4か月の中断を経て再開されたJ1。
今回は「バトル・オブ・九州」の大分トリニータvsサガン鳥栖のレビューをしたいと思います。
先ずはスタメンを見てみましょう。
ー大分トリニーター
・開幕戦から2人入れ替え。
・井上健太がJリーグデビュー。
・新システムも噂されましたが1-3-4-3(1-5-4-1)。
ーサガン鳥栖ー
・開幕戦から3人入れ替え。
・レンゾ・ロペスは鳥栖デビュー。
・1-4-3-3(表記上)。
ー鳥栖のプレッシングと小屋松の献身性ー
この試合はボールを保持しながら試合を進めたいチーム同士の対決でした。
序盤こそサガン鳥栖がボールを握り、押し込む状況を作りましたが、
次第に大分トリニータにボールの主導権は移っていきました。
大分は後方からビルドアップを積極的に行うチームで、表記上の1-3-4-3から中盤の1人である小林を最終ラインに降ろす1-4-1-5を形成してから前進を目指します。
それに対して、鳥栖は最前線のレンゾ・ロペスには、大分の4-1-5の「1」の選手を背中で消して中央から前進させないタスクが与えられました。しかし、1枚だけでは数的不利なので、片方のIHがレンゾ・ロペスと並んで立ち、前線を1枚から2枚にすることで、大分のビルドアップを外回りにさせようとする4-4-2を形成してプレッシングしました。IHが前に出る回数は、左IHの原川の方が多かったです。
原川が前へ出た事によって、本来守るスペースは、松岡と小屋松が微調整してライン間を埋めました。特に小屋松は凄まじかったです。外回りになる事が前提なので、自分の斜め後ろにいる松本に、いつかは絶対パスが入るだろうなぁと思いながらも、先にサイドに動いてしまうと、自分の背後にいる井上へパスが入ってしまうので、中央側を閉じて、サイドへパスが出た瞬間に、全力で戻ってボールを受けた松本に対応しました(下図)。
守り方によっては、SBの内田が縦スライドして松本に前方への制限をかけるやり方もあります。しかし、そうなるとエドゥアルド→宮→森下の3人のDF陣も大きなスライドが求められて、誰かが遅れてしまうとその隙を使われてしまう可能性があります。大分はCB-SB間を突くのが非常に上手いので、尚更リスクがあります。また、内田に合わせて全体がスライドすれば、反対サイドは一時的に大きく捨てることになります。たとえば、内田が松本に上手く対応できたとして、松本が「やーめた」と→岩田→鈴木まで戻して、そこから一気にサイドチェンジをされると、チアゴ・アウベスが自陣深くまで戻って守備をしないと数的不利になってしまいますが、チアゴ・アウベスにそのタスクを与えるのは良いことなのか?と悩みます。
なので、「ごめん小屋松。頑張って戻ってくれ」ということで、小屋松が中央を閉めた所から→松本へ戻って対応というタスクを明輝監督は与えました。それによって、小屋松の負担は大きくなりますが、DFラインは前述したようなスライドをすることをしなくて済み、最終ラインの人数は保たれたので、その後の危ないスペースに先に穴を作らずに大分を待ち受ける事ができました。
その一例が13分50秒のシーンです(下図)。
⇧大分が反対サイドでボールを回していて小林→鈴木とパスが繋がったので、「よし、岩田に来るはずだから前へ出よう!」と予測して準備しましたが、鈴木に逆を取られて松本へのサイドチェンジ。前へ出たのに逆を取られてしまっているので、普通なら松本はSBに任せますが、小屋松は自分が全力で戻ります。内田も小屋松がそれをやってくれるというのは分かっているので、焦って飛び出すことなく中央に留まっています。
小屋松のタスクを象徴するようなシーンでした。
次は大分も素晴らしかったのですが、小屋松も素晴らしかった20分50秒のシーン(下図)。
⇧鳥栖は原川を一列前に上げた4-4-2プレッシング。しかし、いつもと違うのはそれ以前であれば、中盤の底にいる長谷川はレンゾ・ロペスが消していたのですが、このシーンでは松岡が後ろから監視していました。なので、松岡が本来自分が守るべきスペースの左後ろ側に若干大きなスペースができました。そこには井上がいます。平面でプレーしていて一瞬を見逃さず空いたスペースを認知しているって本当に凄いことなのですが、鈴木はその空いたスペースを認知して浮いたボールで井上にロングパスを送りました。
松岡は、そのパスに対応することはできないので、井上は前を向ければチャンスというシーンでしたが、小屋松が戻ってきて即座に奪取できちゃいました。。
ということで、この2シーンだけでも小屋松の奮闘ぶりが分かります。前半30分ぐらいまでは、9.5割小屋松が中央を閉じたところから戻って松本へ対応という作業を完遂していましたし、守備が乱れることもありませんでした。
35分30秒のシーンで、ロングパスの天才・長谷川が1発で松本へ対角のサイドチェンジを送った時は、流石に距離が遠すぎて、内田がサイドへ出て松本に対応しましたが、内田が出た事によって空いたスペースには、小屋松がちゃんと戻って埋めて使われないようにしていました。
”1-4-4-2のSH(プレッシング時)から5バックのWBに変換する本来4-3-3のWG小屋松知哉”という感じですね!
反対サイドのWGであるチアゴ・アウベスと比較しても守備に奮闘していたことが分かります(下図)。
恐らく前述したようなタスクを与えたであろう明輝監督は、小屋松の奮闘をこのようにコメントしています。
「前半ちょっと相手のウイングバック(松本)のポジションに対してリスペクトし過ぎたというか下がり気味になってしまったのだが、後半は……(後述)」
「リスペクト」という言葉を使って、小屋松が松本へ頑張って対応させるタスクを与えていた事が読み取れます。
小屋松は十分にそれを全うしていましたが、その頻度が想定より多くなりすぎて、このままだと守備が重くなりすぎるし、小屋松を攻撃で力を発揮してもらえなくなると考えた明輝監督は後半から守備のやり方を変えます。
—リスクをかけて勇敢に—
下図は鳥栖の後半のプレッシングを示しています。
⇧原川を一列前に上げて4-4-2でプレッシングすることは変わっていませんでしたが、岩田へパスが入ったときに、小屋松がサイド側の松本を消しながら岩田にアプローチするようになりました。前半は中央側を閉じて、松本にパスが入ったのを戻る対応を繰り返していましたが、後半からはサイド側を消しながらアプローチに出るという対応に変えた気がします。
その代わりに中央側が空きますが、3ラインはコンパクトを保っているので、たとえ中央に縦パスを通されても、そこで圧縮して囲い込めば良いと考えたのかなぁと思いますし、大分は慎重なパス回しをするので、岩田は松本へのパスコースを消されたら、縦パスよりも鈴木へバックパス(横パス)する可能性が高くなる事を予測して、そのパスが来たら、「1stプレス役である最前線のFWがスイッチを入れて全体も連動してプレッシングをしよう! 」と考えたのではないかと推測します。しかし、その肝となる1stプレスの最前線がレンゾ・ロペスだと対応が中途半端になってしまうかもしれないので、「じゃあ、献身的に走れる選手で!」という事で、守備のやり方を変えた後半開始から、林大地を投入したのではないかと推測します。
林の投入について明輝監督は…
「レンゾ・ロペス選手もチアゴ アウベス選手もしっかりと戦ってくれて、特にダメだったとかではなく、戦術的な意図で自分たちからアクションを起こしたいと考えて代えた」
その”戦術的な意図”というのが、前述したようなもので、”自分たちからアクションを起こしたい”のも、「前へ出ることで後ろのリスクは前半より増えるが、後ろに重くなる事を避けるには前に出るしかない→強度を高められる守備者が欲しい→だから交代!」というように私は感じました。
実際、開始直後の46分45秒のシーンでは、明輝監督の狙い通りだと思われる現象でボール奪取できました(下図)。
⇧大分の後方のビルドアップに対して、中盤の底にいる小林は、原川と林が引き渡しながらボールホルダーへプレス→岩田にパスが入ると小屋松が外を消しながら寄せる→鈴木へバックパスが入ったら林が猛プレス→鈴木はこれ以上繋ぐのは危険と判断して半ば強引に前線へ蹴る→エドゥアルドが回収。
高い位置から徐々に制限をかけて、圧力をかけていき、息苦しさを感じさせて、蹴らせて奪うという前半では見られなかったプレッシングでした。
しかし、岩田も松本へのパスコースを消されたからといって、素直に従うはずがなく、小屋松が外側を消しながら寄せる更に外側からパスを通すシーンが数回見られました。
そのときの鳥栖は、前半であれば松本への対応は九分九厘 小屋松でしたが、ボールホルダーの岩田に回避されてから、松本へ戻ることは流石にできないので、内田が縦スライドします。内田が縦スライドすることによって、空いたスペースは松岡が埋めることで背後のスペースを管理しました(下図)。この点からも前半とは守備を変えたことが推測できます。
ここで明輝監督の後半部分のコメントを見てみます。
「前半ちょっと相手のウイングバック(松本)のポジションに対してリスペクトし過ぎたというか下がり気味になってしまったのだが、後半は修正できて、守備の面では対応できた。ただ、ミスから失点するような形が2回あって、後手を踏んだような状況だった」
後半の方が上手く対応できていたとコメントしています。
それならば、「最初から後半のような守り方で良かったのでは?」という意見も出てくるでしょうが、個人的には、あれだけ奮闘してくれる小屋松には、前半のうちは献身的に走り回るタスクを与えた方が助かるし、実際に期待に応えてくれた選手なので、その頻度を減らすように、つまり、自分たちがボールを握る時間を長くできれば、または先制していたら、変えずに後半も継続していた気がします。
明輝監督の次のコメントも腑に落ちます。
Q 少し構えた時間帯もあった中で、大分にボールを持たれたことは、評価としてはどうだったのか?
A.最初からそれは狙いではあった。僕らが前がかりになることで、大分がひっくり返すことを狙っているのは、メンバーを見ても分かったので、行くところと行かないところのディフェンスをしっかりしようということで入った。戦術的なところだった。ただ、それが前半は特に裏目に出て、ちょっと後ろに重くなってしまった。
後ろに重くなったというのは、小屋松を松本に対応させたりで最後尾の枚数は担保できていましたが、今回は想像以上に大分が上手く、小屋松が動かされ続けるという想定内の最悪なパターンになっていたので、後半から人を変えて、方法を変えて勝負に挑んだのだと……ここまで推測してきた内容と重なります。
しかし、明輝監督のコメントしている通り、「僕らが前がかりになれば大分がひっくり返してくる」が現実のものとなりました。
ーカタノサッカー最大の武器が炸裂ー
後半から鳥栖の守備がより積極的で、高い位置から守備に来ていることは感じていたと試合後の選手コメントで読み取れましたが、その打開策として、高木を前半以上に積極的に使うことを大分は選択しました。
前半までの大分なら、小林が鈴木の横に降りる1-4-1-5でビルドアップをすることが基本でしたが、ゴールシーンでは、GK高木が通常小林が埋めていたポジションを埋めてパスを受けました。なので、敢えて表記にすると、0-4-2-5システムでしょうか。
ボールホルダーの高木に対して、小林はそれまで通りに降りる動きをしようと高木に近づくと、鳥栖の中盤を引き連れて、リスキーなプレーをしている高木を圧迫させてしまうので、中盤に留まりました。それによって高木は、林からプレスを受けたのは少々厄介に感じたはずですが、横からのプレスだったので、前方視界良好で、背後にロングパスを意図して蹴れて知念に渡りました。
最終的に中盤に留まった小林は、アシストした香川がクロスを上げた時点でボックス内に侵入することができていました。深読みしすぎれば、小林がボックス内に侵入していなければ、右SBの森下はそれほどボックス内に絞る必要はなく、香川にフリーで上げさせない対応ができたのではないかと思います。最後は、香川がフリーでクロスを上げて途中出場の期待に応えて田中達也がヘディングでゴールネットを揺らしました。
終盤にも田中達也がダメ押し弾となるゴールを決めて2-0。
大分は今季初得点、初無失点、初勝利を挙げました。
一方、鳥栖は今季初勝利を挙げることができませんでした。
ー総括ー
大分の強みを理解した上で、メリットとデメリットの差し引きで「メリット」の現象が出てくることを望んで、後半から勝負に出たサガン鳥栖・明輝監督でしたが、結果的には、想定していた「デメリット」の方から失点をしてしまい負けてしまいました。とはいえ、明輝監督の采配は決して批判されるものではなく、今後のサガン鳥栖を前のめりな気持ちで見てみたいと期待をもたせてくれた試合でした。
勝利した大分は、戦前の情報では新戦術がお披露目になるかもしれないと噂されていましたが、結果的にはこれまで積み上げてきたものを展開した試合でした。その中で際立ったのはGK高木。前半は守備者としてゴールを守る活躍、後半は攻撃者としてゴールへ導く活躍で、カタノサッカーにおける高木駿の重要性を再認識することができた試合になりました。
読んで頂きありがとうございました。
コメント(3)
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レッズサポ
2020/7/9 19:38
浦和のレビューもぜひお願いします!
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キャットニード
2020/7/11 16:28
私も見たいです!
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浦ビュー
2020/7/14 12:57
レッズサポさん、キャットニードさん読んで頂きありがとうございます。