大槻毅監督が就任し、初陣を迎えたザスパクサツ群馬。

3年連続で7位以内という強豪、モンテディオ山形を相手に1-0と勝利した。

ザスパは終始安定した守備を見せ、被枠内シュートは3本と大きなピンチもなくセーフティに試合を終えた。


本記事では決勝点を決めた山根永遠選手に焦点をあてて、見事初陣を飾った大槻ザスパについて振り返っていこうと思う。


基本スタッツゴール期待値


フォーメーション図フォーメーション図












クリスマスプレゼントとしての山根永遠


2021年12月27日、ザスパクサツ群馬は山根永遠の完全移籍での加入をプレスリリースした。

サポーターは少し遅めのクリスマスプレゼントとその予想外の内容に驚きを隠せなかった。


というのも、山根選手とザスパはJ3で何度か対戦をしていて、山根の活躍でザスパが敗れたこともある。

C大阪U-23で輝きを放つ山根をみて、こういう選手が将来日本サッカー界を牽引していくのだろうと敵ながら称賛したものだった。


そんな因縁のライバルが加入。

一体全体どんな活躍をしてくれるのだろうか?そもそも何故群馬に来たのだろうか?

昨年34試合2ゴールはさすがに少ないのでは?

多くの期待と不安が入り混じった開幕節。

それをすべて吹き飛ばす、八面六臂の大活躍であった。


SPORTERIAの潤沢なデータを活用しながら

・ビルドアップ

・フィニッシュ

・守備

のそれぞれにおける山根永遠の活躍を振り返っていこう。



ビルドアップの出口としての山根永遠


ザスパの基本フォーメーションは442だが、ビルドアップ時には【レフティー競走馬】こと左SB光永祐也がCBの隣に降りて、【金色の韋駄天】こと右SB小島雅也が高い位置を取っていた。

左サイドで組み立て→右サイドに展開、というのがビルドアップの方針のようだ。

実際にヒートマップをみると、右サイドが左に比べて高い位置にあることがわかる。



左サイド(光永・山根)

ヒートマップ - 光永 祐也ヒートマップ - 山根 永遠


右サイド(小島・田中)

ヒートマップ - 小島 雅也ヒートマップ - 田中 稔也



左サイドで組み立てる上で、ビルドアップの出口となっていたのが山根永遠だった。

CFとしての経験も豊富な山根は、相手SBを背負う・ターンする・ドリブルで剥がすという技術に長けており、左サイドを制圧した。

左サイドで貯金を作って、右サイドに素早く運ぶうえで、山根はまたとない中継点となっていた。


先制点のシーンも、光永が山根に縦パスを入れ、山根が相手を背負ってスローインを獲得したところから攻撃がスタートした。

実際にパスネットワークやエリア間のパスをみると、自陣左サイドが活性化していることがわかる。


格上相手の対戦が多く、ポゼッションをする機会は少ない(と予想される)ザスパであるが、その貴重な機会を大チャンスに変えるのが山根永遠のキープ力であった。


エリア間パス図パスソナー・パスネットワーク



フィニッシャーとしての山根永遠


続いて山根の攻撃スタッツを振り返っていく。

チーム最多のシュート4本を放ち、枠内シュートは3本。

後半には先制点と似たような位置からゴールを脅かすシーンもあり、左サイドからのシュート力は折り紙付きと言えよう。

攻撃スタッツ - 山根 永遠



ではどうして低めの位置とっていることが多い山根がこんなにシュートを打てるのか。

ポイントは左CFの【新・ミニ四駆】加藤潤也と右SHの【タフ・ファンタジスタ】田中稔也とボール奪取能力にある。

この2人は献身的で運動量が落ちない守備が可能であり、山形のビルドアップに幾度となくプレッシャーをかけ、何度も敵陣でのボール奪取に成功した。特に加藤のタックル数とこぼれ球奪取数はFWとしては異例の数字といえよう。


実際に山形は自陣右サイド(ザスパの左サイド)でボールをロストしている。

加藤・田中らの前線の守備からボールを奪い、最後は山根が決めるという流れが開幕からできているようだ。


それにしても山根、ビルドアップもフィニッシャーにもなれるとは器用な選手である。

まるで、ベイシアとカインズが一緒になったような選手だ。

(ベイシア、カインズはそれぞれ群馬県を中心に展開するスーパーとホームセンターです)




守備スタッツ - 加藤 潤也守備スタッツ - 田中 稔也


ボールロスト位置


本当は守備における【紺碧のエンペラー】細貝萌・【鶴舞う国の知将】岩上祐三の傑出度にも触れたいが、紙面の都合上省略させてもらった。



山根永遠の守備


最後に山根の守備スタッツを確認しよう。90分を通し、よく走り、よくタックルし、よくブロックし、相手の前進を何度も阻んでいたことがわかる。

後半には被カウンター時に爆速で帰陣して数的不利を作らなかったシーンや、自陣ゴールライン際での競り合いに制しゴールキックを獲得したシーンもあった。

90分間守備も頑張り、クリーンシートに大きく貢献したといえよう。



守備スタッツ - 山根 永遠



山根永遠のリベンジ


ここまで山根永遠のビルドアップ・フィニッシャー・守備での活躍を振り返ってきた。

昨シーズン末に【百獣の王】大前元紀が京都に移籍し、ポゼッションの要を失ったザスパ。今季は大槻新監督のもと守備の強度を高め、早速スタイルチェンジの成果をあげたようだ。


さて、冒頭の疑問であった「なぜ山根ほどの選手が群馬に来たのか」の回答だが、

なんと、群馬以外のJ2クラブからオファーがなかったそうだ。

もしかしたら、山根のJ3での活躍を生でみていた群馬だからこそ、彼を評価できたのかもしれない。


そしてこの「群馬以外からのオファーがなかった」というのは、非常に聞き覚えのあるセリフである。

【華麗なる革命児】江坂任(浦和)や【火の鳥】瀬川祐輔(湘南)最近だと【サイドをかける七色の流聖】飯野七聖(鳥栖)など、彼らは群馬以外の選択肢が存在しなかった男たちである。

他クラブが気づかないダイヤの原石を発掘し、磨き上げ、チーム力を底上げし、(最後は泣く泣くJ1に出荷し)ザスパクサツ群馬は少ない人件費でも上手に戦ってきた。

群馬には養蚕や自動車といったものづくりの歴史があり、そういった郷土の歴史が若手の発掘・育成の巧みさに寄与しているのかもしれない。


山根永遠はまだ23歳。大卒2年目相当で、これからスターダムを駆け上がる可能性は十分にある。

彼の才能と可能性を見抜けなかった他のJ2クラブを見返してやろう。

大槻監督に率いられ、山根永遠とザスパクサツ群馬のリベンジが始まるのであった。