シュートを20本近く浴びるも無失点でしのぎ切り、虎の子の一点を守り抜いた。

ロングボールを多用して陣地を回復し、数少ないチャンスを決めきるという試合展開は秋田が得意とするもので、まさに「相手のお株を奪う」という言葉が似合う一戦だった。

ザスパの選手の気迫のこもった守備が目立つ今節だったが、その気迫の裏にはどのような背景があったのか、自分なりに読み解いて行こうと思う。


基本スタッツ



畑尾の不在と大きな決断


今節の大きなターニングポイントの1つは畑尾の不在だろう。畑尾は守備力はもちろん、両足を使ったフィードにも優れる選手だ。

CBは川上と藤井という今季初コンビ。城和畑尾ほど足元は得意ではない。GKの山田も3試合目の出場と連携に課題に残る。

ここでチームは大きな選択を迫られることになる。ボール保持場面で、無理やりにでもつなぐか、思い切って前に蹴るかという選択だ。



フォーメーション図

ゴール期待値



蹴るという選択肢を取った場合は、秋田と完全なミラーゲームを行うことになる。

ただ、ザスパにも勝算があった。

それは、川上が空中戦が強く藤井がアジリティに優れ、2人の相性がよい点だ。細貝や岩上、小島や岡本もロングボール合戦についていける体の強さをもっている。

今いる選手や相性を考慮して、ザスパは蹴るという選択を選んだ。


そして、川上はクリア15という尋常じゃないスタッツを残し、藤井タックル・ブロック・こぼれ球奪取で優れたスタッツを残した。

また、シュートを20本近く打たれたものの、48分のポスト・シュートブロック×2の場面を除いて各シュートの期待ゴールは少なく、危険なシュートを打たせないよう最大限努力していたとも評価できる。

即席CBコンビの硬さに、秋田も驚いていたことだろう。


守備スタッツ - 川上 優樹守備スタッツ - 藤井 悠太

ゴール期待値



相手を押し込ませる巧みさ


蹴り合いのミラーゲームのなかで光ったのが、岩上と細貝の巧みさだ。

両チームのボランチのヒートマップを比較すると、ボールタッチ位置に如実な違いが現れている。

秋田の2ボランチ(稲葉・藤山)は相手陣内でのタッチが多い一方、岩上・細貝は自陣内でのタッチがほとんどとなっている。


岩上・細貝がこの位置で受ける→裏のスペースが広くなる→川本・高木の裏へのランニングが活きるという流れになっていた。

一方、秋田はこれだけ押し込んでしまうと、逆に、速くて強い攻撃陣を活かしづらかったのではと考えられる。

岩上細貝を中心とした抜群のラインコントロールで、相手の強みを封じたと言えるだろう。


ヒートマップ - 稲葉 修土ヒートマップ - 藤山 智史


ヒートマップ - 岩上 祐三ヒートマップ - 細貝 萌




秋田にとって、ロングボール応酬になることや押し込む展開になることは想定外だったのではないか。

たしかに、前回対戦は群馬が押し込む展開となっていた。ただ、今回はコロナの影響でチーム事情がかなり異なっている。

選手が大幅に入れ替わったことで、相手のスカウティングを上手にかわすことができたと考えられる。怪我の功名といえよう。


基本スタッツ


迷いのないスローイン


最後に、得点シーンに触れておこう。

得点シーンでは、川本や高木がうまく相手を動かすことで、秋田のゴールをうまくこじ開けることができた。

特に、小島があまり時間をかけずスローインをした点は、前節の反省点を見事に改善したと言えるだろう。

ゴールを決めた田中も試合後のインタビューで「あの形は監督からも言われていた」と語っており、反省・改善・準備したものをピッチで表現するという大槻サッカーの真髄が伝わってくるようなシーンだった。

前節:アクチュアルプレーイングタイムは衝撃の41分。素早いリスタートでもっと試合を動かそう【2022 J2第36節 群馬 0-0 琉球 レビュー】 | SPORTERIA


今節は「主力選手の不在」というピンチを「スカウティングをかわす戦い方をする」というチャンスにうまく捉え直して勝ち取った勝利だった。

ギリギリのシュートブロックを何度も披露するなど”気迫”で上回った試合だが、その気迫の裏には確かな計算と1年の積み重ねが見え隠れしている。

あと5試合、日頃の準備を信じて戦うザスパがどのようにシーズンを終えるのかが楽しみだ。