1、前置き


レビュー強化キャンペーン実施中という事で、初めて参加させて頂く事にしました。最近は、岡山戦にフォーカスを当てた記事が中心でしたので、久々の岡山以外の試合のレビューとなります。データを中心に進めて行く事になると思いますが、岡山戦と比べつつ、両チームのサッカーの武器や課題について触れて行く中で、岡山戦との違いや来るべき2巡目の戦いについても、想像を膨らませながらこの試合を振り返っていきたい。


2、基本スタッツとフォーメーション図


まずは、公式データをから。

基本スタッツ

「秋田について」

秋田サポSNSで見られたボール支配率が相手より低い方が良いという投稿が見られたが、磐田が上回っている。ということは、秋田のやりたいサッカーは、できたと考えても良いかもしれない。


「磐田について」

磐田としても風下の前半こそ苦しんだが、風上に立った後半からは、攻撃的な選手を投入や運動量の落ちた秋田陣地でプレーする時間も増えて、全てのスタッツで互角以上の数値に持っていく事ができたが、カウンターに苦しんだ。

フォーメーション図

「秋田のメンバーについて」
・ターンオーバーで32増田 繁人→50加賀 健一でセレモニーの試合に照準を合わせてきた。
・同じくターンオーバーで、33飯尾 竜太郎→3鈴木 準弥。
・後は、大きな変更が無く、疲労面以外での大きな戦力的な不安はない。
・岡山戦とは、サッカーは変わらないが対戦相手が違う秋田のサッカーは気になる。

フォーメーション図

「磐田のメンバーについて」
・変更点は、2今野 泰幸→23山本 康裕のみ。
・頼れるベテランの50遠藤 保仁と前節スタメンだった2今野 泰幸がリザーブ入り。
・気になる新助っ人29ファビアン・ゴンザレスもリザーブ入り。
・岡山戦と違い10山田 大記の持ち味がより生きるシャドーに移っている。



3、試合展開を時間帯別パスネットワーク図で振り返る

時間帯別パスネットワーク図

時間帯別パスネットワーク図

「前半0~15分」
・秋田のボール奪取後にサイドのスペースに目掛けてクリア(ロングパス)ほぼ磐田陣地での攻防が中心となる。
・磐田は、自陣でパスを回そうにも繋がらず、ボールロスト後に背後を突かれて、サイド攻撃で多くのピンチ。
・磐田は自陣でも敵陣でも1人対して、秋田の選手に複数に囲まれて、同じ人数でサッカーをできているイメージが持てない。
・前に運べない磐田を尻目に秋田はSBまで攻撃参加で、厚みのある攻撃を再三仕掛ける。


「前半15分~30分」
・秋田のプレスが気持ち程度緩くなるが、磐田の選手の体感としては変わらないプレス強度。
・加えて磐田も秋田のプレスに慣れてくるも、それでも前に運べない秋田のプレス強度。
・自分達のサッカーができない磐田に対して、秋田は、サイドから29齊藤 恵太が搔き乱してゴールに迫る。
・磐田は、秋田の切れ味鋭いカウンターに崩されていたが、GK36三浦 龍輝中心に粘り強く守る。


「前半30~45分」
・この頃には、磐田もパスが繋がる様になってきたが、同時に後ろに隙が生じる。
・秋田の攻撃の切れ味は全く落ちず、むしろ良くなったサイド攻撃を徹底。
・30分までは粘り強く守っていたが、キックオフから続けていたサイド攻撃で、秋田が先制。
・秋田の守備強度が多少下がったことで、磐田もシュートを打つシーンも増えてくるが、攻撃の形は秋田に分があった。


「後半0~15分」
・50遠藤 保仁を投入と風上に立ったことで、磐田が徐々に盛り返す。
・秋田の攻撃は、驚くべきことにサイドから攻撃の精度と回数に衰えが見えない。
・秋田の決定機は、GK36三浦 龍輝のビックセーブに阻まれる。
・磐田は、ボールが持てるようになっても、なかなか決定機を作れない。


「後半15~30分」
・29ファビアン ゴンザレスを投入し、徐々に攻撃にでていく磐田。
・一方、秋田は、多くの選手を後退で入れ替えて、運動量の維持を図るも、攻守の切り替えの速さと、守備強度が目に見えて低下する。
・秋田は、磐田の攻撃の圧を受ける中で、50加賀 健一が足を攣り、無念の途中交代。
・とはいえ、秋田の攻撃はやはり切れ味鋭く、磐田も守備に、相当気を遣っている。


「後半30~45分」
・この時間には、磐田が交代カードを使いきり、攻守共に勢いがでてくる。
・50遠藤 保仁が、バイタルエリアに常に位置し、ボールを集め、そこから持続的攻撃をしかける。
・秋田のプレスはかからなくなり、中央を固める守りの時間となる中、切れ味鋭いカウンターは健在。
・激しい攻防によりアディショナルタイムは7分に、流石の秋田も守り切れず同点になるが、そのまま試合終了。


4、データで注目したいポイント(秋田側)


エリア間パス図

「右サイドで崩す秋田スタイル」
・成功したパス本数が多いアッタキングサードの右サイドレーンから、センターレーンへのクロスが秋田の基本スタイル。
・29齊藤 恵太が上記のエリアで仕掛ける→右のニアゾーンから左のハーフスペースの空いている所で仕留める。
・22沖野 将基が、29齊藤 恵太の関係性は良好で、この2人だけで磐田の守備網は、無力化されていた。
・29齊藤 恵太へ出されるまでが速いので、パスはフリーにさせる事より、スペースで止まらせる事を意識されていた。

攻撃スタッツ - 齋藤 恵太

29齊藤 恵太の走りだすスペースにパスが出たら、パスに追いつくと、サイドから積極的に、ドリブルで仕掛ける。ドリブルの回数のデータこそないですが、相当なドリブル数を記録している筈です。もしかすると、両チームでトップのドリブル数を記録しているかもしれません。秋田の特攻隊長的存在。

攻撃スタッツ - 沖野 将基

FWの29齊藤 恵太が目立ちがちですが、近くで気が利いたサポートができる22沖野 将基は、29齊藤 恵太が作り出したスペースを活用できる視野の広さと、そこをパスやドリブル、シュートで活用できるテクニックを併せ持つ、攻撃のマルチロール。この試合でも、アシストを記録して決定機な仕事をした。

攻撃スタッツ - 茂 平

攻撃スタッツ - 輪笠 祐士

左サイドの2選手のスタッツ。驚異の枠内シュート率100%。秋田の右サイドで、巧く崩す事ができているからなせる業。2列目の8茂 平に関しては、シュートが打てなくても、トラップやセカンドボールを回収し、そこから再びクロスを入れている。サイドを揺さぶった上に、更に揺さぶる恐ろしい秋田のサイドの攻撃。ボクシングにおける左右のパンチのように、両サイドから受けたサイド攻撃の破壊力を考えると恐ろしい。攻撃スタッツ - 鈴木 準弥

右SBの3鈴木 準弥。上記の右サイドの二人が時間をかけていると、突如後ろから増援。そこからラストパスやクロスを配給。息をつく間を与えない秋田の波状攻撃。ヒーローは、ピンチの時にやってくるが、この男は、チャンスの時にやってくる。決してあざといラッキーマンではなく、判断力に優れるバランサー。


5、データで見る注目ポイント(磐田側)


ゴール期待値

「遅すぎた完全体そしてJ2最恐レベル」
・磐田が選手を投入する度に上昇するゴール期待値。
・85分辺りから50遠藤 保仁に完全支配される秋田。
・止める事が難しい反則級ストライカー29ファビアン ゴンザレス
・後顧の憂いを断つ2今野 泰幸の投入。
・ハードワークした秋田に襲い掛かった無慈悲な個の力

攻撃スタッツ - 遠藤 保仁

時間帯別パスネットワーク図

日本の誇るボランチのレジェンド50遠藤 保仁。後半からのパス数を見ての通り、途中から磐田の攻撃の心臓として非常に機能していた。特に後半30~45分のデータが顕著。奇麗すぎるデータ。このデータは、盤上に見下ろす藤井 聡太(王位・棋聖)を連想された。的確に盤上(ピッチ)を俯瞰的に捉える事で、弱い所を的確に突く手筋(パス)で攻略し、急所を見極める事で、勝機(パス)を呼び込む。それぐらい50遠藤 保仁の存在が際立っていた。しかし、50遠藤 保仁の詰める力を以てしても、豊島 将之(名人・竜王)のような壁と言える吉田 謙監督の緻密なサッカーの壁を越えられず、痛み分けの持将棋(ドロー)に終わった。

攻撃スタッツ - ファビアン ゴンザレス

秋田への組織的守備への答えは、29ファビアン ゴンザレス。如何に完璧な組織力を以てして防ぎきれない推進力(ドリブル突破)と破壊力(シュート力)。ミスを恐れず、猪突猛進で、ゴールに迫る。秋田も人数をかけて対応していたが、対応には手を焼いていた。秋田の選手は、守備に追われて消耗。三百戦錬磨の50加賀 健一ですら足を攣ってしまう状態に追い込み、土俵の外(ピッチ外)まで押しきってしまった。

守備スタッツ - 今野 泰幸

守備のスペシャリストであり、守備のユーティリティ選手の2今野 泰幸。出場時間12分で、チームのボランチにおけるチームトップタイのクリア数2。まさに海道一の弓取り。彼の抜群の危機察知能力や守備の決断力や対応力は、今川 義元を連想される。ただし、弓ではなく、ボールを奪取する。50遠藤 保仁と2今野 泰幸の関係は、まさに大原 雪斎と今川 義元の関係。今でもJトップクラスのコンビであることは間違いない。

攻撃スタッツ - 大津 祐樹

攻撃スタッツ - 伊藤 洋輝

上記3選手の陰に隠れるが、J2ではトップレベルの2人。世代こそ違うが、新旧元世代別代表の常連であったサッカーエリート。特に4大津 祐樹は、A代表に招集された経験もある。そして、この試合では、終了間際に同点ゴールを決めた。他のチームでは、スタメンで主軸クラスの選手と言っても良い。15伊藤 洋輝もMFながら驚異の188センチ。セットプレーの機会が多ければ、決勝ゴールを決めることが出来たかもしれない。


6、試合総括


完成された組織力の秋田と、圧倒的な個の力の磐田という構図で行われた試合。前評判通りの非常に見どころの多く、非常に面白かった。前半は、完全に秋田のゲームと断言しても良いぐらいで、磐田は、ほぼ何もさせて貰えなかった。後半も秋田が優位に進めていたように映ったが、後半に選手交代で、磐田がギアをあげて、本来のサッカーを展開していくようになる。質が高まる磐田に対して、秋田は、選手交代で運動量を維持して、自分達のサッカーをしようとしていたが、磐田の圧倒的な個の力の前に、打つ手がなくなった。


端的にこの試合を評価するならば、85分までは、秋田が、狙い通りサッカーを展開したが、残り5分(AT込みで12分)の間に全てを無に戻した試合と言っても良い。この時間が長ければ、秋田も耐えきれなかったかもしれない。秋田が、85分間見せた組織的機能美も、非常に良質で濃いものであったが、残り5分(12分)の磐田のサッカーは、まるでウォッカのように、胸がやけるかのように恐ろしい濃度の高いものであった。


秋田サポとしては、勝利したかった試合ではあると思うが、第三者からすれば、ATが7分あって良かったと率直に思う。それだけJ2で行われる試合の中では、見る価値があった攻防であった。秋田視点に立てば、残り5分(12分)踏ん張れば勝てた。磐田視点に立てば、85分粘ったのだから、残り5分(12分)で、逆転まで行きたかった。そういった試合であっただろう。


まさに死闘で、一種のクラシックのコンサートの曲の様に、指揮者(監督)、奏者(選手)、観客が、まさに一体となったまさに大人のエンターテイメントであった。アップテンポで力強い場面もあれば、じっとオブラートに包んで耐える場面もあった。


J2というカテゴリーではあるが、本当にサッカーの魅力の詰まった90分間であった。J1や海外に有力な選手が引き抜かれて行く中でも、J1のかつての強豪がJ2に所属し、若い世代のレベルが上がった事、Jリーグチームが増えて、Jリーグ全体のレベルの向上と層が厚くなった。そう感じさせてくれた試合であった。


有難うブラブリッツ秋田。有難うジュビロ磐田。


7、楽しみな両チームとの対戦(後書き)


「対秋田」
・前回の対戦同様にロングパスの蹴り合いを挑むべきか。
・それとも磐田のように受けて立ち、秋田の消耗を狙い最後にかけるか。
・秋田のストロングポイントである右サイドの攻撃対策(これが出来たら凄い)を行うか。
・秋田の特殊サッカーに対して、岡山も変則的なサッカーで挑むか。


どの選択をしても難しい試合になる事は間違いなく、現実的には前回の対戦同様にセットプレーにかけるのが現実的かもしれないが、20川本 梨誉の活躍や9李 勇載の復帰(可能であればだが)など、その時に無かった武器で、秋田とのホームでの真っ向勝負に期待したい。もちろん、出場機会を掴んでいる若手もより、その時には、伸びていると信じたいし、怪我の選手も戻ってくることで、この完成度の高い秋田のサッカーに、どこまで戦えるかというのは、想像するだけで楽しみである。


「対磐田」
・スペースを消す「静」6喜山 康平からスペースを使う「動」28疋田 優人にシフトした岡山のサッカーが磐田にどこまで通用するのか。
・50遠藤 保仁や29ファビアン ゴンザレスといった前回の対戦時には不在であった両選手に岡山がどこまで耐えることができるか。
・破れなかった磐田の壁が、試合を重ねる中で、攻撃にシフトしたものになっているのか、より強固になっているのか。
・いつも通りロースコアの試合となるのか、それとも点のとりあいになるのか。


ぶれない秋田の完成されたサッカーと比べて、試合を重ねる中で、個の輝きがまし、相乗効果で、強くなっている磐田のとの試合は、正直、その時になってみないと分からない部分ではあるが、磐田のホームに乗り込むという事は、磐田のサッカーが見ることが出来るという事。シンプルにサッカー好きとしては、この90分間を楽しみたいのは間違いない。出来る事であれば、磐田にも岡山にも怪我人が少なく、良い状態での対戦を見てみたいと個人的には思う。


秋田との試合では、戦術的な攻防。

磐田との試合では、個のぶつかり合い。


これが、今から楽しみである。欲を言えば、両チームとは、ベストメンバーに近い形での対戦が実現することを祈っている。そして、怪我人が多く、厳しいチーム状況である岡山であるが、できることであれば、悪い意味での精神的な負担となりかねない残留争いの渦中にいない事を祈りつつ、1戦1戦の熱戦を楽しみながら、その時を待ちたいと思う。


文章=杉野 雅昭(text=Masaaki Sugino)、図(データ)=SPORTERIA様


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