J2第5節、ザスパクサツ群馬は敵地フクアリにて千葉を1-0で下した。

山中惇希の技ありクロスから、平松宗が職人技のシュートで得点。今季初スタメンの2人が指揮官の期待に応えると、その後はお得意の堅守で虎の子の1点を守り抜いた。


Jリーグが公開している「2020年度クラブ経営情報」によると、2020年の千葉の人件費はJ2トップクラスの14億円。一方、群馬は2億円。

10億円の資金力の差をひっくり返したジャイアントキリングとなった


では、一体どうして10億円の資金力がひっくり返ったのだろうか。

プロ初スタメンで堂々たる活躍をした【勝利を担う熱きドリブラー山中惇希(やまなか・あつき)の役割に注目してレビューをしていく。


基本スタッツ


攻撃スタッツ - 山中 惇希



群馬、突然のスタイルチェンジ!


群馬はここまでのボール支配率は37.5%とリーグ最下位。相手にうまくボールを持たせ、カウンターを狙うチームだと思われていた。

一方、千葉は屈強な前線にロングボールを入れるのが得意で、前節の山形戦で30.6%という驚異の支配率を記録した。


このマッチは、ポゼッションが苦手なチーム同士の対戦。

さすれば、ロングボール主体で不用意なボールロストが少ない千葉が有利だよね、というのが下馬評だった。


だからザスパは勇気を持ってスタイルチェンジを敢行する。ボールを持って、相手を崩すことにしたのだ。

大槻監督からは「ボールを大切にしろ!」と激が飛び、選手たちはボールをつなぎながら必死にスペースを探す。岩上、風間の両ボランチは積極的にDFラインまで降り、FW加藤もボールを受けにピッチを上下に往復した。


なかでも、鍵になったのが左SBで先発した山中。千葉の右サイドにはスペースが空くことも多く、山中を起点に多くのパス交換が行われた。

今までとは違うビルドアップに千葉も戸惑ったことだろう。前半7分、相手がこちらのスタイルチェンジに慣れる前に、致命的な先制パンチを浴びせることに成功した。


パスソナー・パスネットワーク


参考

リーグサマリー:2022 J2 ボール支配率 | データによってサッカーはもっと輝く | Football LAB (football-lab.jp)


師匠との熱い抱擁はプライスレス


前半7分、先制点のイベントを列挙すると以下のようになる。

・FW加藤が1列降りて、左サイドで加藤天笠山中VS千葉2人という数的優位を作る。

・山中が裏に走る、風間宏希が見事なロブパス

・山中は胸トラップして、左足でニアにワンタッチクロス

・平松が飛び込んで上手に合わせる




アシストをした山中は、裏抜け・華麗なトラップ・鋭い折返しとまるでウィングのような身のこなしだった。

それもそうだ。何を隠そうこの山中、育成年代では10番をつけ攻撃的な選手としてプレーしていた。

10番タイプをサイドバックに起用して、ボールを落ち着けつつチャンスがあればPA内でも輝きを放つ。現代的なサッカーを披露してみせた。


実は、山中は浦和ユース出身。当時の浦和ユースの監督は他でもない大槻氏だ。

きっと、ユースでもこういったプレーを何度も何度も一緒に練習したのだろう。

ハーフタイムには、2人で目を合わせにっこり笑ったあと、大槻監督が山中を力強くピッチに送り出す場面も見られた。

予想外のスタイルチェンジ、初スタメンで初アシスト…今日の勝利は2人の信頼関係だからこそできたとも考えられる。

愛はお金では買えないと言われるが、プライスレスな師弟の絆で10億円の資金力を跳ね返した1日だった。


大槻監督は就任してまだ5試合。これからさらに、選手やスタッフ間で新しい信頼関係が芽生えていくだろう。その度にまた強くなり、ジャイアントキリングを繰り返すようなチームになっていくのが楽しみだ。