去年までのサンフレッチェは、相手に対してどう対策していくかというところに注力していたため、サンフレッチェは事前の自分たちを対策してくると分かっている相手だと、違うパターンを選んで来ることがあり、それに対応するために時間がかかり、対応ができたか出来なかったかで勝敗に差が出るというチームだった。どちらかというと「受け身」のチーム。

それは、世代交代で若手が入ってきたことや、移籍してきた選手がJ2からの選手も多くJ1のレベル、考え方についていけないところから監督の采配でチームを作っていこうとしていたように見えた。そうなると迷いやレベル差から来るミスも多くなり、終盤は相手チームの選手個々への対策も成熟してくるのでなかなかスッキリとしない試合が増え高順位に居たとしても頂点には届かないという2年を過ごしてきた。

去年から言われて来たことだったが「自分のストロング」を伸ばすことをやってきたが、今年に入りそこへ基礎技術を上げていくことがプラスされた。もしかすると逆の方がいいのでは?と素人的には思うのだが、自分というものを確立した上でのベースアップと考えると、自分の自信がベースアップにより、さらに自信に繋がるのかもしれない、オープンに見せたトレーニングマッチ鳥取戦での若手、サブチームの大躍進の結果を見ればチームの力が底上げされた事が予想された。

前半、15分もたたないうちに柏選手が負傷。広島の左サイド、チームの攻撃のキーマンを失うという大きな不安がよぎる負傷交代である。しかし、ここへ入った浅野選手がサブメンバーとは思えない活躍をする。たいてい若手が不意の交代で入ると他の選手がカバーに回り全体が偏ってしまい、相手に対してスペースを与えがちになる。それに気づかれてしまえば即失点に繋がる。しかし、自分たちの布陣を崩すことなく浅野選手は、浅野選手で確立したプレイでチームに貢献していく。たしかにそうしてもらわなければ、前線に広島全盛期を支えたドウグラス、スピードスター古橋選手、そして、イニエスタ選手と力を持ったタレント軍団に相対することは出来なかったかもしれないが、浅野選手が自分のプレイに自信を持って臨んでくれたことで、チームの危機救ってくれた上に、自信のJ1初ゴールも獲得することが出来た。ペレイラ選手、ヴェレイラ選手の2人のプラジル人の事も忘れてはな行けない。ヴェレイラ選手はJクラブに長くいるためJリーグのサッカーについて理解も深い。しかし、ペレイラ選手は、まだ、これまで積上げてきた自分のブラジルのサッカーからの脱皮が出来ていなかった。しかし、彼のポジショニングからのスペースメイクは素晴らしく、その上でさらに自身がゴールすることも出来るストロングを持っている。あとは、Jリーグへの対応だけだ。

この休止期間に彼はそれを身につけた。Jリーグを知るヴェレイラ選手と並ぶことで彼のストロングも生かされる。二人で協力してお互いを生かせる2トップが完成されつつある。ゆえのペレイラ選手の2ゴールである。

そして今年、新たなる司令塔が誕生した。背番号8、川辺駿選手である。去年までのサンフレッチェは、前線からボランチまでの間にスペースを持つことが多く、ここを相手に使われるとカウンターを喰らいまくるという負の連鎖から抜けられない試合になることが多かった。今年はここへ昨年トップ下だった川辺選手が名乗りを上げた。彼のこのポジションは昨年名古屋へ移籍した稲垣選手のポジションだった。彼の運動量を活かしてスペースを開けていたとするならば、川辺選手は、自分の動きで周りが動けるようなプレイをする。邪魔はしない、でも、お互いを引きつける、よい距離間を保ちながら相手にパスコースを与えない。そして、虎視眈々と布陣を見ながら、最後は自分が前線に飛び込む。この年齢にしてこの才覚。新たなる広島を牽引する選手の誕生である。

そして、その司令塔を支えるのがベテラン青山選手である。常に彼の視線の後ろで自分の両脇と川辺選手の向こうの相手のプレイを注視し仕掛けてくる相手に対して早い対応をチームに展開する。去年までのように自分が誰よりも早く相手に突っ込んでいく、ということはしない。しっかりと見続け、細かく動きながら、そして、ボールの受けも出しも対する相手のタイミングをずらす。そこでチームのベースが上がったと思うのが、そのタイミングのずらしにしっかりと付いてきてくれる所だ。今年のサンフレッチェのサッカー自体はショートカウンター、奪ったら前を向けと、いたってシンプルだ。しかし、そこへ至るまでの細部のこだわりがこの勝利に繋がっている。相手への対策でなく、自分たちのサッカーを手に入れつつあるサンフレッチェの強さは2013年の頃と同じような「自立したチーム」のように見えた。