起点になるのか、走るのか、出し手のところも含めて
もう少し勇気を持つことは必要だったかなと思います。

引用元:6/18(土)長崎戦 試合後記者会見コメント(大槻監督)


前半から引いて守ってきた長崎。後半に退場者を出すと、さらに守備的な姿勢に移行。引いて守れば怖くないと言わんばかりに、ザスパ対策を実行してきた。

ザスパは6割近い支配率をほこりながら、シュート数はひと桁、期待ゴールは1点以下と相手ゴールを脅かすことができなかった。


先週の記事:【前半戦振り返り】相手のパス数が激減、対策されるザスパ【2022 J2第21節 群馬 0-0 栃木 レビュー】


『引いた相手を崩せない』というのは、サッカー万国共通の悩みである。ただでさえ個の力量が優れる長崎に全力で引いて守られたら、攻めあぐねるのは想像に難くない。

そんな相手を打ち破るためには、勇気が必要だと、大槻監督はインタビューで語る。

では、勇気と何か?勇気を持つためにはどうすればいいのだろうか?

本ブログでは、対戦相手の長崎およびAIの学習法にヒントを見出してみた。


基本スタッツ

ゴール期待値




勇気のヒントの1つは長崎の先制点にあるようにみえる。

前半10分、長崎は押し込むと、ボランチの加藤が最前線に張り出す。その加藤をボランチの鍬先が追い越しクロスをあげると先制に成功した。

加藤の動きには岩上が対応したが、鍬先は実質ノーマークでクロスであげられてしまった。

ボランチ同士のコンビネーションという珍しい形ゆえに、群馬の守備は後手を踏む形となった。


長崎の原田監督は、このコンビネーションを「アタッキングサードでの大胆さ」と表現していた。

アタッキングサードで大胆なポジショニングやパスに挑戦すること、これが1つの勇気と言えるだろう。


攻撃スタッツ - 加藤 大攻撃スタッツ - 鍬先 祐弥



群馬も大胆な攻撃がなかったわけではない。例えば、後半はボランチが裏を狙うような動きもあった。

ただ、センターバック(特に藤井)からのロングフィードの少なさは問題だと感じた。


藤井は、久しぶりの先発出場となった。昨年はロングフィードでアシストを記録するなど、長いボールを蹴れるはずだが、今節では前線で駆け引きをする高木を有効活用することができず、79分で交代となった。

参考:昨年33節、藤井のロングボールからゴールを奪ったシーン(Youtubeハイライト)


藤井のパス成功率は脅威の97%だが、パス図を見ると左右への距離が短いパスがほとんどであることがわかる。

ロングフィードがないとわかれば、守っている側も気が楽だろう。

ゴールを奪うにはある程度リスクを取る必要がある以上、高すぎるパス成功率も問題と言えそうだ。


攻撃スタッツ - 藤井 悠太パスソナー・パスネットワーク



思うに、ザスパの選手は練習した形を試合で再現することにこだわりすぎているのでないか?

ザスパはこれまで見事な崩しを披露し、スタートダッシュに成功した(例:山形戦・千葉戦・水戸戦)。その成功体験もあり、練習した理想形を再現できれば勝てるという思いがあるのではないだろうか?


シーズンも半分が経過。相手もザスパを研究し、ザスパの崩しを再現させないよう対策をしてくる。その中では、大胆さやアドリブから奪うゴールも必要になるはずだ。



では、勇気をチームに実装するためにはどうすればいいのだろうか?最後に私見を述べる。


練習段階から勇気(大胆さ)を一定以上披露する、というルールを設けるのはどうだろうか?

例えば、10タッチに1回は普段しないプレイをする。といったものだ。

これは、練習での準備を試合で表現するという、チームのスタンスを乱さずに勇気を増幅することができる。


このアイデアは、AIを支える技術(ここでは強化学習のことを指す) であるε-greedy手法(イプシロン)にインスパイアされている。

AIは最適な行動を学ぶ際に、一定確率(ε%)でランダムな行動を取ることで、局所的な最適解に陥らないように学習することがある。

人間で例えるなら『普段はA定食が一番美味しいと思っていたが、きまぐれでD定食を頼んでみたらD定食のおいしさに気づき、D定食が好きになった』といった感じである。


サッカー選手も、一定確率(ε%)で普段しない大胆で意外なプレーをすることで、新しい答えにたどり着くことがあるのではないかと思う。

そして、このε%を練習段階から設定することで、試合で意外性の高い動きが創発され、引いた相手を崩すアイデアにつながればと思う。



本記事はここまで。

なんとか勇気を持てるようになって、引いた相手に勝てるチームになれるか。ザスパの歩みと伸びしろに大きな期待をしている。