引分以上で残留の大事な試合を快勝で飾ったザスパ。

これまで勝利は全てが1点差だったが、シーズン最終盤に来てようやく得点を積み重ねることができた。

今回は試合について簡単に振り返り、(1節を残しているが)大槻監督の1年を評価していこうと思う。なお、評価項目は某有名シミュレーションゲームを真似て「統率・武勇・知略・政治」の4項目とした。


基本スタッツ


この試合では約2ヶ月ぶりに長倉が復帰、トップには北川が起用され運動量に優れたスターティングメンバーとなった。

エリア間パス図をみると、岩手は押し込んでいるもののサイドでしか前方にパスをできていないことがわかる。セットプレーから1失点はしてしまったものの、しっかり中央を固めていたことがうかがえる。


フォーメーション図エリア間パス図


攻撃陣は大爆発。1,2,4点目はセットプレーから、3点目は長倉の抜け出しから、5点目は平松がゴラッソを決めた。

攻撃のポイントを1つあげるとすれば長倉・高木の両SHが常に裏を意識していた点だろう。岩手は得点をしなければいけない状況、かつ3バックなので、サイドのケアが難しい状況にあった。長倉が帰ってきたことで、両方のサイドで縦への強さを引き出せたことも大きかっただろう。


では攻守両面を簡単に振り返ったところで、大槻監督の評価に移っていこう。


攻撃スタッツ - 高木 友也攻撃スタッツ - 長倉 幹樹



統率:極めて優れていた

残留という劇薬に惑わされない


チームを統率する能力は極めて優れていたと感じた。特に11戦勝ちなしの状況や降格圏に入った状況でもチームの士気は常に高く、チームや選手の不満が漏れ聞こえてくるようなことが無かったことは、大槻監督のモチベーターとしての能力の高さを示している。


「残留争い」は劇薬だ。降格がちらつくと、フォーメーションや選手起用を替えて大勝負に出るチームもあるが、ザスパは年間を通してマイペースを貫いた。地道にコツコツ強くことを継続できた点は、きっと来年以降の成果につながるだろう。


市場価値を高める選手起用


大槻監督の特徴として選手の長所を見極め選手がうまくみえるようなサッカーをする点があげられる。その結果、選手の市場価値が高まるようなサッカーができていた。

一番の代表例は山根永遠(横浜FC)だろう。得点力を期待され加入した山根だが、キープ力や推進力を買われてSHやWBで起用されるとみるみる頭角を現し、半年で上位クラブへと移籍していった。ザスパ以外からオファーがなかった山根が来年J1でプレーすることになれば、これは奇跡のようなステップアップで、大槻監督との出会いが全てを変えたといって過言でないだろう。


参考:山根永遠のリベンジ【2022 J2第1節 群馬 1-0 山形 レビュー】 | SPORTERIA


山根の他にも、今年は若い選手が次々と躍動した。城和岡本山中天笠奥村山田長倉…彼らの活躍の背景には大槻監督の綿密な準備と計画があったと感じている。

例えば、もはや不動のレギュラーとなった岡本一真。実はシーズン当初から、岡本をリーグ戦でフルタイム起用できるよう着々と準備を進めていたのではないだろうか。岡本は高卒ルーキー、しかも運動量の必要なサイドバック。プロの速さや強度についていけるようまずは練習に集中させ、天皇杯で少しずつ慣らし運転をして、90分出場できる土台を少しずつ整えたのではないだろうか。結果、岡本は14試合連続スタメン、630分連続出場と失速することなくパフォーマンスを維持している。浦和のアカデミーで多くの選手を育てた大槻監督だからこそ、長期的目線で選手がうまくなるよう指導できると推測している。


攻撃スタッツ - 岡本 一真

参考:18歳岡本一真が驚異の守備力を発揮【2022 J2第28節 山形 0-1 群馬 レビュー】 | SPORTERIA


群馬にいくと市場価値があがるよ!と評判になれば、アマチュア選手やレンタルでの選手獲得でも有利になっていくはずだ。大槻監督の手腕があれば、群馬でプレイしたいと言ってもらえるようなチームに少しずつなっていくのではないだろうか。




武勇:不十分な点があった

PA内に入る人数や流動性の少なさ

続いて、武勇について。年間を通して守備は安定していたが、得点はここまで35点とJ2で下から2番目となっており、攻撃力不足は否めない。

攻撃力不足の要因としては、PA内に入る人数が足りていないことポジションの流動性が欠けているだろう。ただし、大胆な攻めをしないことで手堅く442のブロックを築けていることも事実だ。


多分、大槻監督は得点力が減ることは百も承知で、大胆な攻めを抑えているのだろう。

どのタイミングでダイナミックな攻撃をするか、どうやってリスクを取るかが来年以降の課題といえるだろう。

ちなみに今節では長倉高木があえて中央でボールを握ることでチャンスになる場面もあった。このような意外性のあるポジショニングをチームにうまく組み込んでほしいと思う。


ヒートマップ - 長倉 幹樹ヒートマップ - 高木 友也



知略:実力を発揮できない場面もあった

選手層や怪我の多さに悩まされた

知略については、まずはじめに、大槻監督が実力を発揮する以前の問題が多かったことを最初に触れておこう。

具体的には、再現性を維持するだけの選手層がなかったり、コロナや怪我で選手が離脱したりして、物理的に選手が足りなかったということだ。知略ではどうにもできない場面が多々あった。


参考:突き付けられた練度の差。ザスパに何が足りないか、チーム運営を考える【2022 J2第40節 熊本 5-1 群馬 レビュー】 | SPORTERIA

参考:乱れるラインコントロール。教育者としての流儀が甘さになってしまった日【2022 J2第38節 群馬 1-6 山口 レビュー】 | SPORTERIA


準備が当たれば極めて強い

戦術家として名を馳せている大槻監督だが、やはり準備した形が決まった時は最強だった。

山形にシーズントリプルを決めたり、天皇杯で浦和を倒したり、自分の形をもったチームと戦う時はめっぽう強かった。

プレッシング・カウンター・ポゼッションからの崩し、これをチームに根付かせるスピードは速く、シーズン当初は破竹の勢いで勝ち点を積み重ねた。

特に1節や5節などでみせた崩しは芸術点も高く、来年もああいったゴールをみたいものだ。


参考:山中惇希、師弟の絆は10億円に勝る【2022 J2第5節 千葉 0-1 群馬 レビュー】 | SPORTERIA

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また、相手の強みを消すのもうまかった。シーズン終盤までは大量失点も少なく、相手ごとに442の守備ブロックをうまく調整していた。ここ最近の大量失点の印象が目立つが、シーズン全体でみればとてもよく守れていただろう。

やはり、相手の強みを消しつつ自分の強みを活かすのは至難の業で、1点差で負ける試合が14試合あった。ただ、それらの負けは本間至恩や山本理仁といったJ2にいるべきではない選手に破壊されたものもあり、これは仕方ないと割り切ることもできた。


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準備したプレー以上のものを出せない

相手を研究し綿密に準備するという特性上、準備ができていない状況への対応は苦手に見えた。

ポゼッションを得意とするチームがロングボールを蹴飛ばしてきたり、退場で相手が10人なると逆に攻めあぐねたりなんて試合もあった。


サッカーにおいて全てを準備することはできないので、想定外の事象にどう対応するかというのが来年の課題になるだろう。分析やデータを捨てて、サッカー選手の本能剥き出しで戦うシーンが見られるのか楽しみだ。


参考:攻撃データ振り返り:攻撃回数と枠内シュートが激減【2022 J2第26節 群馬 0-2 町田 レビュー】 | SPORTERIA

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政治:この上なく優れていた

群馬にプロサッカーを根付かせるために

最後の評価項目は政治だ。

大槻監督は目の前の試合だけでなく、クラブの発展ために尽力してくれた。ザスパがもっと地域から愛され、必要とされるクラブになるための行動を惜しまなかった。

群馬は高校野球や高校サッカーなどアマチュアスポーツは盛んだが、プロスポーツにお金を払うという文化は根付いていない。であれば、文化を育てることから始めようと、大変な役割を責任感を持ちながら担ってくれたようにみえた。


毎節印象に残っているのは懇切丁寧な試合後記者会見コメントだ。コメントでは大槻監督が自身のサッカー観を常にオープンにしてくれて、サッカーをより広くより深く味わうことができる。間接的ではあるが、サポーターと監督が対話できるような貴重な場ともいえる。

際どい判定や選手の重大なミスがあった場合には、その審判や選手にリスペクトを示す場面もみられた。悪者探しをするのではなく、サッカーを楽しもうというメッセージが伝わってきた。


せっかくなのでオススメのコメント3選を紹介する。1つ目は今節の岩手戦、シーズンを通しての努力と選手への感謝に溢れていて素敵。2つ目は前々説の大宮戦、審判へのリスペクトはもちろん、きれいにオチまでついている。甲府戦は一番のオススメ。苦しいチーム状況のなかでスポーツの価値について言及し、応援と理解を求めた。監督の魂の叫びが伝わってくる内容だった。


参考

10/16(日)岩手戦 試合後記者会見コメント(大槻監督) – ザスパクサツ群馬 (thespa.co.jp)

10/1(土)大宮戦 試合後記者会見コメント(大槻監督) – ザスパクサツ群馬 (thespa.co.jp)

7/30(土)甲府戦 試合後記者会見コメント(大槻監督) – ザスパクサツ群馬 (thespa.co.jp)


また、大槻監督はボールボーイや設営ボランティアの方に挨拶をすることもあるという。

選手、スタッフ、スポンサー、ファン・サポーターと全方向に溢れんばかりのリスペクトと愛情を込めているのが伝わってくる。



総合:2年目の飛躍に期待

よき先生として

ここまで大槻監督と歩んできた1年間を振り返っていった。就任直後は『組長』のイメージも強くコワモテな印象があったが、蓋を開けてみれば生徒を教え導く先生のような監督だった。

統率と政治に非常に優れた監督で、選手の市場価値を高める点と群馬にプロサッカーを根付かせるために尽力する点で今のザスパにもってこいの監督だったと捉えている。

シーズン開始当初の目標である勝ち点50に届かったなかったものの、これだけ怪我の離脱があるなかで、自身のサッカーを貫き1試合あたり勝ち点1ペースを保ったことは評価されるべきだろう。

来シーズンは、今年よりも監督好みの補強ができるだろうか、その場合は知略にも期待していきたい。


次節の水戸戦で勝利すれば、北関東ダービーの優勝が決まる。タイトルを手土産にして、この充実したシーズンの締めくくりとしたいものだ。