『2-0は危険なスコア』という格言を聞いたことがあるだろう。

実際に2-0から敗戦する確率は3%弱で、めったに発生しない事象といえる。

参考:2-0は本当に「危険なスコア」か?(データスタジアム)

だからこそ、2-0からの敗戦は衝撃的で格言のように語り継がれるのだろう。


大宮 3-2 群馬―

群馬は完璧な前半。2点リードで折り返す。だが、後半の10分間に3ゴールを取られる。

一生忘れられない敗戦が、そこにはあった。


現地観戦しながらスマホに記録したメモを引用しながら、この試合を振り返っていく。

注:試合中のメモなので、少々乱雑な表現もあります。その点は目をつぶってくれるとうれしいです。


基本スタッツ




試合開始前

突如ライトが消灯。大宮サポがペンライトを振る。オレンジの海ができる。かっけえ。闘志と歴史を感じる演出。

何かが起こる予感はあった――。

不調の大宮だが、サポーターの一体感は抜群。試合前にサイリウムの海を作り出していた。

大宮はJ1で上位争いも経験しているクラブ。この日のような大逆転も何度も経験しているのだろう。



4分(PK獲得&先制)

小島と田中のコンビでPKゲット。小島のパス&ゴーの鋭さ。

小島の特長である出して走る動きでPKを獲得。ザスパらしい早い攻撃で先制。幸先はよかった。

ヒートマップ - 小島 雅也


27分(2点目)

天笠と加藤がいつもと逆の位置を取ってビルドアップ。追加点これは相手も手も焼くだろう。

普段は加藤が降りて天笠が高い位置を取ることが多いが、前半は天笠が組み立てに参加するシーンも目立った。

2点目はこの形から。スカウティングに存在しない形から追加点、相手も面食らっただろう。

平松は今季3点目。調子のよさをアピールした。


ヒートマップ - 天笠 泰輝ヒートマップ - 加藤 潤也


30分ごろ(PK獲得・外す)

PK外した。南すごい。でも2点リードでこの堅守ならいける。

岩上の粋なクロスから、2つ目のPKを獲得するも失敗。

「でも、2点あれば十分だろう」そんな気持ちが私にはあった。

この油断と過信が、悲劇へとつながったのだ。今はそう後悔している。


攻撃スタッツ - 岩上 祐三



40分ごろ

みんな中2日とは思えない運動量。特に小島。大宮はロングボール多め。これなら70分くらいまでは安心してみてられる。

前半は群馬の2トップが規制をかけ続け、大宮は仕方なくロングボールを蹴るシーンが目立った。

一方、こっちは平松が絶好調で、ロングボールが収まる収まる。前半は群馬のペースだった。


だが、実際に70分を終えた時のスコアは『2-3』。

「70分は大丈夫」という推定は、あまりにも甘かった。

『堅守』が一筋縄ではいかないことを、この時の私はまだ知らなかった。


攻撃スタッツ - 平松 宗



ハーフタイム(お手洗いにて)

トイレで隣のサポが「引き分けはあっても負けることはない」と話していた。同意。この守備なら大丈夫。
僕らは最高に美しいサッカーをしている、こんなサッカーが見られる幸せよ

群馬らしい速攻。献身性の高い守備。最高の45分を経験した。

実はザスパはNACK5で大宮に勝ったことがない。

このままいけば勝てる。新しい歴史を作る、強いザスパが見れる。

その期待からゴール裏は不思議な高揚感に包まれていた。


皮肉にも、『このまま』いったことでこの願いは成就しなかった。



50分ごろ(5バック開始)

後ろ5枚にしたっぽい。堅実

群馬は明確に5バックに変更。この変更によって、大宮に一方的にボールを持たれるようになる。

パスネットワークをみると、大宮が高い位置でパス回しをしていることがわかる。


エリア間パス図



5バックは千葉戦や岩手戦などで使用。群馬のゲームプランの1つだ。

だが、『いつも通り』の逃げ切りプランに『いつも通りでない』要素が加わり、試合は別の様相を呈してしまった。


岩手戦:神セーブと334型ビルドアップと18人サッカー【2022 J2第9節 岩手 0-1 群馬 レビュー】 | SPORTERIA

千葉戦:山中惇希、師弟の絆は10億円に勝る【2022 J2第5節 千葉 0-1 群馬 レビュー】 | SPORTERIA


・『いつも通りでない』左CB山中

この5バックの論点になるのは左CBの山中だろう。

山中はもともと前線の選手で、空中戦は得意としていない。秋田戦の失点も山中と長身FWのミスマッチから生まれた。

彼をCBに置いたことで分かりやすい弱点が露呈してしまったといえる。


普段5バックにする時は、空中戦もできる小島をCBに回すことが多いが、今日は消極的な采配となった。

ただ、山中はビルドアップの中心でもある。残り40分でボール保持も重視したいと考えた時に交代させないという選択肢も十分支持できる。

参考:山中惇希 2022 選手データ | データによってサッカーはもっと輝く | Football LAB (football-lab.jp)



・『いつも通りな』6バック田中

長所がかえって災いしてしまったのが、右SHの田中だ。

運動量と守備意識が魅力の田中だからこそ、DFラインまで戻ってしまい、ザスパは6バック化してしまった。

ヒートマップ - 田中 稔也


その結果、跳ね返してもセカンドボールが拾えなくなってしまう。

さらに、田中が空けたスペースを矢島慎也が我が物顔で占領。

群馬の空中戦の穴である左サイドにむけて、絶好の対角クロスを送れる状況になってしまう。


パスネットワークを見ると、大宮は前半右上がりだが、後半になると左上がり気味になっていることがわかる。

天笠山中のサイドから攻められる分には、クロスからの失点のリスクは低い。しかし、田中小島のサイドを攻略されると山中と相手FWのミスマッチという失点パターンが待っているのだ。


普段は圧倒的な運動量と献身性で守備をしてくれる田中。

しかしこの日に限っては、勇気を出して戻らない選択をするべきだった。


時間帯別パスネットワーク図



以上が5バックについての私見となる。

サッカーには様々な要因があり、一見『いつも通り』の采配がいつも通りになるとは限らない。

サッカーの難しさが身にしみる。チケット代はいい授業料だった。



60分ごろ(1失点目と2失点目の間)

運動量が落ちて重心をあげられない。交代が3人準備しているところ、プレーを切れればなんとかなるか。

不運だったのはこのシーン。1失点目のあと、大宮の長い長いポゼッションが続く。

この間に大槻監督は3名の選手交代を準備。その中には、前述の田中を下げ攻撃的な高木の投入も含まれていた。

しかし、長い被ポゼッションの末に失点。この修正が行われたのは、同点に追いつかれた後だった。

どこかでプレーが切れていれば…そんなタラレバばかり頭をよぎる。


68分(3失点目)

逆転…。また左サイドから、弱点をひたすらついてくる。これが本来の強さか。

3失点目も山中側へのクロスから。絵に書いたようなザスパの攻略法だった。


余談だが、日曜に対戦する横浜FCはこの形を得意にしている。

1トップor右シャドーの小川航基がクロスに飛び込んでくるのだ。

山中と小川のミスマッチが発生したらひとたまりもない。

日曜までにどう修正するか見ものである。


89分(城和退場)

これが今日のすべて。イレギュラーの積み重ねに対応するにはまだまだ力不足だった。

極めつけは城和の退場。プロ初のカードはレッドカードとなった。

トラップミスからタックルで退場――。

ザスパのペースが乱れたこと、それを修正できていないことを象徴するシーンとなった。



このように、『いつも通り』のゲームプランにほんのちょっとイレギュラーが混ざって大逆転負けを喫したザスパ。

毎節レビューをしているが、サッカーを0.0000001%も理解できていないと、私自身反省が多い試合となった。


しかし、反省が多いということは、まだまだ成長できるという証でもある。

最後に試合終了後のゴール裏で目撃した希望敵光景を紹介して記事の終わりとしたい。


試合終了後

ゴール裏のゲートでは社長が必死に頭を下げている。耐えきれず泣き出すサポや戦術論を交わすサポも。誰もまるで自分のことのように悲しさや悔しさを感じている。選手に怒りをぶつけるのではなく、みんな前を向こうとしている。この光景が救いだ。僕らは、まだまだいくらだって強くなれる。


僕らは、まだまだいくらだって強くなれる。