3313という珍しいフォーメーションを用いて、選手が流動的に動きながら幅を使うサッカーの完成度は高く、見ていた私も感心しっぱなしの90分だった。

熊本はこの勝利で昇格プレーオフ圏内を確定。なんと、クラブ史上最高の順位も確定させたそうだ。


思えば、群馬と熊本は2019年にJ3で昇格を争ったライバルで、昇格争いを制したのは群馬だった。

その後、熊本は2021年までJ3ですごし、今シーズンからJ2に復帰。快進撃を続けている。

この3年間で、ずいぶんと差がついてしまった。それが残酷にも可視化された惨敗となった。


ザスパの最高順位は2011年9位(20チーム中)。この年以来、トップハーフには入れていない。

J1に近づくという視点では、クラブの時計は10年以上止まっている。

では、一体どうすれば強くなれるのだろうか。1ステップ上にあがろうとしている熊本から学んでいこう。


基本スタッツ



38分の交代劇


この試合の象徴的なシーンとして、38分の平松→北川の選手交代があげられる。

前半はプレスをいなされ、押し込まれる機会が多かった。その結果、ロングボールを蹴っても裏に蹴るような形になり、平松が前線で体の強さを発揮できる機会が少なかった。

だったら、動きながらボールを収められ、プレスも得意な北川に交代するという意図だろう(平松のパフォーマンスが悪かったわけではない)。



攻撃スタッツ - 北川 柊斗攻撃スタッツ - 平松 宗


北川は期待通りの活躍だった。ライン間やラインの裏でうまくボールを収め、セットプレーの流れから今シーズン初得点を決めた。

守備でも、1人で菅田・イヨハ・河原の3人をうまく牽制した。後半の序盤は群馬が惜しい場面を数度つくり、40分から60分は群馬の時間だったといえる。


ただ、前半の2失点によりゲームプランが大きく崩壊した。やはり、選手によって可能・不可能がタスクが大きくことなることは、今年のザスパの問題点といえるだろう。



フォーメーション図



熊本は弱点を的確につく、その裏にある積み上げ


後半の勢いで追いつけるのではないかという淡い希望は、66分の三島のゴールで打ち砕かれる。

三島は右WBで出場していたが、この場面ではまるでトップ下のような位置でシュートを決めた。


ヒートマップ - 三島 頌平


実は、群馬は流動的なポジションチェンジに弱く、PA内にいる意外な選手に対応が遅れることが多い。例えば、長崎戦ではボランチ同士のオーバーラップに破壊されたこともあった。

熊本はこの弱点を的確についてきた。1点目は左ウィングの坂本が右に移動するかたち、4点目は左WBの竹本が右で起点を作り、ゴールにつなげた。

局所的に数的優位で群馬の守備を破壊するという、熊本のスカウティングが見事だった。さらに、それを実行できる選手もお見事だ。


参考:長崎戦

勇気について考えてみる。求められるイプシロン%の大胆さ【2022 J2第22節 長崎 2-0 群馬 レビュー】 | SPORTERIA

ヒートマップ - 竹本 雄飛ヒートマップ - 坂本 亘基

ヒートマップをみると、中央や逆サイドでもボールを触っていることがわかる。



なんとこの試合のパスネットワーク図をみると、左WBの竹本と右ウィングの杉山の間にコネクションがみられる(薄い線だが)。熊本の選手がいかに流動的に動いていたのかが、察せられる。

では、熊本の選手はどうしてここまで流動的に攻撃をし、守備も安定しているのだろうか。


一番は、積み上げの大きさだろう。

熊本は2020シーズンから大木監督が指揮をとり、河原高橋黒木菅田杉山といった主要選手はJ3から一緒にプレーをしている。3バックを3年継続しており、ポジションニングも阿吽の呼吸で行えるのだろう。



パスソナー・パスネットワーク



もとめられる積み上げ


やはり、チームが長期的に強くなるためには、確固たるチーム方針を持って積み上げを重ねるしかないと私は思う。

それは同じ監督・選手で継続というよりも、チームとしてやりたいサッカーに方針が必要だということだ。

Jリーグを広くみると、監督が変わってもチームの方針が変わってないチームは強い印象がある。新潟はアルベル監督が整備したサッカーを松橋監督が発展させ昇格を決めたし、マリノスはマスカット監督に変わっても相変わらずの破壊力を見せつけている。


ここ数年のザスパは、監督とともにサッカーの方向性が大きく変化している。ポゼッションを極めて重視した奥野監督→ラインを下げてディフェンスを重視した久藤監督→バランス型の大槻監督という流れだ。

強くなるためには、監督・選手が変わっても継続される”クラブらしさ”が求められている。

クラブ公式は『フォーメーションは442・ポゼッションを大切にする・たくさん攻める』と公言しているが、後ろの2つは当たり前のことだしフォーメーションで全てを語れるわけでは無い。つまり、もっと深いビジョンが欲しい。

例えば、たくさん攻めるのでも、運動量を武器にするのか・ショートパスを武器にするのか・トランジションを武器にするのかでも、戦い方が大きく変わってくるはずだ。

(もちろん、サポーターに公言しないだけでビジョンがあるのであれば問題ない)


ザスパの問題点


そして、チームとして方針が固まれば、選手の獲得方針も自然と決まってくるはずだ。

現在のザスパはスカッドに大きな問題を2つ抱えていると考えている。

1つ目は、一芸に秀でた選考に傾き選手によって可能なタスクが大きく異なること

2つ目は、奥野監督と大槻監督で選手起用が大きく異なることだ。


1つ目については、平松→北川の交代で紹介した通りだ。

ザスパの選手は、一芸に秀でる選手が多いが(例:スプリントなら誰にも負けない深堀)、だからこそ任せられるタスクが大きく異なり、チームとして決まった形やルールをつくることが難しくなっている。

たしかに、一芸のおかげで後出しジャンケンで勝利できた試合もある。ただし後出しをする前に決められてしまった多くのあるのも事実だ。


2つ目については、例えば、中山雄登は2113分→23分、久保田和音は1848分→347分と大きく出場時間を減らしている。二人ともボールの扱いには長けるが、守備タスクの面で大槻監督の求めるものを表現できていないと考えられる。

決まった人件費で勝ちたいと思うのならば、これはかなりもったいないことだ。

クラブ全体として、補強に方向性があれば、このような悲劇を回避できる可能性があがると考える。



以上長くなってしまったが、惨敗に終わった熊本戦と、その裏にある背景について考察を行った。

J3で切磋琢磨した熊本との差はあまりにも残酷で、だからこそ考えることや気付かされることも多くあった。

とても悔しい試合だったが、「この負けがあったからこそ今がある」と数年後・数十年後に思えるような1試合になってほしいと思う。

我々も熊本のように、クラブの時計の針を進めることができるのか、その歩みを見守っていきたい。

そして最後に、積み上げてきた素晴らしいサッカーを披露してくれた熊本に敬意を示したい。