1点ビハインドで迎えた94分。

FKのチャンスにGK櫛引政敏が攻撃参加すると、味方の落としをシュート。

渾身のシュートは相手選手の腕にあたりPKを獲得。

キッカーを任された細貝が冷静にゴールに蹴り込むと、試合終了の笛が鳴った。


ラストプレーでキーパーのシュートからPKを獲得するという想像もできない展開で、残留にむけて大きな勝ち点1を獲得した。

今回はこの一見"ラッキー"に感じられるPK獲得について深掘りしていく。


基本スタッツゴール期待値

90分までは栃木が完璧な試合展開をしていたが、ドラマは後半アディショナルタイムに生まれた。


このゴールのポイントは次の3点だと考えている。

①GK櫛引の攻撃参加は度々行われていた

②櫛引は前節で致命的なキックミスをしていた

③ラストプレーまで勝ちにいく姿勢、それを支える監督の選手交代


まずは「①GK櫛引の攻撃参加は度々行われていた」について説明する。

ビハインドの後半アディショナルタイムにFKやCKを獲得した場合、櫛引があがるというのはこれまでの試合でも行われていた。

櫛引のシュートの場面、城和は驚くほど冷静に櫛引にパスをしていた。

PA内でもみくちゃになっている場面でユニフォームの色が違う選手にパスをするのは難しいと思うが、これまでの実戦もあり準備と予測が整っていた。


GKの攻撃参加が得点に結びつく可能性は1%もないかもしれないが、1%のチャレンジを何度も繰り返したご褒美として勝ち点を手に入れることができた。


GKスタッツ - 櫛引 政敏

キーパーのシュートについて掲載されている画像はさすがになかった

ヒートマップ - 櫛引 政敏

相手PA内でタッチしているのがシュートのシーンだ


続いて2つ目のポイント「②櫛引は前節で致命的なキックミスをしていた」について説明する。

33節の岡山戦では櫛引がパスを引っ掛けてしまい、決勝点となるゴールを決められてしまった。

前節の失敗をうけ、今節はキックの練習やイメージトレーニングを入念に行ったと思われる。

シュートという意外な形になったが、キックについての準備がさっそく役立った。


失敗を反省し、改善することで勝ち点につながった。積み上げの成果と言えるだろう。


最後に3つ目のポイント「③ラストプレーまで勝ちにいく姿勢、それを支える監督の選手交代」について紹介する。

大槻監督は最後の瞬間まで諦めないサッカーを目指していて、ビハインドのアディショナルタイムで消極的なプレーをした選手に厳しい叱咤激励を飛ばしたこともある。

1年間貫いた姿勢が、90分以降の怒涛の攻撃につながったといえる。


特に今節特徴的だったのが、89分に右SB岡本に替えてFWの深掘を投入した点だ。

これによって、前線は白石北川長倉川本深堀の5トップ+パワープレー要員畑尾で6枚が並ぶフォーメーションとなった。まさに人海戦術で栃木のゴールをこじ開けにかかった。


93分には

城和のスローイン、深堀が受けに降りてくる

→深堀のロングボールを北川が競る

→川本が北川を追い越す

→空いたスペースで深掘がフリーで受ける

→長倉へのパスがハンドになる

という流れで櫛引シュートにつながるFKを獲得しており、スーパー人海戦術が実る結果となった。

最後の瞬間まで諦めない選手たち、そしてその姿勢を体現する大槻監督の指揮が実ったといえよう。


攻撃スタッツ - 深堀 隼平ヒートマップ - 深堀 隼平

深堀は慣れないサイドでの出場となり、スローインに苦戦していた。次節への改善点といえよう



以上、一見ラッキーにみえる同点劇の裏側について、3つのポイントから紹介をした。

劇的なPK獲得の背景には、貫いてきた信念や悔しさから学んだ経験があることがわかってもらえたと思う。

「小さな努力をめげずに続けるが大事」という人生訓になるような試合でもあった。


ここまで激しい残留争いに身を置いているザスパだが、大槻監督のもとで反省と改善を着々と積み重ねてきたからこそ獲得できた勝ち点1といえるだろう。

こうして積み上げを重ねるなかで、負け試合が引き分けになり、イーブンな試合が勝利につながっていくのだと思う。

今日のような勝ち点1が集まって、10や20と膨らんでいき、やがてJ1が近づいて来る。そんな希望的観測を抱く試合であった。

毎節毎節自分たちの弱さと向き合い、ときに苦しみながら、それでも一歩ずつ前進することを諦めない勇敢なチームにこれからもエールを送りたい。