なチームが増えているな、と感じますが、少なくともこの試合に関しては、徳島はpressingを切り上げてリトリートに移行する判断を早くして、その辺りは横浜FCの攻撃に対するリスク管理を非常に考えていたように思えます。


横浜の配置変更:

  • 横浜FCのボール非保持は、普段はトップ(この試合だと小川)と右シャドー(同・伊藤)の2トップ。左シャドー(長谷川)は下がって3枚並ぶ形を作って人を捕まえるマンマーク基調のpressingを仕掛けます。
  • この試合は、非保持の際も左から長谷川、小川、伊藤の並びを崩さず、小川がやや下がってアンカー櫻井を監視、長谷川が徳島の右CBの内田に出ていく形をとっていました。
  • この意図はなんでしょうね。四方田監督の試合後のコメントでも特に言及はされていないようでした。構造的には、トランジションの際に長谷川が左でスタートして、小川が下がり気味でスタートすることが多くなります。が、小川が下がることに何か意味があると見えませんでしたし、長谷川も自由に動き回っていました。
  • 多分これは、櫻井を見る人を明確にしたくて、そうなると自由に動き回る長谷川よりも小川にやらせるのが妥当、と言ったところでしょうか。


徳島はGKに入るとプレス、それ以外はリトリート。が、リトリートがあんまり上手くない。


3.試合展開

互いの初手:

  • 横浜FCは徳島に対してお決まりの、全ポジションでマンマークのプレッシング。ポヤトス監督も言及していましたが、櫻井にしっかり人を当ててきます。
  • その分、最終ラインは同数で、しかも徳島はウイングが幅をとったポジショニングからスタート。ガブリエウと亀川は、岩武をサポートできる位置にいたいけど、ウイングに対しても出て行かないといけない。徳島はこの横浜の”ジレンマ”を狙いたいところです。


  • 開始早々に坪井が抜け出しかけて、ガブリエウが倒してイエローカード。キーとなる攻防で先手を取れたといえるでしょうか。
  • ただ、その後は横浜の3バックがこうした脅威を感じることは稀でした。それはまずウイングが仕掛けられるシチュエーションでボールが配球されなかったから。長いキックがあり白井と児玉への配球も担う櫻井を消したことで、徳島の3枚のアタッカーは孤立します。

パスソナー・パスネットワーク


  • そしてCBは長谷川と伊藤に見られている。徳島は、この展開はある程度予期していて、そうなるとGKスアレスから長いボールを前線に蹴る、と決めていたのかもしれません。
  • 藤尾と岩武の攻防は互角ぐらいでしょうか。ただ、徳島はセカンドボールを拾うためにはインサイドハーフが押し上げないといけなくて、かつそこまで大胆にそれをやってなかったので、チャンスには繋がらなかったと思います。


前も後ろも問題あり:

  • 次第に徳島のボトルネックが顕在化していきます。まず徳島は前線高い位置からのpressingがあまりハマっていませんでした。藤尾がCB2人を見て、誘導したところでウイングかインサイドハーフが出て捕まえるイメージだったのでしょうけど、枚数も追い込み方のうまさも寄せの速さも全てが足りていない感じでした。
  • 無理だと判断すると、徳島は早めに1-4-1-4-1のブロックを作って引きます。が、配置上、1トップの藤尾の脇に、横浜で一番キックがうまい手塚がフリーで入り込みやすく、一応白井が出てケアするものの、横浜が櫻井を消していたのとは対照的に手塚はボールに関与し続けます。


パスソナー・パスネットワーク


  • 徳島は反対サイドへのサイドチェンジは、SBの新井や藤田が横浜WBを意識したポジショニングで牽制していたようです(DAZNのカメラに映りにくいのですがそんなふうに見えた)。しかし、そもそも手塚が蹴れる状況が既に、横浜の前5枚の誰かvs徳島の4バックのどこか の局面が生じる2秒前。
  • かつ、新井がイサカ ゼインに気を取られると、右シャドー伊藤翔へのマークは大変甘くなる。ただでさえ、櫻井がアンカーで、その前の「4」は藤尾の周囲を守るために前に意識が寄っていると、伊藤の周囲にはスペースができている。横浜FCは中央を使った攻撃がそんなに得意ではないのですが、この状態は中央をかなり使いやすい条件が揃っています。


  • このような攻防下で私が気になったプレーが14分、横浜は手塚の浮き球の縦パスを小川が競ります。徳島のマークは内田でしたが、小川に寄せられて満足に競ることができず、ボールは背後へ。伊藤が抜け出してシュートし、ネットを揺らしますがオフサイドの判定で取り消し。
  • 判定に助けられたものの、徳島のDFはシンプルな縦パスを跳ね返すことができない現実を突きつけられた格好で、私は「きついな〜」と思ってしまいました。


  • そして41分にセットプレーの流れから、右WBイサカへの長いフィードが成功します。このフィードはなかなかこの試合通らなかったのですが、セットプレーで配置がイレギュラーになっていたところで成功。イサカが新井を縦に突破して、ニアへの低いクロスを伊藤翔が詰めて横浜が先制します。


3バックへの帰着:

「私たちはフリーマンを見つけてプレーしていく事を念頭にしています。外と中を使いながらボールを繋いでいいコンビネーションを作り、1対1のところで行き切ることを目指しています。今日の試合は均衡した試合でしたので、1対1などで行き切れなかったことがありました。

私たちはルヴァンカップを含めて過密日程が続いています。その中でも選手たちはしっかりと表現してくれていると私は思っています。あとはコントロールやパスなどの一つ一つのプレーの正確性を日々の練習の中で突き詰めていきたいと思っています」


  • ポヤトス監督の言葉通り、徳島が後半に動きます。昨シーズンからよく見せていたパターンですが、SBの役割とポジショニングを調整して3バックのような形に。
  • 「フリーマンを見つける」:横浜は新井に対して伊藤が出ていくか迷いが生じて、新井がフリーになりやすい。徳島はここを基点として左サイドからボールを持ち出して、横浜のDFが密集してくると右の藤田征也にサイドチェンジ。藤田は最初からアイソレーションのような感じで高めの位置でスタートします。


  • 昨年はジエゴを調整栓としていたこの形は、おそらくわざと左右非対称というか半端なポジショニングの選手を用意することで、3枚なのか4枚なのかピッチレベルで判別しづらい効果も狙っているのでしょう。


  • ビハインドでpressingがいまいちだったので、ボール保持だけではなくボール非保持も改善する必要があります。こっちはこのような形になっていて、


  • 横浜が4バック、CB2人の形になるところに枚数をまず合わせたい。私はこれも2トップの1-3-1-4-2なのか?と思ったのですが、見た感じ、杉森は高い位置をとっているので変則的な形で前線から守備をしていたようです。
  • ただ、撤退時は杉森が最終ラインまで戻ってくることもあって、見え方によっては5枚で守っているようにも見えました。
  • これを見て感じたことは、やはりDFに能力のある選手がいないと最終ラインの枚数が多めのシステムを採用するしかない。かつ、徳島の場合は、FWやウインガーも孤立した状態から何かを生み出せるか?というと、もう少しコンビネーションが生じやすい形を作る方がベターなのでしょう。3バック+2トップのこのシステムに行き着くのは、ポヤトスとしては不本意なんでしょうけど必然なように思えました。


  • 徳島はシステム変更からボーナスタイム!といきたかったのですが、横浜は手塚が割と早い段階でシステム変更に気づいて、かつCBにアタックしたい徳島の意図も読んでいましたね。手塚がCB2人の間に落ちてレシーブ→ターンで、徳島の1列目守備は狙い通りとはいかず空転してしまいました。


  • 徳島の最初のカードは60分に坪井→西谷。横浜が相変わらず守備の基準点を見出せないので、この時間帯、徳島はボールはまだ回っていて、ここで西谷だけではなくバケンガか一美を入れて、完全に2トップのオフェンスに切り替えて勝負でも良かった気もします。
  • そうしたオプションを考えていたかは謎ですが、65分に手塚の鋭く曲がる左CKにガブリエル。
  • 大谷翔平ばりにたいへん爽やかな語り口に定評のある幸谷秀巳解説員(マジで久々に遭遇した)はフリーマン・藤尾のクリアミスを指摘していましたが、このキックはかなり処理が難しいと思います。
  • スコアが2-0となってから徳島は藤田→カカ、杉森→一美、藤尾→バケンガ。元の1-4-1-2-3に戻して、一美が右ウイングみたいな形になります。バケンガは見た感じ、ムービング系のFWというか、ファーで辛抱強く待ってクロスボールを押し込むタイプではないように見えました。
  • その後は徳島が終了間際に一矢報いますが、横浜が逃げ切り久々の勝ち点3を手にしました。


4.雑感

  • しばしばミシャの1-4-1-5システムのサッカーは配置がキモ(≠ヲタ)と言われます。が、サッカーは配置だけで成り立つものではない、ということをこの試合は教えてくれます。
  • 徳島にプレッシャーを与えていたのは配置以上に、横浜の選手のクオリティだったりマッチアップの力関係でしょう。伊藤翔のポストプレーだったり手塚のロングパスだったり、イサカの攻撃参加だったりといったアビリティと結びつくことで”配置”に意味合いが生まれます。
  • 逆に徳島はウイングや前線にまだ”出口”となるタレントが、まだ見えない感じがします。そこはある程度覚悟したチーム作りなのかもしれませんが、ロースコア前提ならセットプレーの強化(キッカーは長谷川?)というか有効に活用したいところでしょうか。


  • 後は、徳島のやり方だと、オフサイドラインを活用した守り方というか、もう少し重心を押し上げて守るやり方の方が机上論的には有効な気がします(机上論というのは、pressingとポジショナルなビルドアップを、若いチームがうまく使い分けるのはなんか無理そうな気がして)。もし四方田監督が山下を左WBで使ったのは、そうしたことを考慮していたとするなら、プロの監督はすごいなと思います。